ep18:堕ちる
「すーーー……はぁ」
思い切り空気を吸い込み、気の抜けるように、小さく吐き出す。
白い光を放つ円は、半分ほどその姿を隠し、周囲は赤く色づいていた。
風は強く吹き荒れ、秋分を迎えた冷たい風は、ボクの服をはためかせている。
目線の先は、魔物と人。
後は、壊れ崩れた建物と瓦礫の数々。
──まだ崩れていなかった、何処かの建物の屋上の頂点。
電波を受信するために建てられたのであろう、先端の細いそこに、バランスよく、ボクは立っていた。
バカと煙は云々と言うのならば、ボクは馬鹿なのだろう。バカでいい。
景色を直に一望出来るこの場所は、気分を高揚させる。
眼下の景色では、
ある人は魔物や崩落から逃げ、
ある人はバールのようなものを持ち、魔物を嬲り殺し、
ある魔物は人を食い殺し、
またある魔物は、凡そ人とは呼べないほどの身体能力で攻め寄る大男から、涙ながらに逃げ惑っていた。
「……良い、景色だね」
口端が、広がっていく。
誰に話しかけるでもなく、誰もいない、虚空に。
混沌があって、秩序があって、それが入り乱れていて。
きっと、他の場所でも、
他の国々でも、同じ事が起きているんだろう。
冷たい風を、この異常な世界を、大きく、包み込む様に、両腕を、広げる。
顔を、少し上げて
「ふはっ、フハハ、フハハハハ、フハハハハハハ!!」
笑いが込み上げてきて、止まらない。
「なんて! 楽しい世界なんだ! フハハハハ♪」
「ダンジョン、なんて言う、空想や妄想でしか無かった絵空事が現れて、さらには魔物、ステータス、レベル、魔力なんてものまで現れて!」
感情が昂っていく。体内を巡っていた〈魔力〉が、渦巻く。口元が、三日月型に裂けていく。
「そうして……今まさに! ダンジョンから魔物が進出しているッ!」
人目なんて気にもせず、『楽しい』という感情を、惜しげも無く、吐き出すように。
手のひらを、天へ向けて。
「なんて、なんて楽しくて! 可笑しい世界なんだ!」
感情が、最高潮に達する。
それは精神にまで影響を及ぼして、魔眼の機能を鈍らせた。
魔物の眼、ポイズンスライムの眼は、それを毒と認識できなければ、濁ることはない。
視界の中の景色は、とても綺麗で、鮮明で、曇りのひとつもなかった。
…………。
……寒っ。
この季節にTシャツ一枚は、さすがに間違えだったかな。
「ぉ、あっ」
突然の強い風に、変な声が漏れる。
そして、落っこちた。
……当たり前か、あんな狭い場所なんだし。
顔面から、姿勢を帰る間もなく、真っ逆さまに、そして一直線に、堕ちる。
〈魔力〉が使えなかったら、またお寝んねしていたところだった。
フハハ。
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ep18 堕ちる
ということで『大厄災』編スタートです。
奇行癖のある主人公ですが、どうか暖かい目で見てあげてください。




