ニューポート奪回戦
ストーニポイントから帰った後、僕とラファイエット侯爵が司令に呼び出された。
「なんでしょうか、司令」
「ああ、よく来たな。実は、クリントン将軍が率いている主力部隊を釘づけにしている間、君達にはある場所を攻撃、及び奪回してもらいたい」
「で、その場所とは?」
侯爵が先を促した。
「ロードアイランド邦・ニューポートだ」
ロードアイランド邦はマサチューセッツ邦に隣接しており、大西洋に面している。しかも港湾街であるから、その戦略的価値は高い。
さらに、司令の口からいいニュースが話された。
「なお、この戦いはフランス艦隊と合同で行う。初の公式共同作戦と言うワケだ」
そうか。確か、サラトガでの戦闘で勝利した後、フランスと同盟を結んだのか。
ちなみに、その後司令が話した内容を要約すると、どうやらフランス艦隊はニューヨークを攻めようとしていたらしい。しかし、ニューヨークの守りは想像以上に固そうだったため、攻撃目標をニューポートに変更したようだ。
「……でだ、君達に、攻撃部隊を任せたい」
「はい。必ずや、ご期待に応えて見せましょう」
「……大尉は?」
「とにかく、持てる力を尽くしましょう」
一七七八年八月九日、僕達はニューポートに到着。陣を張り、臨戦態勢を整えた。
陣を張り終え、僕とラファイエット侯爵との間で作戦会議が行われた。
「侯爵、今回は堅実な戦いで勝利を狙いたいと思います」
「堅実な戦い……ですか」
「はい。今回はフランス艦隊も協力してくれます。フランス艦隊が到着次第、陸と海から挟撃を仕掛けましょう」
「確かに、現状では最善の方法ですね。ところで、フランス艦隊と示し合わせた攻撃の日にちは……」
「八月九日、つまり今日です」
「なら、海への見張りを立たせましょう。その間、他の兵士は待機ということで」
この時点まで、打ち合わせ通りに事が運ぶのであれば、勝利は確実だ。
しかし、孫子の兵法では『勝は知るべくして、成すべからず』……つまり、勝ちを予測はできるものの、必ず勝利するとは言えない、という意味だ。
さらに、戦争の状況は変わり続けるものである、とも言っている。それは、戦況の有利不利も例外ではない。
事実、僕は優劣を逆転させてしまうかもしれない要因に心当たりがある。
「侯爵、一応、撤退の準備もさせておきましょう」
「……な、何を言っているのですか……?」
まあ、予想通りのリアクションではあった。
「驚くのも無理はないでしょう。しかし、我々が不利に立たされてしまう可能性のある要因が気になっているものですから」
「そ、それは一体……?」
「イギリスに呼び戻しの命令を受けているウィリアム・ハウ将軍の戦艦が、まだ出港していないのです。しかも、イギリス軍はすでに我々とフランスが同盟を結んだことを知っている。なにせ、同盟の証として、おおっぴらにイギリスに対して宣戦布告したのですからね」
「と、いうことは、つまり……」
侯爵は、全てを理解したようだ。
「おそらくハウ将軍は、フランスの援軍を阻止しようとするタイミングを狙っている可能性があります。ですから、退路はしっかりと確保しておきましょう」
「そうですね。早速、その命令を下しましょう」
その後、二十日経ってもフランス艦隊は現れなかった。
やはり、最悪の予想が当たってしまったのか、と思った。
その時、事件が起こった。あわてた様子で、伝令がやってきたのだ。
しかもその服装は、フランス軍のものだった。
「報告します! 我らフランス艦隊、ニューポート到着直前にハウ将軍らの艦隊と戦闘! その最中嵐に会い、戦闘は中断! 現在我が艦は、西インド諸島にて修理中!」
「なんですと……」
「君、それはいつの話だ?」
「は……八月十一日の事であります!」
八月十一日……今から十八日も前か……。情報が、遅すぎる!
だが、伝令は責められない。彼の衣服の様子から、イギリス軍によってなかなか上陸、そして僕達に接近することも容易ではなかった事は明白だ。
それに、今は反省会をやっている場合じゃない。すぐに行動に移さなければ、被害が増大してしまう。
「侯爵、すぐに撤退命令を。グズグズしていては、全滅は免れません」
「わかりました……ん? 何でしょう、この声……」
これは……兵士が突撃の際に発する声! ということは、イギリス軍が攻めてきたのか……。
「これは、まずいですね。急いで撤退命令を、早く!」
結局、僕達とイギリス軍の間で戦闘が起こってしまった。そのレベルは、『激戦』と呼ぶにふさわしいものだった。
しかし実力は互角だったようで、双方甚大な被害を出してしまった。
そのようなことがあっても、何とか全滅だけ免れたのは救いだった。
~その頃~
「南部へ派遣……ですか」
ニューポートが攻撃されていた頃、私はクリントン将軍から辞令を受けていた。
「ああ。この前のストーニポイントで敗戦の報を受け取った時、私は感じた。もう北部は限界だと。だから、攻撃対象を南部に変更する決断をした」
「しかし、私にはフランス艦隊を食い止める任務が……」
そう。私は、まだ答えを見つけ出せていない。今は、前線に出られる状態ではないのだ。
「君の主張はよくわかるよ、キャヴェンディッシュ大尉。だが、南部へ派遣するのに、いかんせん人数が足りないのだ。察してくれ」
「……そこまで、おっしゃるのであれば……」
「理解を得られてうれしいよ。では、君は本日付で南部戦線部隊に配属だ。そこで、君に紹介したい人物がいる。入ってくれ」
そう言われてクリントン将軍の執務室に入ってきたのは、都会の女性が好みそうな、甘いマスクの男だった。
「紹介しよう。バナスター・タールトン大佐だ。君は大佐の下について従軍してもらう」
「初めまして、大尉。バナスター・タールトンです。あなたの事はよく聞いています。南部での活躍、期待しています」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
とは言ったものの、どうもこの男の事は危険なニオイがする。嫌な予感しかしない。
その予感が、思った以上に悪い状況としてあらわれたのは、南部へ派遣されてからだった。
南部戦線においてタールトン大佐と私は、コーンウォリス将軍の指示によって動いていた。
戦況は連戦連勝。特にキャムデンでの戦闘に置いて、アメリカでの戦況を一気に変えてくれたホレイショ・ゲイツ将軍を散々に打ち破るという快挙を成し遂げた。
しかし、問題はこれではない。
タールトン大佐は、捕まえた捕虜を自分の前に立たせ、こう命じた。
「反乱兵共を、射殺しろ!!」
現在の捕虜たちは皆、武器を取り上げられて無抵抗な状態だ。そのうえで射殺命令を出すということは、つまり……。
虐殺を、命じたことになる。
「何を言っているのですか、大佐! そのようなことをしては、地元民の支持を得られず、遠征に支障が出ます!」
「だからこそですよ、大尉。ここで反乱兵共を処刑し、我々には向かうことの愚かさを教えるのです。それに、もう命令は取り消せませんよ。……ほら」
振り返ると、捕虜達をイギリス軍兵士達が取り囲み、銃口を向けていた。そしてすかさず、こう叫んだ。
『これがタールトンの慈悲だ!!』
この叫びと共に銃声が鳴り響き、捕虜達は無残に殺害された。
大佐の蛮行は、これだけにとどまらなかった。
ある時、大佐は近くの屋敷に検分を実施すると言い出した。
屋敷に到着すると、私は表札を見つけた。
「『マリオン』……?」
「そうです。ここは、フランシス・マリオンの屋敷。今はもう亡くなっていると聞いていますが、生前、私は彼に何度も辛酸をなめされられていましたからねぇ」
「……大佐、まさか、何かよからぬことを企んでいるのでは……」
「それはあり得ません。私がやろうとしていることは、国王陛下の名の下に発布された法律に忠実な、実に合法的な行為です」
と大佐は言っているが、やはり信用できない。
そして、タールトン大佐はやはり狂行に走った。
大佐は部下に作物や家畜を焼かせ、そして亡きフランシス・マリオンの墓を掘り返させたのだ。
さらにあろうことか、大佐はマリオン夫人に食事を出させ、それを食べながら部下の行動を眺めていたのだ。
マリオン夫人は気丈に接客しているが、その心中は察するに余りある。
「大佐! これは騎士道にも人道にも反することです! 即刻この屋敷から引き上げてください!」
しかし大佐は、私の忠言に耳を貸そうとしなかった。
「あなたは上官に対して口答えするのですか、大尉?」
「…………」
「まあまあ、そのような顔をせずに、一緒にランチショーを楽しもうではありませんか」
「……いえ、結構です。失礼します」
私はそう言うと、大佐のいるリビングを後にした。
……なあ、エリック……。あんな奴に従っている私を見て、お前はどう思っている……?




