表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン が あらわれた  作者: 黒白のアレ。
ダンジョンマン
65/67

ep58:さァ、笑い声を響かせろ。


 自分の意志に関わらず、身体が勝手に震え挫けてしまう感覚。


 言葉でこの感覚を表すのなら、きっと。


──恐怖。


 あぁ、これだ、これだった。

 これは……恐怖している感覚だ。


 久方ぶりの感情に、震えと冷や汗が止まらない。


 ……それと、この口も。


 無意識に歯を剥き出しにしていた口を、右手で覆う。


 そのまま震えの止まらない左手を無理やり動かして、震えの止まらない足腰を押さえつけるように左膝へ──短剣を突き立てる。


「……ッ」


 じわりと滲み出す痛みが、この震えを、抑え込めていく。


 こうでもしないと、収まらない気がした。

 この、恐怖の感覚は。


 ……本当に、久しぶりだ。


 口端が、捻れていく。

 怖い、はずなのに。恐ろしくてたまらないのに。


──笑みが、堪えきれないよ。


「あはァ……♪」


 小さく、声が漏れ出す。


 これを初めて感じたのはいつだったか。

 今でも鮮明に、あの日の、あの時、あの瞬間の絶景を、思い出せてしまうよ。


 拍動する心臓の音が、よく聞こえる。

 血が血管を巡る感覚も、身体の中で軋む骨の音も。

 全てが感じ取れてしまうほどに──恐ろしい。


 誰も、声を上げることすら出来ていない。

 息を吸い、吐く動作すらも、その一つが命を左右してしまうかのように感じてしまう。


 体内を蠢く魔力すらも、いつもはうるさいくらいに元気だったのに、今だけは、死んでしまったかのように静かだ。


 ……あの赤色が、目に浮かぶ。


 軽々しく地をかち割る斬撃の光景が。

 叫び声一つで、生物を殺せてしまうほどの、あのけたたましい雄叫びが。


──心臓を突き刺すような、殺意が。


 赤鉄の大剣。

 あの姿形を、ありありと、鮮明に、一寸の誤差もなく、思い出せてしまう。


 ここまでに、大体20日ほど。

 何十もの階層を移動し、その度に魔物を殺し尽くして……そしてレベルを上げて、ここまで来た。


 ダンジョン──最深部。


 噂でしか聞かなかった。ネットの画像でしか見ることはなかった。語る誰かの声でしかここを感じたことはなかった。


 それが……今は目の前にある。


 出来る限りの安全は、確保してきたつもりだし、このダンジョンという空間で出来うる限りには、休息を怠ることはなかった。


 それでも、十全ではない。

 この環境下では、十全であることは殆ど不可能に等しいのだろう。


 それでも、もう挑むしかない。

 退路は、絶たれているのだから。


 灰色の草原がどこまでも広がっていて、端も見えない地平線。

 太陽の代わりみたいに、空に浮かんでいた光の球は、天を穿つ程に巨大な黒色の樹木に、串刺しにされている。

 周りを囲むのは、白く濁る水晶の柱。


 その、中心部。

 そこに、それはあった。

 ただ一つ、佇んでいた。


 氷塊のように、水色に煌めく結晶。

 その中に、まるで封印でもされているかのように。


 この肢体は、明らかにボクよりも大きく、そして人間的でない、灰色の肌に覆われている。

 白色の長髪に、瞼を沿う白のまつ毛は、今も閉じられていた。

 そして特筆すべきは、その長い耳。


 幻想的で、恐ろしくて、目を疑うほどに異様な景色。

 ボクも、そして探索隊の皆も、微動だにしない。


 否、出来ないのだ。

 少しでも動いてしまえば、この停止した空間が、動き出してしまう気がしたから。


 けれど、そんな静寂は、束の間の平穏は、意図も容易く壊される。


──ピシリ。


 …………。


 ……いま、罅入ったよね。


 メタ的思考とでも言うのかな。

 薄々勘づいてはいたけど、やっぱりこうなってしまうようだね。


 様式美、という点では、完璧といってもいいだろう。

 そう考えるうちにも、罅は徐々に広がっていき、先程よりも指の位置が僅かにズレている。


 このまま行けば、空想の演出だったはずのものが現実となる。



 …………。



 ……ただね。


 たださァ──




「──完璧な様式美っていうのも、面白味には欠けてしまうよねェッ!!!」

「ふはっ、アハハハァ!!」


「おいっ、バカやろ──」


「は、え? は? 待っ──」


「リズムなんて崩してしまおうかァ!? ここはゲームの世界じゃないのさ!」


 直前、耳長の結晶は砕け切り、その瞳が開かれて──


『──我が名は……え? あ、ちょっ、待っ──』


「──インパクトォォォ!!!!!(2回目)」


『グアァァァァ!?!?!?』


 悲鳴が如き絶叫が、端の見えない最深部を響き渡る。

 幾つもの死線を潜り抜け増え続けた全魔力を一点に集めた、全力自爆特攻。


──直後、階層中心部より、階層全体を揺るがす程の爆裂が鳴り響いた。



◇◆◇



 ポツリと、早瀬が俯きながらに。


「……これでは、怯えてた私がバカみたいですよ」


「……あはは、まあ何はともあれ緊張は解けたんだしいいじゃないか。戯楽くんだけじゃ流石に危ないし、俺達も行こう」


 身体をほぐしながら、タケっちは後ろのメンバーに声をかける。


「……それもそうか。さあ、行くぞ」


 いつも通りの平坦な声で、銃を構えた橘は走り始める。


「隊長の言う通りだなぁ! おい、直人! 小鳥遊! お前らも早く行くぞ!」


 パツキン野郎こと、相馬蓮は二つの剣身を露にしながら、後方二人組へと、叫び声に近い声で、呼び掛ける。


 そんな彼に……あるいは、あの異常者《愚道戯楽》に、二人は。


「……はっ、はは。凄い? 新人が入ったな。えぇと、小鳥遊さん。俺達も行こうか」


「……わ、私、動こうと思うことすら、出来ませんでした……」


 度重なる成長で少しは強化された電気の小人を周囲に展開させつつ、根暗直人はしっかりと前を見て走り出す。


 小鳥遊日和は、少し顔を俯きながらに、爆心地へと進み出した。



「ふふっ、フハァ! アハハハハハハ!!」


 階層中に、愚か者の狂笑が響き渡る。

 貰い物の瞳くらいしか特別な力を持たないはずの、ただの愚か者。


 なのに、そんなはずなのに。

 愚道戯楽は、一番楽しそうに笑っていた。



────────────────────

ep58:さァ、笑い声を響かせろ。


何だかんだ頭おかしいヤツ書いてる時が一番楽しいんですよね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ