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モンマスの戦い

「整列! 帰還なされたビル・エアハート大尉以下に、捧げぇ筒!!」

 バレーフォージに戻った瞬間、僕は驚愕した。

 正規軍とはいえ、民兵同然だった大陸軍兵士が道沿いに整列し、上官の命令で『捧げ筒』の姿勢を取って出迎えていたからだ。

「どうですか、エアハート大尉?」

 真っ先に話しかけたのは、ラファイエット侯爵だった。

「これは、一体どうなっているんですか?」

「実は、あなたがサラトガへ出かけた後、元プロシア軍人でフリードリヒ大王の参謀だったというフォン・シュトイベン男爵が志願兵としていらっしゃいまして、大陸軍を鍛え上げてくれたのですよ」

 侯爵は簡単に言ったけど、あんなにバラバラだった兵士を欧州の正規兵レベルに訓練したとは、すごい人だと思った。

「で、そのシュトイベン男爵は、どちらに?」

「おそらくご自分の執務小屋であると思いますが……おそらく、面会は出来ないと思います。男爵は訓練主任のほかに部隊の指揮官も任されるという、忙しいご身分に任じられましたから」

「そうですか。では、後で手紙を出しておきます」

「そのほうがよろしいでしょう。ところで、司令が次の作戦について相談したいことがあるとか……」

「わかりました。サラトガの報告もありますから、至急司令に会ってきます」




「……そうか、サラトガでイギリス軍を降伏させたか……」

 僕は司令に、サラトガでの戦闘内容を報告した。それを聞いた司令は、やってくれると思っていたというような表情で聞いていた。

「それで、司令。これからどうなさいますか?」

「それがな、先程、斥候から報告を受けた。フィラデルフィアのイギリス全軍がニューヨークへ戻るらしい。我々は、そこを叩く。で、具体的にどうするかだが……」

 僕は少し思案し、進言した。

「孫子の兵法によれば、帰路に就く敵を停止させてはならないとあります。それを踏まえると、立ちふさがるのではなく追撃する形を取るべきかと」

「そうだな。よし、出撃準備だ! イギリス軍が出発し次第、我々も後を追う!」

 そういえば、フィラデルフィアにはニコラもいたな……。完全にわかりあえるとは思えないが、もし戦場でであったならば、恨みは捨てるように説得しよう。




 後日、僕達はイギリス軍がフィラデルフィアを出立したという情報をキャッチし、連中を追いかけた。

 そして一七七八年六月二十八日、イギリス軍がモンマスに到達したころに追いついた。

 僕達はすぐさま攻撃を仕掛けた。対してイギリス軍はしんがり隊を組織し、食い止めを図った。

 当然、すぐに激しい戦闘となった。しかし、大陸兵達にはもう、にわか正規兵の面影を感じさせてはいなかった。

 戦闘力としては、ほぼ互角。少し前までなら正面衝突では明らかに分が悪かったのに、今はどちらが勝ってもおかしくない状況だった。

 つまり、バレーフォージでの訓練生活で、かなり成果が出ていたのだ。

 僕も他の兵士に負けないよう、銃剣を大いにふるった。その最中、因縁の相手が迫ってきた。

「ビルうううううぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 しんがり部隊の中にいたニコラが猛スピードで近づき、サーベルで切りつけてきたのだ。

 僕はそれを冷静に受け流し、間合いを取った。

「……ニコラか」

「なんだ、その態度は! 少し前まで血相変えて戦ったくせに!」

 どうやらニコラは、いつまでも冷静な態度を取る僕が気に食わないらしい。

「もう、恨みは捨てた。そろそろ乗り越えないと、本気でヤバいことになる」

「戯言を、言うなあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 そう言いながら、ニコラはサーベルを振りかぶり、襲いかかってきた。

 しかし、僕は銃剣で受け止め右手から繰り出す張り手で突き飛ばした。

「ニコラ……お前の気持ちはよくわかる。でもな、お前だって一応イギリス軍大尉なんだろ? 上官であるお前が憎しみにとらわれてたら、お前だけじゃない、お前の仲間や部下も死なせることになるぞ!」

「その部下を殺したのが、お前だろおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 そう叫ぶと、ニコラは強い気迫で僕に迫ってきた。


 ――どうやら、戦闘は避けられそうにない――。


「……この、バカモンがああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 結局、僕はニコラと応戦してしまった。

 しかし、こちらは終始冷静になって戦っているせいか、怒りにまかせて攻めるニコラの攻撃が丸わかりだ。そのため、僕はニコラの攻撃にカウンターを体術でお見舞いし続けた。

 そしてついに、僕の蹴りによってニコラがドサッと地面に倒れた。

「いい加減、頭を冷やせ。こんなことやって、死んでいったやつらはどう思う?」

「……その言葉……お前が言うセリフでは……」

 その時、一人の伝令がやってきた。

「伝令! すぐさま撤退せよ、とのことです!」

 撤退だと!? 周りを見ても、とても退かなければならない状況にはないが……。

「伝令兵、それは誰の命令だ?」

「チャールズ・リー将軍であります!」

 チャールズ・リー……。ワシントン司令の副官であるが、司令とはそりが合わない人だ。そのため、司令と親しい僕とは大して顔を合わせたことはない。

 それにしても、人柄とか交友関係に関わらず、将軍位にある人物がそう簡単に撤退命令を出すとは思えないが……。

「なぜ撤退を指示したか、わかるか?」

「はい、敵から側撃を受けた模様です」

 確かに、普通に側撃を受けたのならば、戦況不利になって撤退したくなるのもわかる。

 だが、相手の目的はあくまで帰還。側撃を行うにしても、壊滅的ダメージを与えられるような規模ではないはずだ。


 ――ということは、まさか何も考えずに指示を?


「……あの、バカ将軍……。副官! 僕はリーを止めに行く。僕に代わって戦線維持を! ……それと、ニコラ」

「…………」

「さっき僕が言った言葉、よく考えておけ」

 そう言い残し、僕は近くにいた馬に乗り、リーを止めに向かった。




 しばらく馬を走らせていると、リーの部隊が見えてきた。

「そこの部隊、止まれぇ!!」

 しかし、戦闘による銃声やひづめの音等によるものなのか、リーの部隊は僕の制止も聞かずに退却路を進んでいく。

 このまま退却させると、せっかくのイギリス軍撃破のチャンスを逃してしまう。

 そう思った時、はるか前方から、心の底まで響くような声が聞こえた。

「止まれ――――――――――――!!」

 その声は、ワシントン司令だった。

「ここから望遠鏡で見ていたぞ。側撃を受けたとはいえ、あの規模なら十分応戦できるはずではないか! もっと自分に自信を持て。バレーフォージでの厳しい訓練は一体何だったんだ!!」

 司令の檄を受けた部隊は、すぐさま前線へ引き返して行った。ただ、遠目でしか確認できなかったが、リーだけは苦虫をすりつぶしたような顔をしていたが。

「……そこにいるのは、エアハート大尉ではないか」

 司令は僕の事に気付いたようだ。

「はい。リー将軍の部隊を引かせるわけにはいかないと思いまして」

「それで単身追いかけてきたのだな? ……しかし、リーの撤退命令が不適切であることを見抜くとは……やはり、ただものではないな……」

「……今なんと?」

「いや、聞いていないならいいんだ。さあ、大尉の目的は終わっただろう? 早く自分の部隊のところに戻りなさい」




 前線に戻ってみると、後の祭りだった。

 リーの安直な撤退のせいで軍全体が混乱し、敵に隙を与えてしまったせいで逃げられてしまったのだ。

 僕は自分の部隊を見て回ったが、部隊全体が落ち込んでいた。でも、士気が落ちている感じはしなかった。

 どうやら、勝てる戦いに勝てなかったことが相当悔しいらしい。

 この様子だと、次は今回の事をバネに大きな成果を挙げてくれるだろう。




 ちなみに戦闘後、妙な撤退命令を出したリーは軍法会議にかけられたが、結局命令を出した真意はわからなかった。

 そして会議の結果、リーは軍務停止処分になった。








~その頃~




 無事ニューヨークにたどり着き、ハウ将軍を送り出したが、ハウ将軍はいまだにニューヨークを出港していなかった。万が一に備えるためらしい。

それと、これは私的なことだが、どうしても頭の中で整理がつかない。

 それというのも、ビルが急に冷静になったこと、そしてあいつが言った言葉……。

「こんなことをやって、死んでいったやつらはどう思う?」

 エリックが今の私を見て、よく思わないのはわかっている。

 でも、この恨み……どうしても、捨てきれない……!

「何か悩むところがあるようだな、キャヴェンディッシュ大尉」

「クリントン将軍……」

 色々考えている最中にやってきたのは、ハウ将軍と同じくらい人望を集める、ヘンリー・クリントン将軍だった。

「ああ、別に悩みを無理に言わなくていい。だが、これだけは言える。今の君では、まともに戦場に出られない」

「いきなり何を……」

「まあ、一兵卒なら多少強引に出られるかもしれないが、多くの命を預かる地位にいる者なら、話は別だ。君一人の心の不安定さが、多くの部下の命を落とすことになるからね」

 確かに、クリントン将軍の言う通りだ……。きちんと整理して結論を出さなければ、部下をたくさん失ってしまう……。

「そこでだ、キャヴェンディッシュ大尉。君には参戦してくるであろうフランス艦隊の迎撃準備に取り組んでくれ。後衛であれば、心も落ち着くだろう」

「……ありがとうございます……」

 とりあえず、クリントン将軍の計らいで考える時間が与えられた。これで、見つけられるのだろうか……私の答えを。


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