ep50:ごはん!!
「いったん落ち着いて考えてみろ? カレーは辛口に決まってんだろうがよぉ!! このへなちょこ共が!! 辛ぇもん食って汗流しながら水を流し込むのがうめぇんだろうがよぉ!!!」
「いいえ、過度な辛味は味覚を鈍らせます。中辛が妥当でしょう。というか水だって有限なんですよ。論外です。黙っててください」
「いや、でもみんなで食べるなら甘口が無難なんじゃ──」
「──タケっちは何辛が好きかい?」
「うーん、俺個人なら、辛口にハバネロと唐辛子をふんだんに使った激辛が至高だな」
「……えぇ、あ、甘口、が、いい、です(震え)」
「普通に、甘口しかねぇから甘口にするぞ。俺が料理するんだから文句は言うな」
木々の合間の、開けた場所で、焚き火を囲みながら、タケっちにドン引きする。
残念ながらカレーのルーは甘口しか無いようで、ここまでの議論は全て無駄だったというわけだ。
調理担当は、当然ながら隊長の橘だね。
……ほんっとうに、誠に遺憾なことながら、このゴリラの擬人化バージョンは料理がとても上手い。
視界の端で、橘はまな板など無いからか、片方の手のひらには食材を乗せ、もう片方の手でナイフを握り、瞬く間に調理を進めていく。
パツキンの熱弁を無視しながらぼーっとしていたら、いつの間にか、鍋にはもう甘口のルーが入れられている。
森には、カレーの良い匂いが漂い始めていた。
……こんなに音や匂いを立てても魔物が来ないってことは、少なくともこの階層の魔物たちはもう打ち止めってことかな。
木々の隙間を注視すれば見えるほどの距離に、小さく、血溜まりを作る魔物たちの死体が見えた。
橘が銃で、文字通りの蜂の巣にしていた、二足歩行の狼を思い出す。
心なしか、何か言葉を喋っていた気もするけど。
……まぁ、そんなのはどうでもいい。
一応解体するにはしてみたけど、可食部位が少なすぎてお話にならなかった。コボルトよりも生臭かったし。そしてとんでもなく不味かった。
死体とかを吸収していたダンジョンの植物に投げ入れた時も、ちょっと抵抗があったような気がする。
余程臭かったのだろう。
たぶん、レア個体ってやつだ。
名付けるなら、激臭人狼とか、そんな感じかもね。
……まぁ、レア個体なんてものが存在するのかなんて、知らないけど。
少なくとも、ネットの情報にはなかったかな。
でもレア個体なんてテンプレみたいなものだし、多分いるのだろうね。
一応、このダンジョン内でもネットには繋がる。
明らかに電波は通っていないけど。
まあステータス画面とかインターフェースは、電源切っても何故か普通に使えるし、そんなもの、とでも覚えておこうか。
そんなことを考えていると、橘や早瀬が皿を取り出しているのが目に入る。
そして、ボクの隣に座るタケっちが、その両手に、悍ましく、おどろおどろしい赤黒いナニカを持っているのも、見えてしまった。
戦慄、とでも言うのかな。
人生で初めて、それを経験したかもしれない。
「た、タケっち……」
「ん? あぁ! 戯楽くんもこれ使いたいのか? いやぁ、仕方ないな、それならそうと言ってくれればいいのに水臭い。いいよ、使わしてあげる」
…………。
……ふはっ、フハハ。
やれやれ、タケっち……ヤツはとんでもない男だぜ。
「お言葉に、甘えさせてもらおうかな」
背後に回した手の内に、砂糖を持って。
激辛と激甘。
ふふっ、二種混合も捨て難いものだね。
ボクはドリンクバーとか行くと、どうしても全種類配合のゲロマズジュースを作り出したくなる性を持っているのだよ。
片手には、タケっちからおすそ分けされた赤黒い何らかの物質。
目の先には、パツキンへと訪問しに行ったタケっちと、顔を青くして冷や汗を濁流のように流し続けるパツキン野郎。
ふははっ、素晴らしきかな。
ただ一つだけ言うのであれば、何故か牛乳を持っていたひよりんと、トイレを、ボクとパツキンは神聖視さえするようになってしまったよ。
ああ!神さま仏さまひよりん様!
あとトイレ!
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ep50:ごはん!!




