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ダンジョン が あらわれた  作者: 黒白のアレ。
ダンジョンマン
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ep48:貸された短剣


 似たような魔物は、見た事がある。

 けれど、これは──




「──なーんか、大っきいねぇ! キミ達!」


 一回りも、二回りもでっかい、大狼。

 それに伴って、攻撃も、一段と重くなっている。


 数歩走るだけで視界から外れ、地面には小さな亀裂を残していた。


「おいおい新人ッ!! なまってんじゃねぇかぁ!?」


「うるさいなぁ、そこの犬っころよりもうるさい」


 煩わしい大声と共に、斬首の音が鳴り響き、赤色の雨が降り注ぐ。


 目の前には、二本の直剣を血に濡らした、パツキン野郎が、ニヤついた笑みでこちらを見ている。


 ドサッ、と。

 遅れて獣の死体が転がっていた。


 ……あ〜あ。


 最初見た時は、ただの厨二病なイタい奴かと思ったのに。


 実情は、前線の主軸を担う双剣士。


 ニヤついた笑みに反して、その目の奥に、燃え上がる炎を、幻視してしまう。


 彼の額には、何かの傷跡がついていた。



◇◆◇



 自動ドアダンジョンにいる魔物は、基本的には見知った面々だ。


 ゴブリンに、狼……ウルフだったかな。

 あとオーク。

 変わり種に、食中植物のような魔物。


 何かとは言わないけれど、パックンとでも呼ぼうかな?


 今のところ、このダンジョンの魔物は、そんな感じのラインナップだったかな。


 ダンジョンの性質によっては変わるらしいが、このダンジョンの魔物は、死体が残る。


 そして、過去にボクは、多少の毒さえあれど、魔物の肉も食べることが出来るのを、実証済みである。


 つまりだ。


 何が言いたいのかというと──


 


「──いやァ、ここは食料が豊富だね!」

「こんな調子なら、食料に困ることは無さそうだ。そう思うだろう? みんな!」


 そう、後ろへ振り返り、探索隊の面々へ。


「そうだな。食料、という点で見れば、困ることは無いだろうな」


 何やら含みのある言い方で、橘は言葉を返す。


 他の面々を観れば、何やら青い顔をしていた。

 早瀬とかいう女なんかは、目をキッと細く、そして鋭くして、ボクを睨んでいる。


「食料という点では、に強調が入りますけどね……ッ。あんなの食べ続けてたら精神が狂いますよ。既に変な貴方には関係ないでしょうけど……ッ」


「そうだぜ新人。早瀬の姉御の言うとお──いや、その、へへっ、早瀬姉さんの言う通りだぜ……」


 そんなに言われちゃうなんて、ゴブリンちゃんが可哀想で仕方がないね。


 何やら墓穴を掘ったのか、早瀬からゴミ虫を見るような目で見られたパツキン野郎を横目に、そんなことを考える。


 そしてそんな様子を、直人とひよりんは遠い目をしてみていた。


 ……そういえばァ、キミ達まだ食べてなかったよねェ。


 ふふっ、今度フルコースをお見舞いしてあげようかな。


 血臭漂う森の中。

 声を荒らげながらに通り抜けていく。


 まぁ、この辺の魔物は聴覚より嗅覚の方が鋭いとかなんとか。

 橘や、探索隊の良心、絶対的母性を持ち合わせるタケっちが言うに、静かにしたところで匂いなんて誤魔化せねぇから楽しんどいた方がマシ、との事らしい。


 怯えた目で首を振り回すひよりんを見て、心の中で、教えてあげる。


 口で言うのは……いいかな。

 あの様子はあの様子で見てて面白いしね。

 また明日とかに教えることにしよう。


 いわばボクたちの状況は、遭難みたいなものなんだ。

 気長に楽しもうかな。


 なんて、早瀬に怯えるパツキンを見ながら、適当に考えておいた。



◇◆◇



 メリケンサックに、血が滴る。


 手の中は熱いのに、血が滲む手の表面が、空気に触れて、冷気を感じさせた。


 魔力を流し込む。

 拳から、腕、肘、肩、それから、枝分かれをするように、全身へ。


 体内を蠢く魔力は、ちょっと、こそばゆいものだね。


 地面を踏む。


 腰を捻り、肩を引き、腕を引き絞り──




──放つ。


 獣の、鳴き声が聞こえた。

 巨大な、狼のような魔物。


 その、黒く分厚い毛皮からは、粘土を殴ったような感覚しか、感じられなくて──



──解放(リリース)


 瞬間。

 指先の皮が弾けて、手の甲まで弾けて、魔物の顎下すらも、吹き飛んだ。


 拳に限界まで魔力を留めて、しっかりと拳を当ててからの、魔力の解放。


 本当は当てたのと同時に出来ればもっと面白いのだろうけど、残念ながら、ボクにそんな技量なんてない。


 …………。


 ……やっぱよわよわだね、ボク。


 重量のあって、硬い敵には、歯が立たないみたいだ。


 ふふっ、これもまた楽しいものだね。


 一気に殲滅して全部壊す!みたいなのもいいけど、こう、毎日水やりをするかのように、強くなっていくのも捨て難い。


 ……? いや、別に強くなくても楽しければいいか。


 魔物の遺体を椅子に、足をプラプラとさせながら、水やりについて思考を巡らせる。


 ふと、視界の端には、誰かの足が映り込む。


 顔を持ち上げれば、早瀬とかいう女がいて──


「──癪ですが、これを一つ貴方に貸しておきましょうか。貴方の場合だと、上手く使えるでしょうし」


 その女の手元には、一本の短剣。

 少し青色を帯びた、金属の短剣だ。


 それを、こちらへ刃を向けて、貸しに来たらしい。


 ……ふふっ、フハハ。


「受け取っておこうか。感謝は、必要かい?」


「……」


 疑心の目を、彼女は向けていた。


「貴方は、この探索隊が嫌いですか?」


「いいや、大好きさ! ……とっても、面白い」


 何度目か分からない、この質問。

──中に浮かぶ、半透明の球は、青く、光を放っていた。



─────────────────────

ep48:貸された短剣


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