表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

王女の愁い


翌日、リニは侍女らにドレスを着せられ、長い髪を結われていた。



鏡には浮かない顔をした、とても美しい王女様が映っている。





あんなにもう一度着たかったドレスなのに、なんて重くて、窮屈で、歩きづらいんだろう。

踵の高い靴も、こんなものを履いていたら走れないではないか。



そして気付いたのだ。

今着ているドレスは、あの17歳の誕生パーティで捨てさせたはずのものだったのだ。


今なら、とても素敵なドレスだと思えるのに。




「とても良くお似合いですよ。リニ王女様」


侍女のひとりがそう言った。

彼女は、いつもリニを世話をしてくれていたひとりだ。

それなのに、いつも彼女にわがままばかり言って困らせていた。



「…あの時は本当にごめんなさい」


リニが静かにそう言うと、侍女は驚いた顔を見せたあと、優しく微笑んだのだった。




やがて、城の大広間でパーティが始まった。  


ここにいるのは皆、他国の王族達なのだろうか。

グラスを片手に、とても楽しそうに語り合っている者が大勢いて賑やかだ。


あちこちから笑い声が聞こえる。


けれど、きっとここに新しく夫になる人物がいるのだろう。



「…そんなの絶対に嫌よ…」


美しく着飾ったリニは、椅子に座ってその人だかりを苦々しく眺めていた。






長いテーブルには、出来立ての豪華な料理が湯気を立ち昇らせて、ところ狭しと並べられている。


あの料理達は、この城の厨房で働く人達が一生懸命作った料理。


リニは、東の国の城で働くみんなの事を思い出していた。



せっかく親友になれたのに、ジュディにさよならも、ありがとうも言えなかった。


まだまだたくさん一緒に仕事をして、くだらないことを言って笑いあっていたかったのに。

突然いなくなって、きっと怒っているかもしれない。



「…何だか悲しいからスイーツでも食べてこよう」


そう言って、リニはドレスの裾を引きずりながら、長テーブルへと歩いていった。


皿にこんもりと盛られた、色とりどりのスイーツをやけ食いしていると誰かに声をかけられ、リニは振り返った。



そこにいたのは、相変わらず上品な佇まいのファナ女王だった。

この日はチョコレート色の髪を美しくまとめ上げている。



「ど、どうしてあなたがこんなところに?」


驚いていると、ファナはにこりと柔らかく微笑んだ。


「あなたのお父様から、パーティに招待されたのよ。今日は娘にとって特別な日になるって喜んでおられましたわ。

それにしても素敵なドレスね。あなたに良くお似合いだわ」


そう言ったファナの腕を掴むと、リニは人気の無い場所へと引っ張っていった。


「ねえファナ女王、あなたに助けてもらいたいの!…私、ウィルとは別の人と結婚させられてしまうのよ。でも、私は彼とずっと一緒にいたいの。だからどうか東の国に帰るために力を貸してほしいのよ」


すがるようにそう言うリニに、ファナは瞬きを繰り返した。


「…そう、そうね。…ああ、それならいい考えがあるわ。わたくしが乗ってきた馬車を中庭に寄越すから、それに乗れば東の国へ帰れるわ」



「あ、ありがとうファナ女王!あなたに会えてよかったわ」


リニの明るくなる表情を見て、ファナは優しく微笑む。


そんな彼女を見て、リニは不思議そうに首を傾げた。


「…ねえ、そういえば、あなたを見ると何だか懐かしくなるの。どうしてかしら」



「あら、わたくしもリニ王女様を見ていると、とても懐かしくなりますよ」


そう言って、ファナは再びふんわりと微笑むのだった。



ちらりと父を見ると、彼は楽しそうに誰かと長話をしている。



リニは時機をみてこっそりと大広間を抜け出し、ひとりで中庭へ向かった。



ドレスが歩きづらい。


もう一度ウィルに会えるのなら、たとえコルセットだけの姿になっても、ドレスと踵の高い靴を脱ぎ捨てて逃げ帰ってやる。


リニは強くそう思った。



中庭に着いてみると、そこには誰の姿も無かった。


リニは大きな噴水の縁に腰を掛け、使いの馬車を待った。




それなのに、待てどくらせど馬車が来る気配は無かった。



「…遅いなぁ」



気付けば、月があんなに高く昇っている。



そのうち衛兵が探しに来るかもしれない。


見つかったら本当に帰れなくなってしまう。



祈るようにただ馬車を待つ事しかできなかった。




噴水の水が弾ける音だけが、辺りに響いている。



目を伏せうつむいていると、そのうち大広間から音楽が聞こえ、舞踏会が始まったようだった。



すると、月明かりの下、森の中で夫と踊った記憶がよみがえった。


やはり、もう彼には会えないのか。


自分の初めての恋は、きっと終わってしまったのだ。


唇を噛みしめ、そう思ったときだった。











「リニ王女様。私と踊っていただけますか」



突然、若い男の声が聞こえ、リニはうつむいていた顔をゆっくりと持ち上げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ