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ヨークタウンの戦い

 ニコラの心配をよそに、彼女は自軍にすんなりと受け入れられた。とりあえず、これで後顧の憂いはなくなったわけだ。

 その数カ月後、ワシントン司令から手紙が届いた。

『至急、チェサピーク湾に来られたし』

 一体何があったのか心配だが、筆跡は明らかに司令のものだったので、とにかくチェサピーク湾へ向かうことにした。




「なんだ、これは……」

 チェサピーク湾に到着した時、驚くような物が目に飛び込んできた。

 なんと、港にバカでかい、フランス王室旗をいくつも掲げた戦艦が停泊していたのだ!

「『ヴィル・ド・パリ号』……」

「知っているのか、ニコラ?」

「ああ。実物を見るのは初めてだが、軍事関連の本にあの船の絵が乗っていた覚えがある。ヴィル・ド・パリ号は、一一〇門の大砲を装備した世界最大の戦艦だ。確か、艦長は……」

「コント・ド・グラス提督ですよ、ニコラ・キャヴェンディッシュ大尉」

 突然口を挟んできたのは、ラファイエット侯爵だった。

「初めまして、キャヴェンディッシュ大尉。あなたの事は聞き及んでおりますが、その様子を見ると解決できたようですね。安心しました」

「こちらこそ、ありがとうございます」

「それで侯爵。なぜ僕達がここに集められたのでしょう?」

「それはですね……」

 侯爵の説明によれば、僕がカウペンスでタールトン隊を壊滅させた後、あせったコーンウォリス将軍はナサニエル・グリーン将軍率いる南部戦線本隊を狙った。

 それでノースカロライナ邦・ギルフォードで戦闘になり、イギリス軍はグリーン将軍を敗走させたが、勝ち戦とは言えないほど犠牲を出してしまったらしい。もちろん、この結果がグリーン将軍の狙いだったことは言うまでもない。

 その後、コーンウォリス将軍はバージニア制圧に向けて動いた。それに対抗したのがラファイエット侯爵である。侯爵も、やはりグリーン将軍と同じような戦法でイギリス軍の戦力を削り取った。

 そしてとうとう、コーンウォリス将軍の部隊は戦線の維持ができないほど疲弊してしまったため、現在バージニア邦・ヨークタウンに入って味方の支援を待っている状態らしいのだ。

 ちょうどその時、バージニアのウィリアムズバーグに到着したのが、あのコント・ド・グラス提督率いるフランス艦隊なのである。

 それらの事をキャッチしたワシントン司令は、当時バージニアにいたラファイエット侯爵へフランス艦隊と共にチェサピーク湾へ向かうよう通達。さらに全大陸軍もチェサピーク湾へ呼び出し、自身もニューヨークにいるイギリス軍本隊への牽制部隊を残してそこへ向かった。

「……というわけで、現在司令はヴィル・ド・パリ号へ乗艦し、グラス提督とヨークタウン攻略について協議しているのです」

「つまり、司令はコーンウォリス将軍に決戦を仕掛けるのですね?」

「そう考えてよいと思います」

 この作戦がうまくいけば、サラトガでバーゴイン将軍を撃破したのに続き、将軍級の人物を二度も破ったことになる。そうなれば、和平交渉へ向けてかなり前進するだろう。


 つまり、この作戦が戦争終結、そしてアメリカ独立の完全成就への要になるのだ。


「……ニコラ」

「ああ、わかっている。次の作戦で、全てを終わらせる」

 その後、ヨークタウン攻略の日取りと作戦が決定した。




 九月に入り、僕達はヨークタウンへ向けて出発した。

 作戦は、実にシンプル。大陸軍とフランス艦隊が連携し、陸と海の両面から包囲するのだ。


 そして、作戦の第一手が打たれた。


 一七八一年九月十日、チェサピーク湾沖でフランス艦隊とイギリス艦隊が衝突。その結果、フランス艦隊が勝利し、ヨークタウンは海路を断たれた。

 この機を逃さず、九月二十八日、僕達大陸軍はヨークタウンを包囲。徐々に包囲を狭めた。

 そして十月六日、僕達は塹壕を掘って自陣の防備を固め、本格的に攻める準備が整った。

 ちょうどその時、ワシントン司令の命令が、戦場に響き渡った。

「大砲用意、撃て――――――!!」

 その瞬間、次々と大砲が火を噴いた。

 ヨークタウンは、周囲を城壁で囲まれている。以前僕達が攻めた、トレントンやプリンストンとは比べ物にならないくらい守りが堅い。

 しかし、孤立状態の上に四六時中砲撃を浴び続けるとなると、落城も時間の問題だろう。

「…………」

「どうした、ニコラ?」

 どうもさっきからニコラは、何か考えているようだった。

「いや、コーンウォリス将軍の事を考えていた」

「と言うと?」

「あの人の性格は、一言でいえばプライドが高い。だから、降伏するにしても一度や二度は反撃を試みるはずだ」

「となれば……僕らも準備を進めておくか」

 僕の部隊はヨークタウン正門前を担当している。そのため、反撃されるとなると僕達に突っ込んでくる可能性が高いのだ。




 十月十六日、ニコラの読みは正しかった。

 僕達の前に三六〇人程のイギリス軍部隊が現れ、突撃を敢行してきたのだ。

「さて、この日のために、司令に頼み込んでいた甲斐があった。ニコラ!」

「ああ。全軍、休ませていた大砲を出せ。目標、前方のイギリス軍部隊。撃て――!」

 そう、僕はニコラの助言を元に、ワシントン司令に大砲によるイギリス軍包囲突破隊の撃破を提案した。司令はそれを受け入れてくれたので、この作戦のために大砲を三門、空けておいたのだ。

 そして、その大砲はニコラの命令によって発射された。

 このおかげで、イギリス軍に大きなダメージを与えることができた。しかし、敵の闘志は、まだ消えていなかった。

「全く、敵ながらあっぱれとはこのことだね。よし、鉄砲用意! 一斉掃射を浴びせろ!」

 僕の号令で、今度は銃によって攻撃した。これで敵に相当なダメージと混乱を与えたが、まだ引き返す気配はない。

「どうする、ビル?」

「かなり厄介だね。追い詰めた敵は、いつも以上の力を発揮するから、安易に攻められない。でも、相手は混乱している。ということは、あまり力を出せない公算が高いな……」

 僕は、決断した。

「よし、『侵略すること火の如く』! 砲撃部隊の護衛以外、全軍、突撃せよ!!」

 そして、包囲の突破を試みたイギリス軍へ向け、突入していった。

 そこには、もちろん僕とニコラも加わった。

 戦闘は混戦を極めたが、こちらはあまり苦戦しなかった。

 それに、初めての共闘でありながら、僕とニコラの連携は自分達でもびっくりするほどだった。

 牽制とトドメの役割分担が見事で、しかもその役割を敵に悟らせない。さらに、互いの死角を常に補い合っているので、そこからの攻撃に対していつでも対応できた。

 そのような甲斐もあり、見事、敵の包囲突破隊を追い返すことに成功した。




 突破隊との戦闘後、またイギリス兵が正門から現れた。

「また突破を試みるのか……って、ん?」

 しかし、出てきたのは一人。さらに、手には何かを持って振っている。

 僕は望遠鏡でよく確認した。

「あれは……白いハンカチ?」

「どうやら降伏の申し入れに来た使者の様だな、ビル。で、どうする?」

 その問いの答えは、すでに決まっている。

「戦闘は起こってしまったが、出来るだけ損害を少なくして相手を屈服させるのがいい勝ち方だ。相手が降伏するんなら、当然、受け入れるべきだろう」

 やがて、そのイギリス兵が僕に接触してきた。やはり、降伏の意図を伝えに来た使者だった。

 僕は使者を司令の下に連れて行った。そして、司令は降伏を受け入れた。

 その後、降伏の条件について何度か協議した後、一八八一年十月十九日、チャールズ・コーンウォリス将軍は正式に降伏し、ヨークタウンを明け渡した。


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