ep41:精密な一撃はボクの傍に。
──天変地異。
ダンジョンがこの地に現れる直前、前兆のようにおきたソレは、かつてないほどの被害を齎した。
天変地異が収まり、その後は復興が進んだ。
けれど、魔物への進出が起こり、それも中途半端なまま中止を余儀なくされる。
結局、天変地異による被害は、未だ残り続けていた。
特に──"移動経路"に関しては。
所々崩壊の跡が見える、建物の間。
……その、大通り。
破損した道路。盛り上がったコンクリート。折れ曲がり、道端に倒れ伏せた電柱たち。
とても、自動車などで通ることは出来ないだろう。
つまり──
「──ここから歩きかぁ……。ねぇねぇ〜、無理やり通っちゃおうよ〜」
「流石に無理だろうな。大掛かりな修理なんて出来ないし、少しでも壊れたら使えなくなってしまう」
目の前の背もたれに垂れ下がりながら、運転席に座るタケっちの耳元で、面倒くさそうに項垂れる。
対するタケっちは、嫌がりもせず、和やかな笑みを浮かべながら、柔らかな否定をボクへと突きつけた。
はぁ〜、と息を漏らして、捨て置いていたカバンの持ち手を掴もうと、手を伸ばす。
まるでそれが当然かの如く、車内にいる他のメンバーは、なんの反応もしていない。
……悲しいものだね。
引きずっているのだろうか、肉を提供してあげた、あの日のことを。
大型の車は、動きを止める。
立ち上がろうとすれば……足が、震えている。
まぁ、無理もないか。
魔力まで使って、全身全霊の力を振り絞り、遠くを走り去っていく大型車に追いつこうと、久方ぶりの奮闘をした、あの時のことを思い出した。
……やめてよ、まだ何も言っていないじゃないか。
痛烈な視線をボクに向けるメンバー……特に早瀬とかいう女に、そんなことを願う。
仕方ないね。今度お詫びにゴブリンの干し肉でも分けて進ぜようと、そう心に決めた。
◇◆◇
整備されていない。
あるいは、整備することができない。
どちらにせよ──
今の世界で、整備が行き届いていない場所は即ち、魔物の縄張りだ。
唸り声、喚き声、鳴き声。
多種多様でありながら、頭の悪そうな音たち。
獣が、本能のまま四足を叩きつけ、瓦礫の地を駆けている。
小さな、切り傷。
垂れる血が、その赤が、あの日を……世界が、少しだけ遅くなる。
目の前には、棍棒を振りかざそうとする、豚が二足で立ったような魔物、オーク。
──重、いッ。
腕を顔の横に、肉が、中で潰れる感覚。
……まだ治り切ってはなかったか。
衝撃を受け流す──なんて高度な技術を、ボクは持ち合わせない。
無理やりに受け止める。
下で、コンクリートが削れる。
不格好に、腕を振り絞り、豚野郎の眼球に拳を突っ込んで、手の内で魔力を爆ぜる。
血が流れて、息が荒れて。
「は、ァ〜。さて、次は──」
──視界の端に、獣。
脳内が、加速する。
汚い牙だ。血にまみれ、それは大きく口を開いていて。
……あァ、これヤバイなぁ。
変なふうに、口が捻れて。
狼のような獣の、上顎が距離を詰めて──
「──《魔纏弾》」
風に、枯れ枝が触れるような、小さな声。
──瞬間。
汚らしい牙だけを残して、頭部が消し飛んだ。
「スキルを使用した。これより15秒、援護射撃が不可能になる」
平坦で、されど、聞き取るには十分な声。
……あぁ、あれは銃弾かァ。
隊長さんに助けられてしまったね。
遠くに、それもかなりの距離がある位置から、たった一発で撃ち抜いた橘に、適当な感嘆を抱き……その辺に捨てておく。
説教……もしくは、修正というべきか。
後の理責め、言葉責めを想像して、軽く身震いをする。
それにしても、これが仲間というやつなのかな。
……中々に、楽なものだね。
タケっちの大盾に守られながらも、ボクの方へ視線を向ける橘を横目に、再認識した。
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ep41:精密な一撃はボクの傍に。




