ep42:届くかな?
辺りには、暗がりが広がっている。
雲はない。
空の、さらに上。星々の輝きが露わになったそこには、三日月が。
純白に、ほんの少しの黄色混じりに、輝いていた。
火の、パチパチと燃える音が響く。
「へぇ。こんな感じなんだ。ふふっ、なんだかくすぐったいね」
ソレは、淡い、黄緑の光りだった。
粋な言い方をするのなら、この世の理に属さない。
ボクには、そう見えた。
人体の、正常な再生手段とは、到底思えない。
急速な代謝、細胞の移植……これでもない。
……はぁ、頭痛ぁ。
そもそも、小難しいことを考えるのはあのジジィみたいなのの領分なのだ。
難解な思考を、そこら辺に投げ捨てる。
ソレは暖かく、柔らかな光。
グロテスクな見た目の傷痕は光に包まれて、姿を隠している。
不思議な感覚だ。
似たようなモノを挙げるとするのならば、魔力。
それに似通った、手触りのようなモノを感じる。
ほんの数秒だけだった。
それなのに、その光が掻き消える頃には、命に関わる程ではないにしろ、傷だらけだったボクの腕が、綺麗さっぱりと、"回復"していた。
何かが、満ちるような感覚だけが残る。
治療、回復、再生。
その、どれにも属さないような、力だ。
「ありがと、ひよりん。聞いてはいたけど、実際に見ると、なんだか感慨深いものだね」
「そ、そうですか……」
吃り気味に答えれば、そそくさとどこかへ行ってしまう。
そんなに彼女、ひよりんこと小鳥遊日和は、この探索隊の、要だ。
「あらら、いっちゃった。せっかく、ゴブリン肉のフルコースをご馳走してあげようと思ったのに……。フハハッ」
役割でいえば、ヒーラーとかかな。
実際、戦っている姿を見たことはない。
ヒール、そう唱えながら、ボクの怪我を治癒していく、あの光。
──しっかりと、目に焼き付いていた。
◇◆◇
早朝。
太陽が遠くで見え隠れするような時間帯。
何故かそこには、ちゃぶ台が一つ。
「新人、お前ほんとステータスについて知らねぇんだな!」
「うるさいなぁ、君も同じだろう? 新人じゃないのにも関わらず、ここにいることをまずは恥じたらどうだい? フハハッ」
──カチャ……
「朝っぱらからうるせぇぞ」
ドスの効いた、橘の声。
ちゃぶ台の上には、機関銃。
安全装置は、外されている。
引き金には、橘の指がしっかりと乗っていて。
「「…………」」
仲良くお口チャックという訳だね。
こんな朝早くから、なんで起きているんだろ──
──耳元で銃を発砲され、飛び起きたのを思い出した。
……テオールとどっこいどっこいかもしれないな、この筋肉ダルマ。
なぜ起こしたのかと聞けば、『……教える』とだけしか言わず、パツキン野郎と一緒にちゃぶ台を共有する始末。
……まぁ、お陰でレベルのこととか、ステータス、インターフェースとかだったり、色々知れたからいいんだけどさ。
そんなことを、ぼんやりと。
ちゃぶ台の下では、手のひらに収まサイズの石ころを掴み、力を込めて握りしめる。
手のひらを開けば、罅のついた石ころが現れる。
……レベルが20もあれば、石ころなど容易に破壊できる、だったかな。
チラリと横を見れば、パツキン野郎の手のひらには、割れた石ころが見える。
ボクのよりも大きく、断面もぎっしりと詰まった、そんな石ころ。
つまり、差は歴然、という訳だ。
…………。
……レベル、ねぇ。
あァ、口端が避けてしまいそうだ。
フハハ。
そんな笑い声は、青空へ向けて。
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ep42:届くかな?




