ep39:思い出とテロ
──拠点の、一室。
ホログラムのように、画面は浮かんでいる。
画面の中には、人型のキャラクターたちが動き回り、各々を攻撃していた。
ソファの上には、3人。
それぞれ、緑フード、金髪頭、クソダサTシャツ。
パーティ開きにしたポテトチップスの置かれた机を前に、笑い、叫び、呆れている。
三者三様。
1人だけ、なんでいるのかも分からないような奴もいるが、そこまでの疑問もなく、ソレを使い、争っていた。
彼らの手元には、ボタンのようなホログラムが浮かび、指が騒がしく動いている。
緑フードは思った。
かつて、ここまでにも躊躇のない奴がいただろうか、と。
画面上で操るキャラで無双しながらも、クソダサTシャツの男を横目に。
この試合では……いや、この試合でも、緑フードの男だけの一人勝ちで決着が着いた。
クソダサTシャツの新参者は笑っていた。
生意気そうな金髪は、納得のいかないように叫びながらも、その表情は、楽しそうだった。
◇◆◇
「ふふっ、ふふはッ、強いね! なにこれ、なんにも出来ずに負けちゃったよ」
「もう一回! もう一回だ! 次は俺が勝つッ!」
「もう一回って……もう何回もやったじゃん……」
そう、呆れるように、小さな声で呟くのは、緑色のフードを着た、猫背の男。
自身の無さそうな声色だが、確かな信頼のようなものを感じた。
……たしか、なんだっけな。
根暗直人、だったかな。
ボクの横に座る男が、そう名乗っていたのを思い出した。
「いいじゃねぇかよぉ。おい新人! なんだっけ、ギラクだったか? お前からも言ってくれよぉ」
「ん? ちょっと待ってね。久しぶりのお菓子は美味しくて仕方ないのだよ」
うるさい、騒がしい、ウザったい。
その三拍子が一纏めになったような男。
たしか……えぇと、相馬蓮だっけ。
金髪の、生意気そうな男は、ボクに言い放つ。
実際に、うるさくて生意気なのか、全くもって知らないし、ただの偏見に過ぎないけど、ダメだね。
ボクの頭がもう、パツキン生意気野郎だと覚えてしまった。
「……おい、直人。この新人なんか変だぞ」
「……そんなの、最初の自己紹介で分かりきっていた事でしょ」
そう言いながら、直人はポテトチップスの袋を、こちらに少しだけ寄せた。
こそこそと、口に手を当てて話す2人のことなんて、全く気づかなかった。
……ん! このお菓子も美味しいね!
時折思い出すのは、コボルトの焼肉だった。
◇◆◇
探索隊の拠点。
ここは、ボクが思っていた以上に広い。
トイレは2つあり、キッチンにリビング、風呂場や洗面所。
生活する上で申し分ない程の設備が揃っていた。
探索隊では、朝昼晩、毎食の食事が出る。
……とはいっても、当番制だけどね。
ルームシェアのようなものが、イメージ的には近いかな。
そして、今日の夕食当番は、橘だったらしい。
ボクは今日、この世の謎に直面した。
あの、犯罪者と間違われようとなんらおかしくない大男が作った、料理。
……ボクが今まで食べた料理の中で、一番美味しかったのだ。
頭の中は、混乱と困惑で、今にもショートしてしまいそうになる。
食後には飾り包丁まで入れた、手の混みまくったデザートまで出てきたのだ。
「……おかしい、これはきっと、何かの間違いなんだ……ッ」
──ジュー
肉を焼く音が、響く。
換気口は既に、最大速度まで上げておいた。
下処理と、下味をつけた肉に、香草をぶち込み、蓋を閉じる。
フライパンの上で、脂の弾けるような音を立てて、その肉はきつね色に焼けていく。
やがて、香草のいい香りが漂う、美味しそうな肉が、焼きあがった。
そんなところで
「あなた……料理なんて出来たんですね。……あと料理中はメリケンサック外してくださいね」
早瀬と名乗っていたはずの女が、ボクに話しかける。
……早瀬、であってるよね? あれ、どうだっけ。
まぁいいか。
「その感想は、ボクより橘に向くべきだと思うけどね。あちっ」
……さすがに、焼きたての肉は熱いね。
そうして、適当に返事を返しながら、その肉を噛み砕いていく。
…………。
「……うん! 美味しいね」
少なくとも……前よりは。
なんて言葉が、前につくのだろうけど。
「それ、何の肉ですか?」
いい匂いを立てる肉に興味が惹かれたのか、早瀬はボクに、疑問を問う。
「うーん、魔物の肉だよ。魔物の。すごいよね、調理すれば毒は抜けるらしい。食料問題くらいなら、解決できてしまいそうだよ」
──フハハッ。
笑いながら、そう答える。
早瀬の目の色が、少し変わった気がした。
……少し、黒が薄まる。
◇◆◇
食後というのにも関わらず、リビングには、探索隊の面々が並んでいた。
机に置かれた、美味しそうな匂いを漂わせる、その肉を囲んで。
それぞれが、興味、食欲、そんな感情に駆られ、一口。
食べなかったのは、早瀬ではないもう一人の女と、緑フードの直人だった。
直人の方は、食べようとは、していたようだけど。
ボクはもちろん食べた。
「フハハ!」
ボク以外の、食べた者達は全員もれなく、顔を真っ白にして、トイレまで駆け込んで行った。
ん〜、前よりは美味しいね。
……前よりは。
綺麗に焼けたコボルトの肉を見ながら、そんな事を考えた。
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ep39:思い出とテロ




