ep19:ポストアポカリプスは古い。
何度か弄ってみて分かった。
〈魔力〉ってのは、どうやらエネルギーみたいなモノらしい。
別に、詳しく調べる気はない。
どうせそのうち、あの老害が勝手に研究するだろうし。
その時、結果だけ聞けばいい。
体感としては──
重さのない、自由に操れる液体。
そんな感じだ。
最初に熱く感じたのは、
ボクがそう思い込んでいたからかな。
……この眼みたいに。
そう考え、濁りを映す瞳を指先でなぞる。
瓦礫の街には、色とりどりの濁りが漂っていた。
◇◆◇
大股で、ふらふらと瓦礫の通りを歩く。
人も、魔物も、既に過ぎ去って、この周辺には、誰もいない。
建物だけがあって、人の気配は一つもない。
辺りは、シーンと静まり返っている。
見上げれば、夕暮れの空。
紫色の雲がゆっくり流れている。
こういうの、なんて言うのかな。
ポストアポカリプス、とでも言うのだろうか。
……ゾンビなんて居ないけど。
集団からはぐれたらしい魔物の影が、視界の端を横切る。
緑……いや、抹茶色かな。
身長は、1mちょっとの、子供のような大きさ。
手には……釘バットだ。
殺意高いねぇ、フハハッ。
ヨダレを垂らしながら近寄って来るのは、3匹。
まぁ、RPGとかではお馴染みの、ゴブリンくんだ。
──ぐぅ。
腹部から、空腹を知らせる音が鳴る。
……そういえば、今日はまだ、何も食べてなかったね。
視界の真ん中に、3匹のゴブリンを捉える。
今も尚、ヨダレをべちゃべちゃと垂らしながら、先の鋭い舌を出して、頭の悪そうな走り方で向かってきている。
ふふっ、無様だなぁ。まるでこの前の僕みたいだ。
……回転寿司を思い出した。
レーンに乗って、皿が流れてくるアレ。
〈魔力〉を体内に巡らせる。
筋肉は粘り強く。
手のひらは、硬質に。
──この瞬間、ボクはモンスターハンターになった。
振り抜いた手が、赤く染まる。
魔物は泣いていた。
ゴブリンでも、涙は出るらしい。
◇◆◇
幸いな事に、〈肉〉はゲット出来た。
……もう既に物言わぬ肉になったのだから、〈肉〉で間違いないだろう。
気づいた時には、辺りはもう真っ暗。
空を見上げれば、黒色の雲の隙間から、白い球体が姿を覗かせている。
30日ぶりくらいの月だね。
手を振って、こんにちは!とでも言っておこうか。
……こんな世界になったのに、返事は返ってこない。
まっ、どうでもいいや。
魔力とか魔法と聞くと、思いつくものがある。
〈ファイヤーボール〉だ。
ボクは水魔法で安全に行くより、初っ端から飛ばすタイプなのだ。
…………。
ゴブリンは燃えカスになった。
手の皮が焼けこげた。
その場には、変な石ころだけが残る。
「……なんてクソみたいな世界なんだ、フハハッ」
腹の虫が大声で鳴いている。
いつか必ず、火力の調整を覚えようと、そう心に決めた。
そう、"いつか"ね。
◇◆◇
こういう、世界が崩壊していくような感じの、ポストアポカリプスの世界では、定番な事があると思う。
近寄ってくる魔物の首を捩じ切りながら、ぼんやりと、そんな思考をする。
魔物が落とす石ころは拾わない事にした。
あれは魔物の血の匂いがして臭い。
そして嵩張る。とても邪魔だ。
なので、その場でぶっ壊すか捨てるかにしている。
目的地である、明かりのない建物に向かって、歩を進める。
ポストアポカリプスの定番と言えば、やっぱり無人のコンビニでの食料調達だろう。
店の自動ドアを潜る。
そうすると、聞き慣れた電子音が響いて──
『いらっしゃいませ』
会計用の電子パネルから、そんな音がした。
顔に手を置き、膝から崩れ落ちる。
「この世界はクソだ」
ポストアポカリプスの全盛は、2000年代初頭。
そこから更に技術の発展を迎えたのが、この世界だ。
……今時、有人のコンビニの方が、貴重だったのだ。
焼け焦げた方の手に〈魔力〉纏い、帯電させる。
クソみたいな法治国家の産物め、くたばれ。
──次の瞬間、会計パネルの電子音が掻き消える。
ボクはただ、焦げ焦げの右手を床に翳しただけだ。
だから、ボクは悪くない。
フハハ♪
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ep19:ポストアポカリプスは古い。
明日やろうは馬鹿野郎、というやつです。




