ep38:閃
ほんの少しの瓦礫と、遠くからは、人々の声。
街の、すぐはずれの方に、ボクはいた。
──この、穏やかな笑みを浮かべているはずなのに、言いようのない圧を醸し出す、タケっちと一緒に。
包帯に、絆創膏。
応急処置キットのようなものを片手に、彼は口を開く。
「……次は、さっきのようなことをしては、いけないぞ?」
その声は、聞くだけで背筋が震えてしまうような圧を纏っている。
「お、おーけー、だす」
口元がニヤついているのに、声は震えて。
語尾が変な感じになったことなんて、気にもならないほどの、そんな気迫だった。
近くには、血みどろになった大盾が転がっている。
そしてその傍らには、頭部を抉り取られたかのような死体となった、醜悪な魔物。
……フハハ。
◇◆◇
ドスドスと、重々しい音と共に、土煙が立ち込める。
目の前には、先程と同じような、醜い容貌の魔物が3匹。
……トロール、だったかな。
タケっち様がそう呼称していたのを、思い出した。
「《盾撃》! 戯楽くん!」
……確か、仲間に何をやるつもりか伝える為だっけな。
大きな声で、タケっちはスキル名を叫び、ボクに呼びかける。
「りょ」
短く。
時代の最先端を担う、高度な言語術を一言。
トロールへ、丁度死角となっている物陰から飛び出し、その首元に狙いを定める。
拳を握りしめて、金属の感触を、手のひらに染み込ませるように。
腕伝いに魔力を伸ばし、腕を振り絞る。
……そういえば、さっきは魔力なんて使ってなかったなぁ。
ぼんやりとした思考のまま、一匹のうなじへ──
──グシャぁ
「うーん、5点。思ったより音がグロテスクなので減点かな!」
トロールのうなじにめり込んだ拳を引き抜きながら、そんなことを呟く。
血が吹き出している。
……なんだか汚らしいものだね。
倒れゆくトロールの死体を足場に、腕を振る。
メリケンサックに付いた血を振り落とし、残りの二匹を、視界に入れる。
……最近、やたらと身体が軽い気がするんだよなぁ、なんて思った。
トロールの一匹一匹に、大きな違いはないらしい。
どちらも心地悪い唸り声を挙げながら、同じような血を垂れ流すだけだった。
◇◆◇
コンクリートの地面には、汚らしい魔物の遺体が、3個転がっている。
もう既に物言わぬ骸となったのだ、匹ではなく、何個とか、物扱いでもかまうまい。フハハ。
3つの遺体を見下しながら笑っていると……
「戯楽くん、今回は問題なく討伐出来たな」
これは、素直な賞賛みたいなものなんだろうか。
『今回は』の部分が強調されていたことには、少なくとも気がついた。
ただ、タケっちの表情を見るに、喜びや安堵、そういったものが多いように見受けられる。
……なんていうか、ザ・優しいお兄さん、みたいな。
少し呆れたような……面白くなったような。
「それにしても、さっきとは雲泥の差だなぁ」
トロールの傷跡を見ながら、タケっちは呟く。
……盾で嬲り殺していたのは、どうなんだろうね。
「そういえば、なんのスキル持ってるのか聞いてなかったよな。クラスすら聞いてなかったな!」
ウハハ、と明るめの笑い声を挙げながら、タケっちはそんなことを言う。
「まあ、メリケンサック使ってるくらいだし、『闘士』とか、『武闘家』とか、そのあたりなんだろうな」
「うん、そうだよ。……たぶん」
小さく、それこそ、タケっちにすら聞こえないくらいの声で、嘘に保険をかけて。
タケっちは、トロールの遺体を解体しながら話す。
特にやることもないので、タケっちに習い、拙いながらも、トロールの遺体を弄くり回していく。
「スキルは……何があったっけなぁ。攻撃特化みたいなクラスだったのは覚えてるんだけどな」
…………。
……疑問が、浮かぶ。
なんでさっきから、ステータス画面の内容が、まるで希少でもあるかのように話して──
「というかなんで、タケっちはスキルのことを聞いているの? ステータス画面見ればいいじゃないか」
──疑問は、口から出てしまう。
タケっちは、不思議そうな顔をして
「なに言ってんだよ、他人のステータス画面は見ることが出来ないだろ?」
…………。
「……あぁ、そうだったね」
口端が、捻れる。
そういうこと……だったり、するのかな。
◇◇◇
──???
……また、1人。
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ep38:閃




