ep40:肉の代償
……………………
…………。
……ぼんやりと、目が覚める。
「知らない天井……でもなかったね」
数回ほど見た、知っている天井だ。
探索隊の拠点内には、幾つかの空き部屋があった。
たしか……ここもその内の一つであったはずだ。
「って、あ〜……。まただ」
何か違和感を感じて、辺りを見回すと、魔力が、波打つように体表を蠢いている。
以前から、それこそテオールの基地で過ごしていた時から、こうなることがあった。
それも二日に一回ペースと、かなりの頻度で。
魔力ってのは、どうも扱いが難しい。
手や足のような、身体の一部みたいに動かせる割に、無意識になると、勝手に動き回る。
……まぁ、そのお陰で得られるものも、あったりはするわけだけど。
魔力は、以前よりも柔らかく感じられた。
空気よりも軽く、それでいて、意のままに形を変えていく。
球、ブロック、輪、剣……それから、赤鉄の大剣。
イメージのままに、ころころと姿を変えては、気化するように消える。
色を変えて、温度を変えて、質そのものを──
──グシャぁッ
「おわっ、と。ははっ、変な声出ちゃった」
腕を見れば、弾けたように筋肉は裂けてしまっていた。
白い骨は、姿を露わにしていて──激痛が奔る。
痛い。
……けれど、何回も何回もやれば、多少なりとも慣れはするものだ。
…………。
……露出した傷の中から、産毛ほどもない魔力の糸を、引き伸ばしていく。
縫い付けるように、筋肉、血管、その他諸々。
いい加減な考えのまま繋ぎ合わせていく。
後はまぁ、包帯でも巻いとけば、たぶん治るだろう。
……糸の扱いは、ボクのことをこき使ってきやがった老骨のせいで、無駄に精度が良くなっている。
「フハハッ」
習慣……いや、もはや依存といっていい。
魔力遊び、こんなチンケなものですら、他に変えようのない楽しさというモノを、感じて仕方ない。
風が吹いている。
若干にめくれたカーテンの隙間からは、眩い光が漏れ出していた。
「ふあぁ……」
気の抜けたあくびが漏れる。
◇◆◇
「おい……この新人やっぱ変だぞ……」
ドン引きしたように呟くのは、パツキン生意気野郎の、相馬蓮とかいう奴だ。
机の上に広がるのは、テオールの基地から奪い去り、今の今まで大切にしてきた……と思ってはいる、ボクの肩掛けカバンだ。
開かれ、中身の露出したカバンの中に混在するのは、謎の機械部品と、カバンの大多数を占めるゴブリンの干し肉たち。
「変って、全く、失礼なものだね。別に食べれないことは無いんだ、問題ないだろう」
「……そういう問題じゃねぇだろうがよぉ」
何かを思い出したかのように、顔を青くし、その身体は小さく震えていた。
それは、アイーバくんだけでなく他のメンバーも。
……フハハ。面白い反応をするじゃあないか。
「直人も食べてみるかい? それと……えぇっと、あ、ひよりんも」
「遠慮しとくよ。……つか呼び捨てなんだ。距離の詰め方バクってんだろ……」
「わ、私も、遠慮しておきます……」
ゴブリンの干し肉を見せびらかせながら、探索隊の2人に勧めてみるも、直人には脊髄反射が如くの即答で、断れてしまう。
早瀬じゃない方の女こと、小鳥遊日和。
通称"ひよりん"にも断られてしまった。
……ふぅ、危ないところだったね。
危うく名前をあんまり真面目に聞いていなかったことが、バレてしまうところだったよ。
謎の達成感を感じながら、メリケンサックの手入れを続けていく。
探索隊は、今日を持って──
「お前たち、準備は出来たか。そろそろ行くぞ」
──この街を出る。
……そういえば、この探索隊の名前、まだ知らないんだよなぁ。
なんて考えながら、橘の言葉を右から左へと受け流し、白い布でメリケンサックを拭き続ける。
……あっ、ちょっと待って! あと1分! いや、あと5分! ちょ、ま──
「──探索隊、出発するぞ」
短い、橘の号令。
数瞬だけ、哀れみのような目を浮かべられる。
それを感知した頃には、既に彼らは背を向けて、出口へと進み出していて。
片や、メリケンサックにお熱なボク。
片や、過ぎ去って行く探索隊のみんな。
ボクの元へは、彼らからの日陰しか届かなかった。
「このぉッ! 薄情者共がァァァ……ッ!!」
そう叫びを挙げる頃には、彼らの背中すらも見えなくなっていた。
全く、どうしてこうも薄情になれるものなのか。
……悲しいよ、ボクは。
涙を禁じ得ないとは、この事だね。
遠くで、パツキン野郎の笑い声が聞こえた気がしたけど、たぶんボクの聞き間違いなのだろう。
手に嵌められたメリケンサックは、今までにないほどに、光り輝いていた。
……ははっ、眼球も日焼けとかするのかな。
────────────────────
ep40:肉の代償




