ep21:正当な防衛行動
ゴブリンで遊ぶのは、もう飽きた。
デバイスから空中に投影された、数々の情報パネルを操作しながら、そんなことを考える。
当然、このデバイスも電子機器である以上充電は必須だけど、まぁ、魔力を上手く使えば特に問題はなかった。
……後ろには、焼け焦げた充電器の残骸が大量に転がっている。
結果的には上手くいったし、まっ、犠牲となった充電器達のことは、ちゃんと覚えておくよ。
明日の朝くらいまでは。たぶん。
あの日から、世界中にダンジョンが現れた。
当然、ダンジョンである以上、場所によっては、ゴブリンしか出ない低難易度ダンジョンも多いらしい。
その逆に、超高難易度のダンジョンもあるらしいけど。
そんな所でも魔物の進出が起きているのだと考えると……ふふっ、ふふふ、楽しそうだ。
……ちなみにだけど、ゴブリンしか出ないダンジョンは、昨日何者かにゴブリンだけデストロイされたらしい。
所々瓦礫まみれになった、人の気配が少ない街中を、堂々と歩く。
この場所も、魔物進出の被害を受けてはいるものの、全体で見れば、被害は軽微と言ったところだろう。
……たぶん。
だから、数は少ないものの、ボクと同じように、街中を歩く者だって普通にいる。
ポストアポカリプスの世界であっても、案外人は生きていけるものらしい。逞しいね。
ダンジョンから距離が遠く、魔物達が過ぎ去ったこの街は、徐々に平穏を取り戻そうとしている。
……"仮初"の平穏を。
家の中に立てこもり、窓の片隅でボクの様子を監視する彼らを横目に、ボクは笑う。
◇◆◇
──ぴょーん、ぴょーん、ぴょーん。
ボクはうさぎだ。異論は認めない。
魔力を脚部にバネのような螺旋構造で纏い脚部を強化して、等間隔に建物の上を飛び跳ねる。
1回跳ぶごとにポーズを決めてカッコつけてたら、真っ逆さまに家の屋根を突き破った。
「いったーい。まっいったもんだ、フハハ」
このおもちゃはまだまだ遊びつくせそうだ。
木くずだらけのちゃぶ台の上。
穴の空いた天井からは陽光が差し込む。
陽光が差し込むこの部屋は、陽光の明かりでその部分だけが明るくなっている。
他に光はなく、まるで人が住んでいないような……
──薄暗い部屋を見渡せば、ボクへ向けて構えられた、銃、刃物、鈍器、刃物、銃、銃銃銃。
広い部屋の真ん中。
その周りには、多くの人間。
彼らの目には、異物を前にして、殺意と恐怖だけが入り交じる。
……なるほど。妙に人が少なかったのは、こういうことか。
どうやら彼らは、一箇所に集中して武器をかき集め、もう訪れるかも分からない魔物達に、いつまでも怯えていたらしい。
……頭悪っ。
その証拠に、目の前の彼の目の下は、真っ黒だ。
ここまで酷い隈は見た事がないよ。
片目を閉じて、じっくりと彼らの様子を見渡す。
そんな中、彼らのひとりが、そこに指を掛けた。
──バンッ!!
咄嗟に手を前にして、受け止める。
魔力はやっぱり、面白い。
そして、この世界はやっぱりクソだ。
たった一人の人間すらも、彼らからすれば、排除するに値するらしい。
今まさに蜂の巣になっていく《《はず》》の身体をよそに、そんなことを考えた。
「ボクは悪い人間じゃないよ。フハハ!」
むしろ善人なはずだ。
だってボク、まだ誰一人殺したことないし。
満面の笑みでそう告げたのに、銃声は音を増すばかり。
いやァ、参っちゃうね。ふははっ。
◇◆◇
「全く、子供一人相手にこんなになるまでするなんてさ、なんて外道な奴らなんだ。ねっ、君達もそう思うよね」
手足を切り落とした十数人の大人に、そう尋ねる。
彼らは酷く混乱しているようで、ボクの身体を舐め回すような視線で、頭を上げ下げするばかり。
なにか変なところでもあったのだろうか。
一つの傷もない、自慢の『なんくるないさー』Tシャツを見て、不思議に思う。
それにしても、予想外なところで武器が手に入ったね。
当たり前だが、彼らの武器は僕がありがたく頂戴しよう。
まぁ、そんな事より……
「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど、良いかなァ?」
誰かは知らないけど、地面に這いつくばっている彼の目の前に短刀を突き立てて、覗き込むように、そう言い放つ。
彼は目を真っ白にして、泡を吹いた。
ボクはそんな彼を椅子にして、目をギラつかせて、見下すように笑った。
そしてそんな彼の仲間たちは、目を逸らした。
まったく、なんて面白い世界なんだ。フハハッ。
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ep21:正当な防衛行動




