ep54:U-Item
何度目かな、これ。
少なくとも、両手の指では数え切れないだろうね。
何回、何十回……いや、三桁はいってるかなぁ。
視界に映るのは、筋繊維と血管が締まりの弱い俵の束みたいに、幾千、幾万に裂かれたボクの右腕。
淡い光に当てられて、再生? とは言い難い、変な形での修復が為されている。
うーん、いくら楽しかったからとはいえ、あの、『インパクトォォォ!!!』は流石にやりすぎたのかな。
……まぁでも、あれでホブゴブリンは物言わぬ骸となった訳だし、モーマンタイ。
のーぷろぶれむってやつなのさ。
それに、楽しかったし。
結局楽しければ全てよしなのだ。
まぁその分、彼女が割を食う訳だけどね。
目の前には、疲れたような顔をしながらも、精一杯の集中で、自身のスキルを行使する、茶髪の女。
ひよりんこと、小鳥遊日和。
パッと見では、外傷の一つも見られないわけだけど、ボク達と彼女では、そもそも役割が違う。
橘やタケっちに守られたあとは、ヒーラーである彼女の出番だ。
橘やタケっち以外にも、直接魔物に相対した、早瀬にパツキンに、そしてボク。
それに加え、2週間分ほどの、疲労。
その点を考えれば、レベルアップの機会が一番少ないであろう彼女は、ボク達以上に苦労しているはずだ。
実は一番の功労者となるのかもしれないね。
……もう一人、守られていた人もいるけど。
視界の端。
少し遠くで、魔物の解体や、所持していた物品の回収を手伝っているのは、猫背フードの男。
この探索隊の、索敵兼後方支援役、根暗直人がいた。
……なんか、ゲームやりたくなってきたなぁ。
なんて。
未だ修復しきらず、血を垂れ流す過去一グロテスクな右腕を見ながら、ぼんやりと、そう考えた。
◇◆◇
U-Item。
それは、未知の……なんだっけ。
なんか未知が云々の何か、というのだけ覚えているけど、ほとんど記憶がない。
うーん? 確かちゃぶ台を前に、機関銃の銃口を突きつけられながら、あの筋肉ダルマに教えられた気は、するんだけどね。
やっぱり、思い出せない。
分からないことは、いくら考えようが無駄なのだ。
そう、心の中で言い訳しつつ、隣にいるタケっちへ、口に手を当てつつ、小声で話す。
「ねぇ、U-Itemってなんだっけ(こそこそ)」
「……戯楽くん、教えられたんじゃなかった──ああ、いや……忘れたんだな」
あの心優しいタケっちが、一瞬呆れたような顔をするという貴重な光景を目にして、ちょっと驚く。
タケっちは、特に気にした様子も見せず、ボクに教えようとして──
──肩に手を置かれる。
「……は、ははっ、なんて面白い世界なんだゼ、ベラバブラゼミロレロレロ」
顎と唇が、高速振動する。
誰かが、背後にいる気配。
肩に置かれた手が、その気配が、その人物が誰なのかを、瞬時に理解させる。
心の臓が激しく跳ねて、つま先から腰あたりまで、震えが波立つように、ガクブルと。
思わず声が狂うのも、無理はない。
「……愚道戯楽。"二回目の"授業を始めるぞ」
耳元で、微かに漂う火薬の匂いとともに、声がする。
平坦で、酷く冷たい、男の声。
「佐藤タケシさん、今まで、ありがとうございました(超清廉潔白な声色)」
「隊長、お手柔らかにね」
ボクの態度を一瞥して、瞬時に目を逸らした後、軽く笑いながら、タケっちは言葉を吐いて、ボクから離れていく。
そんなタケっちに、後ろの人物は。
「申し訳ないが、徹底的にやらせてもらおうか」
申し訳なさなど微塵も感じさせない平坦な声で、そんなことを抜かしていた。
……はっ、ハハハ、へはははは。
◇◆◇
U-Item
これは、未知の道具を意味する。
正式名称は、|Unknown Item
決定直後は、大批判の嵐……特に、空想と妄想の世界に夢や希望を抱いていた人間たちからは、散々喚かれたらしい。
曰く、『安直過ぎる!』『もっとこう、かっこいいのがいいのぉ!』『アーティファクトとか、もっといいのあっただろッ!』などなど。
彼らからすれば、額に血管を型どらせ、政府の用人に殺害予告などを送るまでに、断じて受け入れ難い出来事だったよう。
まぁもっとも、一週間か二週間くらいする頃には、『呼びやすい!』『誰だよアーティファクトとかイタイ名前つけようとしたやつ(笑)』『U-Itemって響きカッコよすぎィィ!』といったふうに、手のひらをくるりと翻したのだとか。
ダンジョンから獲得された、現代常識や、物理法則を覆す、現時点では分析することすら不可能な、文字通り、未知の道具。
それを、U-Item、と呼ぶ。
…………。
……よしっ、覚えたかな。
あれから数時間。
うわ言のように、呪詛を吐くかのごとく。
延々と口に出して、脳に刷り込んだ。
目の前には、ホブゴブリンが持っていた、人間スケールでは大剣になる、刀剣。
なんか、あの冷酷筋肉ダルマが言うに、これもU-Item、なのだとか。
頭が壊れてしまいそうだぜ、全く。
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ep54:U-Item
次回は、ちゃんと見せますので、お楽しみに。
U-Item……とりあえずは、魔法アイテムみたいな物だと思って頂けたら。




