ep37:これこそがデフォルト
空は、まだ青い。
まだ橘と出会ってから、1日も経っていないらしい。
若干の瓦礫はあるが、遠くには、活気にあふれた街並みが見えた。
タケっちの話では、探索隊がこの街を拠点に活動を始めてから、既に数週間と経っているらしい。
街からは少し離れた、開けた場所。
所々に瓦礫はあれど、その損傷具合いは、ボクが元々いた街よりも、軽微と言えるのだろう。
そんな中を、タケっちとボクは歩き進む。
「ところで、今はどこに向かっているのかな。魔物の掃討とはいえ、場所なんて分からないんじゃないのかい?」
「仲間の一人に……そうだな、簡単に言うと、魔物の位置を調べられる能力を持った子がいるんだ」
タケっちは、ボクにも見えるように、空中に投影された、デバイスの画面を見せる。
ゲームのミニマップのような画面には、赤い点が、数十個と、ボクたちに呼応するように動く、青い点が二つ。
赤い点は、じわじわと蠢いていた。
……随分と、分かりやすいものだね。
◇◆◇
「魔物までは……まだ少し距離があるな」
「この間に、少し、俺が出来ることについて、話しておこうか」
身長の半分以上はある、大きな盾を片手に振り返りながら、タケっちは話す。
「君のソレとは、少し相性が悪いかも知れないけどな」
そう話す彼の目線の先には、ボクの両手に嵌められている、二つのメリケンサック。
穏やかな表情のまま、タケっちは自身の能力について語る。
「まず、俺のクラスは、ゲームとかで言う、タンクの役割を持つ、守護者というんだ。ほら、ステータス画面で選ぶ、あれさ」
「なるほど、タケっちのクラ、ス……、……?」
…………。
……………………。
…………………………………………。
「……?」
すてーたす、がめ──……あっ。
文字も見えない程にひび割れた、そんなステータス画面が、脳裏を過ぎる。
「……ふふっ」
変な笑いが漏れてしまったよ。
あの、ひび割れたステータス画面が、頭から離れない。
タケっちの話は、ほとんど耳に入らなかった。
◇◆◇
「──という技もあるから、出来れば覚えていて欲しい」
タケっちは、一通り説明は終えた、というように、背を向けて、歩き出す。
……うん。なに話したっけ。
彼の言葉は、全て耳から耳へとすり抜けて行き、ほとんどの内容を覚えていない。
守護者がどうたら、スキルがなんとか、と、本当に、なんと言っていたっけ。
まぁ、守護者とかいうくらいだし、多分守る系のスキルがあるんだろう。
そんなことを、ぼんやりと。
歩いて行くと、前方から、小さな唸り声が聞こえた。
タケっちに視線を向けると、タケっちは小さく頷いて……
「うん、あれが、標的の魔物だ。弱いとは思うけど、気を抜いてはいけないぞ」
ゆっくりとした口調で、ハッキリと、耳に届くような声だ。
仕草の一つ一つに気遣いが感じられるのは、勘違いではないのだろうね。
目の前を歩くのは、苔色の魔物。
のそのそと、しかし重厚な身体つきは、人間との違いを感じさせた。
◇◆◇
大きな盾を前にして、彼は言う。
「最初は、俺が前に出る。近づいて来たら、無理のない範囲でいいから、攻撃してみてくれ!」
前方に見える、大きな、人型のような魔物。
お相撲さんを2倍して、醜悪な顔つきにしたような、そんな容貌だ。
……近づいて来たら、とは言うけれど、まだかなり距離があるような──
そんな思考は、彼の言葉で飛ばされる。
「こっちだ!《敵意誘導》!!」
──瞬間、魔物がこちらを向く。
その巨体を、象のような足で持ち上げ、地鳴りのような足音と共に、走り出した。
……あぁ、これがスキルかァ。
「……ふふっ」
小さく、笑い声が漏れる。
スキルの影響なんだろうけど、あの醜悪な顔で、必死に走り出す姿は、なんというか、滑稽なものだね。
……赤鉄から、足を引きずりながらも逃げ出した記憶が、脳裏をチラつく。
あの魔物から見たら、ボクも同じように見えたのかな、なんて。
「もうすぐか……ッ。戯楽くん! 攻撃の準備を──って、ぇえ!?」
目の前には、大きな盾。
……あぁ、これは、使えるね。
使ってしまおう。
「その盾、踏み台には丁度いいね! フハハッ!」
タケっちが、何やら焦った様子なのが、視界の端に、映った気がした。
……でもまぁ、いっか!
目の前にある踏み台を踏み締めて──飛ぶ。
そのままの勢いで、ボクと同んなじ滑稽モノに、拳を……
「ぉ、あ!?」
バチン、と音を立てて、腕が、弾けるように。
拳が痛い。岩に拳を当てたような感覚。
「……って、あっ、ヤバ──」
醜悪な魔物にヘッドショットを決めた──その瞬間。
──グヴォォォォ!!
轟音。
視界の端で、太い腕が振り抜かれている。
次の瞬間、ボクの身体が……浮き上がっ、て……?
身体が押し潰されるような圧力。
そうして見えたのは、小さな傷が出来ただけの、魔物の後頭部。
「──フハハ! フハハハハッ!」
ボクは今、空を飛んでいるのか!
口元が、歪んで仕方ない。
……自分で言ってもいいかな。
「汚ぇ花火だ! フハハ!」
「……訂正しとこ。かなり、なんてものじゃないな。戯楽くんは、"とても"変な子、みたいだな」
小さく、地上にいるタケっちの口が開いた気がしたけど、なんにも聞こえないや。
フハハ!
今日も、いい天気だ。
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ep37:これこそがデフォルト




