ep30:終わり? ここからが始まり。
「……な、なんで、ですか……ッ」
声が、震えている。
怯えではなく──憎悪によって。
「『なんで』ねぇ。キミは、なんでだと思う? ボク気になっちゃうなァ?」
短刀の根元を折って、捨て置く。
体内に異物が残るのは、どんな気分なのかなぁ。
あァ! 気分が高揚してしまうよ!
「分からない、ですよ……ッ。分かるわけないじゃないですか! お前のような、悪人の考えなんかッ!」
赤く、燃え上がるような、心からの叫び。
背中に妹を隠して、ボクを見据えている。
妹の方は、震え手で兄の服を掴み、ボクに向けて、恨みがましい目を向けている。
その目尻からは、涙を流していた。
……そうだよ、キミはそれがいい。
キミは、あくまでも守られる側なんだよなァ!
懐に手を入れる。
短な、空白の時間。
そうして、取り出した。
「じゃじゃーん! これなーんだっ!」
「……っ、それ、は」
「……ひっ」
──手元には、黒く、光を反射する物が。
「なんでっ、お前のような人間が銃なんて持ってんだよぉ!」
「フハハ! いい反応をするじゃあないかァ!」
あァ、覚悟にまみれた目が、憎しみに満ちていた彼の声色が、濁っていくのがわかってしまうよォ!
眼を、片手で覆う。
この眼は、いいなァ……。
それでいて──つまらない。
メキ、と頭の近くから、硬いモノを握り潰そうとして硬質なモノに阻まれるような、音が聞こえる。
流石に、壊れはしない、か。
赤色の涙が、垂れ落ちてしまった。
ギョロリと兄妹の方へ向き直れば……ふふはァっ!
憎悪と恐れだけが、ボクへと向けられる。
「あれー? あれあれあれー!?」
トン、トンと、軽快な音を立てて、隙だらけの姿を晒しながら、堂々と歩き進む。
首を傾げ、彼を覗き込むようにして。
「──なんかキミ、諦めてない?」
無表情で、酷く冷たい声が、口の中から漏れ出てしまう。
「ねぇ、ねぇねぇねぇねェッ!!」
大量の銃声が鳴り響く。
そのどれもが、空を切って、落下音を奏でるだけ。
声が、荒らげてしまう。
冷たい、それでいて荒々しい感情が、溢れ出して止まらない……。
「妹を、守らないとさァ? キミは、守らないとダメじゃないかァ」
「キミが、君自身が言ったんじゃないか! 守らないとってさァ」
「……ぁぇ? な、えぇ?」
「……」
荒ぶっていく声。
それなのに、顔の肉は凍ったように動かない。
極寒の炎が、燃え上がって、抑えることなんて、する気すらも燃やし──凍り尽くす。
目の前の男は青ざめて動かない。
ソレに引っ付いてる女は男の服を離しそうになっていた。
「……あっそ。そうだよね。このままだと、キミはそうだ。そこまでで終わる」
左下に目を逸らして。
「キミもだよ。なにソレの服なんか掴んじゃってんの? やっぱキミもだ。キミも、そこで終わる」
兄妹に背を向けて、響く足音をそのままに。
振り返り、ドサッと魔物の死骸に、雑に座り込む。
──バンッ! バンッ!
足と、足に、一つずつ。
そのまま目を合わせて、少しでも動けばどうなるのか、魔物の死骸へと手を向け、弾を撃ちまくる。
「キミ達はさァ……! 守り、そして守られ、目に見えるほどの絆に繋がれて、明確な意志があって……。楽しいだろうね、きっと面白くなるんだろうねェ!」
血でべちゃべちゃの死体を手のひらの上に弄んで、目だけは兄妹を捉えたままに。
彼らの目には、理解不能の異物に、ただ恐怖する感情が浮かんでいる。
穴が空いた足は酷く痛むのだろう。
顰めた顔のまま、それでもボクへと目を向けていた。
彼らの目に、ボクはどう映るのか……。
「でもさぁ──そこまで、なんだよ」
「あァ、いいよ。理解なんてしなくていいさ。これは、ボクだけでいい」
「キミ達は、きっとそこまでにしかならない」
「キミ達の物語は、面白くて、たくさんの出来事があって、楽しいモノとなるんだろうね。たぶん」
穴のあるソコからは、血がとめどなく流れ出している。兄妹の顔は、悍ましさで満ちていた。
「──けどさァ、最高には欠けるよ。欠けてしまうんだよォ!」
天を仰いで、手のひらで顔を覆って、そう呟く。
「お前は……ッ、何を言ってるんだ……?」
「……なんで、痛い、いやだぁ……」
「そう! それさ!」
死骸から飛び出して、目の前まで。
兄妹の肩を両手で握り締め、耳元で語りかけるように。
「キミ達のポテンシャルは、未完成なのさ♪」
「……はぁッ?」
「……は、ぇ?」
腕を回す。
そのまま、兄妹のうなじを手のひらでゆっくり包み込んで、頭を動かす。
至近距離で、息が当たるほどに近くに。
彼らの目に映るボクの顔が、ハッキリと見えた。
「だからさぁ──」
口元を歪めて……あァ、顔が勝手に、笑顔になってしまう。
「──少しだけ、手伝ってあげるよ。喜んでくれたって構わないよ。フハハ!」
兄妹は、もう涙を流さない。
いや、流せない。
◆◆◆
「ねぇ、キミはさ、目の前でボクに妹を殺されたら、ナニを思う?」
ゆっくりと、語りかけるように、彼の脳裏に刷り込むように。
ニヤケ声のまま、耳元で。
あァ……彼の顔が、目が、心が、ボクの言葉一つで、面白いくらいにころころと変わっているのが分かる。
想像に気を取られ、彼は微動だにしない。
「キミもだよォ!」
妹へ顔を向けて、口端を曲げて。
「キミの大好きなお兄ちゃんがさァ、ボクに目の前で嬲り殺さ「──やめて!!」
……やっぱァ、キミだなァ。妹が、一番素晴らしい!
「うん! いいよォ、キミはそれがいい!」
「だからね──」
2人の視線が、ボクへと。
そこには、明るい感情など一つもない。
そうして言葉を紡ぐ。
「──いや、キミはいいや。お役御免、というやつだね」
「ァ"ガッ………………」
手のひらには、彼のお腹。
濁りだらけの魔力を、解放する。
ドサッと、音を立てて少年は地に伏せた。
「……ぇ?」
年端もいかない少女から漏れた、最初の言葉は、困惑ただ一つそれのみ。
倒れ伏した兄の背を見て、固まっている。
少女の手に、掴めるものなどもういない。
「あハァッ! ねぇ! もうキミを守ってくれるお兄ちゃんってヤツはさァ!──いないんだよ」
耳元で、その事実を、彼女自身に、貼り付けるように。
ニヤケて、笑って、笑顔で。
彼女の目には、徐々に、確実に、今までになかったモノが、灯火として。
激情を通り越した無表情。
彼女はさァ、どうかるのかなぁ。
「ほぉら、見てごらん。キミのだーいすきなお兄ちゃんっ、まだ微かに息をしているよ? 」
壊れる程の激情を、兄というスパイスで、苛烈なモノとする。
「早く、助けないと! キミの手で、キミ自身が!」
聞こえてくる呼吸の音が、速度を上げる。
表情は、憎悪だけに塗り広げられた、恐ろしいものに!
「キミを守ってくれる彼は、頼りになる大好きなお兄ちゃんはさァ……。──ボクが、壊しちゃった☆」
──少女の喉が、激しく震えている。
声にならない、音。
ただ、歯を食いしばる音だけが漏れた。
うん……! 声にもならない程に、憎悪に満ちた、憎悪が満ち足りてしまった、美しい鳴き声だ。
…………。
うん、これがいい。ここでいいね。
「……せいぜい、面白くなっておくれよ?」
そう呟いて、流し込む。
「これは、ボクからキミに送る、プレゼントさ。フハハッ♪」
「キミのお兄ちゃんは……」
倒れ伏す少年を一瞥して。
「まぁ、どう転ぶかは、キミ次第だね」
ボクへ向けて、自分の命すらも顧みないほどに憎悪を見せた少女は、呆気なく、倒れ伏せた。
固く繋がれた兄妹の絆から、守ってくれる存在を奪われ、憎悪に塗れた、守られる側だった存在。
これだ……これがいい。これが、最高に成る。
足元には、倒れ伏した二人の子供。
そこでボクは、ただ笑う。
愉快に、楽しそうに。
フハハ♪
さァて?
どんな怪物に、なってくれるのかなァ?
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イベント名:『作られた物語』
ここまでで一区切りとなります。
次回からは、少々閑話を挟んだ後……となります。
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