ep22:錆だらけの盾
「え? は? な、なんで!?」
目の前には、さっきまで手や足を失っていたはずの彼らが、《《五体満足》》で転がっていた。
短時間の損傷であったのもあるだろう。
しかし、ここまで出来るのか……。
ふふっ、やっぱり魔力は面白い。
風が吹けば消えそうなほどに細い魔力の糸を指先に絡め、くねくねと操りながら、そう考える。
手癖のように、寝ている間であろうが無意識に魔力を弄っていたせいか、魔力が前よりも柔らかくなっているのを体感した。
「情報提供のお礼さ。慎ましく生きることを願うよ。フハハッ♪」
煽るように、嘲るように、盛大に見下す。
まぁ、正直彼らを生かす理由なんて、これっぽっちもない。
けど、殺すか生かすかだったら、生かす方が面白そうだったからね、生かすことにした。
これによって彼らから恨みを買い、いつの日か殺されそうになろうと、それはそれで楽しそうだ。
むしろそうなって欲しい。
かつての宿敵を打ち倒す為、いくつもの困難を乗り越えてボクの元へ、なんて、楽しそうだ。
……それに、魔力でどこまで出来るかも気になったしね。
椅子にしていた一人から降りる。
ブラブラと、大股で。
腑抜けたような歩き方で。
陽光が照らす中央のちゃぶ台の上に立ち、彼らのうちの一人から剥ぎ取った、内ポケットが大量にある革ジャンを羽織り、武器をしまう。
革ジャンの隙間からは、『なんくるないさー』の文字が垣間見える。
くるりと振り返り、憎たらしい笑みを浮かべ、
彼らを一瞥して、
「じゃあね、フハハ」
そうして、瞬く間もなく、姿を消す。
そこにもう、ボクはいない。
◇◆◇
何度でも言おう。
「ボクはうさぎだ」
そして異論はもちろん認めない。
ボクはうさぎなのだ。
ぴょーん、ぴょーんと飛び跳ねながら、彼らから聞き出した場所へ、高速で移動する。
車ほどじゃないだろうけど、まあ、人間が出せる速度じゃあない。
……これが誰にでも出来る可能性があると考えると、いやはや、なんて楽しそうなんだ。フハハ。
彼らの話によれば、魔物たちはここから駅方面の、ビルが立ち並ぶ方向へと進出していったらしい。
まぁ、あそこなら人も多いだろうし、妥当なところではあるのだろう。
特に嘘をついている様子もなかった。
顔を青紫に染め上げて、50Hzくらいでガクブルと震え怯えていた彼らの顔を思い出す。
──目の前に広がる景色は、多彩な彩に満ちていた。
◆◆◆
──薄暗い、どこか。
辺りには鉄の匂いがこびり付き、離れない。
遠くで、ナニカの鳴き声が、ナニカの泣き声が。
壁が砕けるような破壊音に、掻き消される。
平和なはずの現代で──
こんな光景が、存在するはずがなかった。
そんな中──
「はぁ、はぁっ、大丈夫だよ、きっと、大丈夫だ」
二人の子供が、息も切れ切れに、走っていた。
前を走る少年は、後ろの子の手を強く握って、安心させるように、穏やかな声で、喋りかける。
何が起こったのかも分からないのだろう。
彼よりも頭一つ低い少女は、ぼんやりとした表情のまま、それでも足だけは、必死に動かしていた。
少女はただ、少年の言うことを信じていた。
ずっと、走っていたのだろう。
靴底はすり減り、ところどころ破けている。
呼吸は乱れ、今にも倒れそうだった。
それでも、少年は走る。
少女の手を引いて。
前を走る少年は、後ろを走る少女から顔を逸らして、悲痛な表情を浮かべる。
その目には、死への怯えと、守るという意志のみが、浮かんでいた。
少女の存在が、最早それだけが、今も、少年を奮い立たせる。
助けが来る保証なんて、どこにもない。
それでも、少年は走るしかなかった。
来るかも分からない救いを、信じて。
少女を──妹を守るために。
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ep22:錆だらけの盾
こういう形の伏線初めて作った。
とっても難しいです。




