ep32:ドッチボールは返されない。
短い黒髪に、鋭い目つき。
筋肉質で大柄な身体に、彼の性格が垣間見えるような、緋色の目。
彼は、確かにボクへ向けて、何かしら勧誘の言葉を放った。
そんな彼にボクは──
──ビィィィィィィ!!!
反射的に、引いていた。
知らない大人に話しかけられたら、防犯ブザー。
常識だろう?
「……は?」
「あぁ、いや、ごめんね。キミ顔がアレだからさ、なんというか、こう……鳴らしちゃった♪」
「……は?」
二回目だなぁ。
目の前の変人は、相も変わらず困惑しているようだ。
ショックでも受けちゃったのかな? と思い、下から覗き見ると、銃刀法違反の犯罪者はニヤリと笑い
「いいなぁ、お前」
「そうか、キミは初対面の人にいきなりお前呼びするタイプなんだね」
何が『いいなぁ』なのか、全く持って意味がわからなかった。
◇◆◇
「それで? 何の用なのかな」
腕を振り払い、血を落としながら、ボクの全身を舐め回すように見る変人に、そんな疑問を問う。
見てみると、彼の目元には、薄っすらとだけど、隈が出来ていた。
やつれたおじさん、みたいな感じだね。
「……お前は、変人だな」
「会話のドッジボールもできない感じかぁ……」
彼の目は、相変わらずボクへと向けられている。
観察するような、かといって観測的ではない、ある種の、習慣的な行動のような……。
「普通の人間は、あそこで防犯ブザーを鳴らす選択肢を取らない」
「いや取るでしょ、キミみたいな変人に話しかけられたら。ていうか話聞けよ」
目の前の変人は、聞いてもいない事を、独りでに話し出す。
「判断力が高いと見るべきか……お前には躊躇が見られない」
銃を持った変人は、ボクの事を理解したかのように、話を続ける。
「身体能力自体は、そこまで高い訳ではないな」
「かといって、それを覆せるほどのセンスがある訳でもない」
ボクの分析結果、のようなものかな。
それともただ単に、ボクを侮辱しているのか。
まぁ確かに、間違っては無いように思えるけど。
「やはり特筆すべきは、その判断力だ」
これは……褒めているのかな?
それとも、ただ事実を並べているだけなのか。
いや、どうでもいいか。
そんな事を考えてる間にも、変人は口を開く。
「ダンジョンじゃな」
一泊、置いて
「……いや、どこでも同じか」
ぽつりと、変人が呟く。
その目は、ボクの方を見ているはずなのに、どこか別を見ているように思えた。
変人は、言葉を続ける。
「強ぇ奴より、迷わねぇ奴の方が、生き残る」
「躊躇した奴から、死んでいく」
ボクに向けて話す言葉の隅々に、別の何かが見える。
淡々とした、声だ。
熱く語るでもなく、脅すわけでも、誇るような声色でもない。
──ただ、事実を語るような、そんな声。
淀みなく話す彼の目には、やっぱり、別の何かが映っている。
◇◆◇
「人手が足りねぇ」
その目は、ボクの目を微かに逸れている。
「死ぬ奴らが多すぎる」
その声には、事実しか含まれない。
そこで、初めて。
──変人は、ボクの目を真っ直ぐ見て。
「来い」
「ウチに来い」
「迷わねぇ奴は、使える」
……ハハッ、なんて、傍若無人な態度なんだろうか。
思わず、口元が緩む。
けれど、彼の言葉はそこで終わらなくて
「……迷う奴よりは、何倍も」
──その言葉には、確かに、何かが乗っていた。
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ep32:ドッジボールは返されない。




