朱に黄色を混ぜた色
風切り音に夜の虫の声が混じる。
案外、揺れは少ないのね。気を使ってくれているのかな?
馬より一回り大きい白いオオカミ。
ガルムたらっ、今さらだけど、ちょっとびっくり。
陽は沈んだ。頭上には星空が広がる。それは、満天とはいかない。気をつけてみれば雲が漂っているのが知れた。
顔を上げる。前髪が風圧で流され、いつもより視界が広いように感じた。
先導する隊列は、松明をかかげ、馬で森をかける。その明かりが、黄色味がかった風景を点々と浮かびあがらせていた。
道の両脇に、生い茂った木々の葉は、それでも闇に呑まれたように黒色をしている。松明の炎は頼りなく、色数が少ない濃淡で夜の世界を表現した。
先導する隊列を追うようにして、ガルムはかける。
妹ちゃんはガルムの背に張り付くようにしてご機嫌な様子。でも、ちょっと心配かな。
彼女を胸元に収めるように覆いかぶさる。
目が合ったので微笑むと、彼女も笑う。
愛嬌あるわね……。
うらやましいな。ぽんぽんと頭を叩くと、妹ちゃんは、目を細めた。
何も知らない方がいい。知識は生きるためには必要だけど、しあわせにはいらないのかもね。だから、先を考えてしまう自分が嫌いだ。
王都近郊に野党?
もっとタチが悪いものように思えてしまう。
最悪の展開と光景。
それよりも、助けられる人がいるなら……、絶対……。
意外に夜目がきく。はっきりと見えるわけではない。輪郭は……、わかる。立体感も想像できた。距離感も、多分、正確。
寝息?
胸元を見ると、妹ちゃんが眠っている。
まったくもう……、気持ち良さそうな顔をしちゃって。
夜も遅い時間、一日の終わりはすぐそこ。
隊列の先、別の明かりが見えてきた。
村が近い?
馬がいなく。
その鳴き声は、あたしの不安を増大させた。
「おい? こら、どうした?」
「くそ、怯えてやがるのか?」
私兵たちが騒ぐ。
夏の夜とは思えないほど気温が低い。
霧も出てきている。先に見えていた村の明かりは、もう覆い隠された。
ガルムの背から、妹ちゃんと手荷物を、一緒に抱きながら降りる。
こんな時なのに、幼かった頃を思い出してしまう。
居間で寝てしまったあたしを、お母さまが抱いて布団まで運んでくれたっけ。それが、気持ちよくて、なんだか、とても嬉しくて、寝たふりをずっとしてた。
お母さまは、「お休みなさい」と言い、布団を優しく肩までかけてくれた。それが、何より安心できた。
幼い頃は、それだけでしあわせだった。
「お嬢さま?」
セバス爺が話しかけてたみたい……、ちゃんと聞いてなかったわ。ごめんなさい。
でも、だいたいは理解している。
「馬から、降りて進むしかないわね」
ガルムの鼻を撫でる。
「少しの間、ここで待ってて」
白銀のオオカミが大人しく伏せをした。
彼は喉元からアゴまで地面にべったりつけると、大きな鼻息を出した。
「もう、これぐらいで拗ねないの」
まったく、困った子だ。
妹ちゃんを前足の脇のところ、毛がフサフサのところにそっと寝かせる。
お兄ちゃんの少年を手招き、それから手荷物を開いた。
「それは?」
あら、セバス爺は、見るのは初めてかしら?
あたしの手作り。現時点で最高傑作と言ってもいい。まあ、そんなに作った経験ないけど……。てか、第一号作品。
「何って? マントよ」
茜色のマント。朱に黄色を混ぜた色。朝焼けと夕焼けを色取る主役。
「あんなに、一生懸命に」
「だから、きっと役にたつわ」
セバス爺たら余計なことは言わないでよ。
マーリン先生や、色々な人に教わりながら手作りしたマント。縫い糸に魔力を込め、思い付く限りの効果をエンチャントした特別製。
使うならここでしょ。
妹ちゃんにマントを掛けてあげる。
「おやすみなさい」
「あとは、任せて、ここで待ってなさい」
お兄ちゃんの両肩をつかみ「えっ?」という悲鳴を無視して妹ちゃんの隣へ。
「ぼくもいく。い、いきます」
「お兄ちゃんは、妹と一緒にいなきゃでしょ」
強引に寝かせ、マントをかける。
「ねぇ、お父さんとお母さんを」
「助けるわ、だから、安心して」
「本当に? やくそくだよ」
「うん、約束するから、ここで休んでなさい」
霧も、夜の闇も、深いというのに、少年の瞳が輝いて見えた……。
「それでは、私たちは行きましょ」
馬をつないだセバス爺と私兵たちが集まってきた。
松明の明かりは、もう景色を照らさない。
白い霧を浮かび上がらせるので精一杯だ。
視界は完全に奪われた。
それでも、あたしの感覚は研ぎ澄まされている。
きっと、これは、精霊獣ガルムのおかげだと思う。
彼と離れても多分、大丈夫……。
「あなたたちも留守番をおねがい」
村の方角へ、あたしは駆ける。
脳裏には、風景がハッキリと浮かんでいる。あとは、それを信じるだけ……。
セバス爺の呼ぶ声が聞こえる。
返事をすべき? いいえ……。
もっと加速すべきね。
きっと、周りに誰もいない方が、あたしは自由に戦える。
それが、一番のはずよ!




