ep31:ボク……主人公?
──ボガッ、グシャッ、ドガッ……。
重々しい打撃音が、響き渡る。
辺りには、殴り殺されたのであろう、魔物達の死骸が転がっていた。
「ハハッ、気持ちがいいね!」
口の中にペロペロキャンディを含みながら、思いっきりぶん殴る。
拳に、肉と骨と、柔らかい何かが潰れる感触が、絡みつく。
手は血だらけだ。
——もちろん、ボクのじゃない。
汚い魔物な血だ。
たぶん、ボクシングをやってる人達はみんな、この生き物をぶん殴る感覚を味わいたくてやってるんだと思う。
たぶんね。フハハッ。
腕を振り、血を落とせば、拳には銀色。
──メリケンサック、というやつだ。
両手につけてるし、二刀流……は違うね。
二拳流とかかな?
……まぁ、そんな名前でも付けておこうか。
ボクは今、二拳流の特訓中なのだ。
理由は単純明快。
楽し……ごほんっ。
糸が弱いからだ。
あの兄妹の時もそうだったけど、弱くつまらない魔物達に薄い切り傷しかつけれない、というのは、それこそ、つまらない。
そんな事を考えていた時だった。
このメリケンサックが、廃校の教卓の上に、ポツンと二つ、置いてあったのだ。
もう、運命を感じたよね。
ボクは、このメリケンサックと共に行く運命なんだって。
……なんて、どうでもいい事を思い出しながら、ただ殴る。
そういう訳でつけているけど、これがとっても楽しい。そして気持ちが良い。
──拳に、そしてメリケンサックに、魔力を流し込む。
拳を振り絞り、放つ。
その瞬間、魔物の頭が爆発した。
「ふふっ、フハハッ! いいね、これ」
汚ぇ花火だ、というやつだ。フハハ♪
◇◆◇
ダンジョンに行こう!
そう思い立ったのは、この世界にダンジョンが現れてから、1ヶ月……いや、2ヶ月くらい経った時だった。
なんで今までダンジョンの探索をしなかったのか、理由は明白だろう。
──魔力に、魔物。
面白いものが多すぎるのだ。
これだけですら、まだまだ遊べる要素が、山ほどあるのだ。
例えば、あの巨大な火球とかね。
あの主人公パーティーみたいなのを思い出しながら、考える。
あれは、何なのかな。
魔法とか言うやつなのかな?
そもそも魔法が何たるかすら分からないのだ。
分かるわけもないか。
空中に投影された画面をそのままに、瓦礫の街を踏み歩く。
ダンジョンから魔物が現れてからというもの、ダンジョンの位置は事細かに調査され、今ではネットさえあれば、誰でも見ることが出来るようになった。
ネットの情報をチラ見したのによると、ダンジョンを探索する者、略して探索者なるものを、公的に認める動きがあるのだとか。
まっ、あれだね。
ラノベとか、アニメとかであったやつ。
冒険者ギルド……は違うか、あるとして、探索者協会とか。
今までは妄想や空想の類でしかなかった絵空事達も、今では形こそ違えど、現実になってきているらしい。
……正直、今は、あんま興味ないかな。
楽しければ、ボクはそれでいいし。
飛びかかってくる魔物を粉砕しながら、歩き行く。
この地域は、まだ被害が軽微なようで、所々人の営みが垣間見える。
当然ながら、メリケンサックを嵌め魔物の肉体を粉砕するボクは、浮いていた。
ドン引きというやつかな。初めて見た。
面白い顔をしているね。写真でもとってしまおうか。
「フハハッ!」
◇◇◇
──ボクは、自分を特別な人間だとは、思っていなかった。
多少、他の人とは特異な部分があるのは、自覚している。
けど、物語の主人公のような人間だとは、微塵も思っていなかった。
自分から行動を起こすことなく、出来事が自ら舞い込んでくるような、そんな主人公と、自分は似ても似つかない。
ダンジョンが世界に現れた、という点で言えば、ボクの思う主人公、みたいなモノではあるのかも知れないけど、それならば、この世界の人間はみんな主人公だ。
そうではなく、自分という存在にだけ、舞い込んでくる出来事。
──そんな主人公。
◆◆◆
「よぉ……! そこの少年!!」
突然の声。
振り向き、見上げる。
瓦礫の山の上、そこに、彼がいた。
銃を背負った、大男。
男は、そのギラつかせた目でボクを見て──
「──俺と一緒に来ねぇか!?」
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ep31:ボク……主人公?
はい。という訳で、新編ですよ。
あなた方の思う主人公とは、どんなモノなのでしょうか?
宜しければ感想コメント等、よろしくお願いします。




