表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン が あらわれた  作者: 黒白のアレ。
ダンジョンマン
60/67

ep53:泣くということ。


 言ってしまえば、戦闘の内容自体は、単純明快。


 当たれば死。避ければ生きる。

 ただこれだけ。


 運が良ければ橘あたりに助けてもらえるかもしれないけど、目の前の筋肉ダルマたちが、それほどまでの猶予を与えてくれるとは、とてもじゃないが考えにくい。


 顔の真横に、突風がすれ違う。

 仰け反るように体を曲げれば、目の前から鋭い爪の切っ先が、拳一個分程度の隙間を空けて通り過ぎた。


 それにしても──



──よく見える。


 たぶん、ダンジョンを探索してるうちにレベルアップでもしていたのだろう。


 とはいっても、視界の中に染まる濁りが、居なくなった訳じゃないけど。


 やっぱり、どこか遠近感覚がおかしい片目に、若干の苛立ちと、楽しさへのスパイスを感じつつ、短剣でホブゴブリンの代表をなぞる。


 僅かに出来た赤い線に、およそ生物から出るとは思えない程に硬質な音が、響く。


「ふはっ、なにそれ! 君たち身体が金属ででも出来てるのかい!?」


 回り込み、逆手に持ち変えた短剣を、一突き。


 レベルアップによって強化された身体に、更に魔力による追い打ちまで掛けた一突き……なのに、はははっ、化け物じゃないか!


 刺し込まれた短剣は、その剣先しか刺さっていない。

 微々たる量の血だけが、垂れ落ちていた。


 直ぐに引き抜いて立て直そうとする、が──


「──は、ぇ?」


 突き刺された短剣は、微動だにしない。


 視界の端には、高速でこちらへと突き進む、先の尖った黒色の何か。


「……フハハッ!」



◇◆◇



「おっ、とぉ! セィーーーフッ!」


 脊椎反射が如く仰け反ったからだの少し前を、高速に飛来するホブゴブリンの爪が通り過ぎる。


 一度でもこんな攻撃を受ければ、彼の身体がいくらレベルアップによって強くなっていようと、死は免れないだろう。

 そんな、命を脅かすほどに恐ろしい攻撃の直後、跳ね飛ぶかのように、動き出す。


 短剣を抜こうと試みるが、相変わらず短剣は微動だにしない。


 ホブゴブリンの強靭な筋肉が、短剣の剣先を締め上げて離さない。


 自身の顔よりも大きな拳を避け、巨大な刀剣を、軽く手で触りながら受け流していく。


 そうして、通り過ぎた刀剣が──地面を割った。


 縦に割れた地面を見て、彼の笑みが、気持ちの悪いものとなっていく。


 ホブゴブリンをおちょくるかのように、その足元をぐるぐると駆け回り、飛んでくる攻撃は全て笑い声と唾を飛ばしながらいなし続け、隙を見せる度に、短剣の回収を試みる。


 その時の表情だけは、真剣そのものだった。


 そうして、短剣が引き抜けて──



──また突き刺す。


 全く同じ位置に。

 真剣さをどこかに捨て置いたように、ヘラりと笑った顔つきで。


 剣先は、先程よりは深く刺さっているものの、まだまだ致命傷とはなり得ない。


「さて、筋肉ダルマくん(ホブゴブリン)


 何かを察したのか、薄汚い抹茶の巨体は、焦ったかのように、背中を掻きむしり、己の身体に引っ付く敵を排除しようとする。


 傷だらけの身体なのに、変な余裕すら見えてしまう笑顔の愚か者は、そのまま続ける。


「ボク、トンカチが好きなんだよねェ。釘を打つ瞬間が堪らないのさ」


 醜い緑の獣は、更なる焦りに、雄叫びを上げた。


 だが、仲間たちは誰も来ない。

 獣の鳴き声が、荒れていく。


 ちっさな身体で、直ぐに死ぬはずの小人の、ニヤついた声が、魔物の本能を激しく刺激する。


 だが、愚か者の声は、止まらない。

 むしろ魔物の鳴き声を受けて、顔が高揚しているかのように、口角を釣り上げていた。


「ボクは考えたんだ」

「ボクも一応、思考する生き物だからね」


「それでさァ……」


 魔物は、激しく暴れ回って、声を更に荒らげる。

 けれど、背中に引っ付く小人の気配は、消えるどころか、ニヤついた声のせいで、存在感を増している。


 何かがマズイと、魔物は本能で理解した。


 何が起こるのかは分からないが、とにかくこの気持ち悪いひっつき虫から逃げなければならない、と。


 本能が、直感が、魔物の命が、そう叫んでいる。


 だが、ひっつき虫は逃がさない。


「──これ、釘みたいに見えるんだよねェ……!」


 ひっつき虫の眼下に映るのは、一本の短剣。


 あくまでも貸されたものであり、手入れを怠ってしまうだけで、どうなるのか想像もつかない、恐怖の象徴のような、一本の短剣。


 あろうことか、愚かなひっつき虫は、全身が震え身体が崩れるような恐怖よりも、目先の楽しさに、手を伸ばしてしまう。


「ボクの手には、このメリケンサックがある」


 ひっつき虫の体内を蠢く魔力が、収束し、渦巻き、液体から、固形の何かに姿を変えていき、それは、一点に集まっていく。


 僅かに、彼の拳の表面の空間が、歪む。


「突き刺された短剣に、拳に嵌められたメリケンサック。これはもう、神がボクに、やれと言っているようなものじゃあないか」

「……神なんているか知らないけど」


 腕が、引き絞られていく。

 魔力を纏った、愚か者の腕。


 それはまるで、鉄槌のようで。


「ふふっ、ふへはっ、フハハァ!」

「さァ、サァ! ゴブリンくん!!」

「遊びの準備は、もう出来たかい!?」


 ホブゴブリンの、鳴き声は、もはや泣き声へと移り変わり、悲鳴が、階層中に響き渡る。


「まあ出来たか出来てないかなんてどうでもいいんだけどねェ!!!」


「──インパクトォォォ!!!!」


 瞬間。


 短剣は魔物を穿いた。



────────────────────

ep53:泣くということ。


なんか書いてて楽しかったです。

とくホブゴブリンをボブゴブリンと誤字った時は声が出ました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ