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ダンジョン が あらわれた  作者: 黒白のアレ。
PHASE2『大厄災』
33/67

ep29:穴の空いた盾


 魔物達の死体が、散らばっている。

 よく見ると無数の切り傷が付いている。


「うん、弱いものだね」


 魔物も、この糸も。

 いくら魔力を一点に集めたとて、結局は魔力に過ぎないらしい。


 ワイヤーよりも弱いか、それくらいだ。

 そしてそれによって切り傷をつけられ、果てには死んでしまう魔物達も、弱い。


 赤い金属の輝きを思い出した。



「あ〜あ、汚れてしまったよ。汚いなぁ」


 水溜まりに足を突っ込んだような、ぐじゅぐじゅした気色の悪い感覚。

 しかもさっきまで生きていた魔物の血液だから、生暖かくて余計に怖気が増す。


 足元にいた死体を足蹴に、歩き出す。

 ぴちゃぴちゃと、血溜まりの音がこの空間に満ちる。



 安堵したような、困惑しているかのような息遣いが、聞こえた。


──視線を、そちらへ向ける。


 見れば、抱き合っている二人の子供。

 片方は男で、もう片方が女だ。


 見た目的には、少年少女と言ったところか。


 ……脚が震えていて、靴はボロボロ。


 少女の方に至っては、目尻に涙を浮かべていた。


 彼らの様相は、それだけで、ずっと魔物達から逃げていたのだろうということが理解できる。


 …………。


 魔物相手に背を向けて少女を抱きしめている少年、か。


 つまり、これはあれかな。

 自分の命も危ない状況で、それでも尚、少女を守ろうとしていたのか。


 ……面白いじゃないか。


 頬の筋肉が、和らいでいくのがわかる。

 口元をやんわりと持ち上げて


「大丈夫かい?」


 そう、声をかけた。

 少年少女の目は、惚けたように、ただ、ボクの顔を反射していた。



◇◆◇



「助けて、くれたんですか……?」


 震えた声で、少年が尋ねてくる。


 余程魔物達が怖かったのだろう。

 その目は、警戒心で満ち溢れている。


 可哀想なものだね。


 こんな世界じゃ、こんな子供も出来るのか。



 ……あぁ、涙が出てきてしまいそうだ。



「そうだね。キミ達は助かったんだよ。良かったね」


 安心させるように、心から漏れてくる言葉を、穏やかに告げる。


 すると、彼らは力が抜けたかのように、ヘタリと、血の滲んだ地面へ尻もちをついた。


「キミ達のお母さんらしき人が、キミ達を必死に探していたよ。ハハッ、今にも飛び出してしまいそうだったかな」


 彼らの目には、安堵、安心、感謝、喜びといったものが、浮かび上がっていた。


 ……分かりやすいものだ。


 端的に彼らの状況を伝えると、少年は何かを言おうと、口を開いて、少し悩むように閉じて。


 何を悩んでいるのか、なんて興味は無いが、開くのを待ってみた。


「……あのっ、ありがとう、ございます。助けてくれて。ほ、ほらっ」


 少女より少しばかり背の高い少年は、心から感謝している、と言わんばかりに、地面へ手を付いて前のめりになり、感謝を述べる。

 そして、隣にいる少女へと、促す。


「あり、がとう……お兄ちゃんを、助けてくれて」


 心ここに在らず、といった様子の少女は、促されるままに、感謝の言葉を発する。


 ……まぁ、仕方のないことなのかな。


 見た目的には、小学生高学年くらいの少女。

 それが、いきなり魔物に命を狙われたのだ。


 ……無理もないだろう。



──気になったことを、聞いてみる。


「キミは、あの時その子を守ろうとしていたね?」


 穏やかに、微笑みを添えて、少年へ問いかける。


 どうして自分を犠牲にしてまでその少女を守ろうとしたのか。


 ボクには、それが楽しい選択だとは思えなかった。


 ……まぁ、要するに、ただの興味に過ぎない。


 少年は、不思議そうな顔をして答える。


「は、はい……」

「……なんで、助けようとしたのかな?」


 ゆっくりと、宥めるように問いかける。


 すると、彼は少し照れたように顔を赤くして、視線を右往左往させ、少しの間を置いて。


「──妹、だからです。俺は、この子の兄だから。この子は、まだ弱いから、守らないといけない、からです……」


 語尾にいくにつれ声を小さくして、彼は、ボクに答えてくれた。


「すごいね! キミは褒められるべき人間だよ! いやぁ、ボクにはそんなこと、出来そうもないや」

『……妹だから。守らないといけないから、ね』


 理由にもなっていない理由を話す少年の目は、至極真っ直ぐだった。


 ……なんて、心優しい少年なんだろうか。


 妹を守る為、己の命すらも賭けて守ろうとする守護の意志……いや、覚悟とでも言うのかな。


「それと……キミは、良い兄を持ったね」


 少女へ向けて、そう笑いかける。


 彼女の手は、ずっと兄の手だけを、強く、握り締めていた。それだけが、信用できる存在なのだと、そう誇示しているようにも見える。


 …………。


 素敵な兄妹愛だと、そう感じた。


──口元が、緩む。



◆◆◆



「……キミは、妹を守る為ならば、命だってかけることが出来る、のかな?」

「この子を守る為なら、俺は、何でも賭けます」


「そう……」


 真っ直ぐで、覚悟が確立された、青色の目。

 ボクの目を一直線に射抜いて、迷いもない。


 兄妹の絆、みたいなものだろうか。

 あるいは、ある種の依存のような……。


 緩く、微笑んで


「でも、さっきキミ、諦めてなかったっけ?」

「──ぇ?」


 ちょっと、不思議に思ったんだ。

 そう、これは純粋無垢なボクの心からポロリと漏れ落ちた、ただの純粋な疑問さ。


「よくよく考えてみれば、抱き着いて背中を向けたのも、妹ちゃん? に縋りついていたのかもしれないよねっ!」

「いやっ、違っ……」


──なんて言ってみるけど、正直これはどうでも良かった。



 ……ボクは、気になるんだ。

 幼いながらに、強固に固められた兄妹の絆。


 それは、兄が妹を守り、妹が兄に守られる、そんな構造の関係性だ。



 ……よく、物語とかで見たことがある。


 邪悪な敵にやられ、守るべき存在であった妹を喪い、復讐の為だけに生きる、そんな存在になる人間を。



──妹の、依存のようにも見えた、兄への行動。


 物語よりも、ボクはさらに上の、とんでもなく面白く、濃密で、楽しくなって欲しいと、そう思ってしまう。


 ……あぁ、妹だ。


 眼をギョロリと動かして、妹を捉える。


 ボクの視線に気づいたのか、震えた手で兄の手を握り締めている。

 表情には、怯えと……あァ、兄を愚弄されたのが分かっていたのか。憎悪の色が見えた。


──口端が、捻れていく。


 素晴らしき兄妹愛。

 それは、とても面白い。最高だ。


 ただ……否。


 だからこそ、だねェ。


 足が、一歩、また一歩と、進み行く。


 兄、ではダメだ。

 それでは、まだ少し、最高に欠けてしまう。


 妹だ。妹がいい。妹の方がいい。ずっと面白くなる。

 兄じゃない。兄では足りない。──妹だ。


 兄への依存、それがいい。とても素晴らしいよ。

 それが使える。それを使おうか。きっとそれが一番だ。


 一歩、一歩。血が、音を立てて跳ねる。


 この空間には、それだけ。


「──ふはっ、フハハァ♪」


 口が割れるように。

 昂る感情が魔力を揺らす。


「決ーめたッ。キミだ、キミにするよォ……キミにしてみるよォ! 妹、ちゃんッ♪」


「──ッ、や゛めろオオオオオ!!!」


 少女の方へ、一直線に。

 それを、少年が防ぐように、塞ぐように前へ飛び出して──




──グサッ


「あれェ?」


 少年が、刺さっている。


「お兄、ちゃん……?」

「……グ、ふっ」


「アハッ!」


 短刀が、少年に沈んでいる。


「あーあ、防がれちゃった☆」


──フハハッ


 ボクを睨みつける少年くんの目は、炎のように揺らいでいた。



────────────────────

ep29:穴の空いた盾


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