ep17:白身魚のような会話。
瓦礫に潰された脚は、彼が言うには、想像以上に壊れているらしい。
実際に体感している人間の方が、そういうのは分かるものなのだろう。
「うーん、うーん? どこだ?」
ガサゴソと音を立てて、今にでも崩れそうなラボの中、ゆったりと物を漁っていく。
なかなか目当てのものは見当たらない。
「まだ見つからないのか、愚道戯楽。この建物は……構造から見て、持ってあと数分と言ったところか。早くこの脚を切り落とせ」
事実上、ボクの行動が彼の生殺与奪の権を握っているのにも関わらず、彼の声色からは、怯えも恐怖も感じられない。
彼を助ける事が、ボクにとっての最良だと、信じきっているように。
自ら脚の切断を望む彼は、やっぱり狂っている。
◇◆◇
「じゃ、切るね〜」
「あぁ、膝裏の関節に沿わせるように、真上から力を入れて、思い切りやれ。躊躇は……するようなタイプではなかったな、忘れてくれ」
今から切られるというのにも関わらず、テオール・インサニアは躊躇いを見せない。
それどころか、ご丁寧に指示まで出している。
彼、テオール・インサニアは、脚の切断面から血が吹き出ているのに、顔色一つ変えず、ただその光景を眺めている。
ちょうどその部分だけは、陽光から外れていた。
……見にくいな。
「……やっぱり、イカれてるね」
笑いながらそう呟くと、彼は至極不思議そうな顔をして
「ブーメラン、という物をご存知無いのか……?」
切れ味の悪い、錆びた刃物の破片のような物で脚を切断しているボクに向かって、彼はそう言う。
特に変な事をしているつもりはないんだけどね。
なにかな? 恐怖に怯えて、人の脚を切るだなんて出来ないよ! とでも叫べば良かったのかな?
そんな事を考えながら、切り落とした。
手にべっとりと付いた血は、生暖かい。
◇◆◇
──グチャ
何か、水っぽい何かを踏み潰す音。
「あっ」
足を退かせば、見えたのは瞳の黒い、潰れた眼球。
「これ、ボクのやつか」
手を、左目に翳す。
……まぁ、いいや。どうでも。
◇◆◇
膝から下が無くなった片足の切断面に包帯をガチガチに巻いて、そこから棒状の何かを支えに、伸ばしている。
良くもまぁそこまで冷静に応急処置が出来るものだ。
ブーメランとか何とか言うが、やっぱりテオール・インサニアはイカれている。
……出口が見えた。
後ろからは、瓦礫と瓦礫がぶつかり合うような、硬質の音が響く。
もう既に、崩落は始まっているらしい。
出口を前に、振り返る。
淡白に、思い入れとか、名残惜しさとかは要らない。
「じゃあね、クソジジィ。貸しは、また今度返してもらおうかな。少しだけ、期待しておくよ」
開かれた金の目の、瞳孔を広げて
「じゃあな、クソガキ。借りは、また今度返してやる。盛大に期待しておけ」
特に、一緒に行動する理由が見当たらなかった。
それだけだ。
別れの言葉は、淡白だった。
────────────────────
ep17:白身魚のような会話。
これでテオール・インサニア編は一旦お終いです。
タイトル考えてる時が一番楽しかった。




