なんか大変な事になってきたような
ほんのちょっとだけいつもより長いです。
真っ白な世界で対峙する三人の男女。一人は執事服を着、何故か高笑いをあげ、小さな女の子はそれを見て苦笑いで後退。研究者。とそのものの格好をした女はそれを完全に無視して周りの物を興味深そうに見ている。
「……はーっはっはっはっ!カズマ君は行ったか!行ったね?!良いじゃないかぁ!さぁ!さぁさぁさぁ!本の中に閉じ篭って早数十年!あれ?百年だったかな?まあいい。そう今久々の出番なのさ!」
「そうですか。それはもう良いので、早く出して頂けませんか?私、ちょっと忙しいので」
「却下だ!!」
執事服を着たレドウはそう断ずる。
「でも貴方、私が出ようとする力に対して抵抗する程度の力しかないんじゃないです?今ここで私が、」
ズブッとレドウの胸に抜手をいれるキリエ。
「貴方を抵抗できないくらい、痛みつければいいわけですよね?」
「ぬぐ……いきなりだね。だが!私は負けないよ。外なら一瞬だったかもしれないがね」
スピリットゴースト。レドウが呟くと、彼から数発の光弾が放たれ、キリエの四肢を穿つ。
「くっ。痛みは多少あるようですが、この程度……」
「我が魂よ。我を守る形となりてその姿を示せ。スピリットアーマー」
銀に輝く鎧がレドウを包み込むように出現し、キリエを弾く。
「我が魂よ。敵を斬る形となりてその姿を示せ。スピリットソード」
同じく魂で剣を具現化し、軽く振ってみせる。
「来たまえ。相手をしてやろう」
「……」
それをなんとなく見ていたキリエはため息を吐く。
「いえ、別に此処の事を調べたいからいるのであって、私は貴方と戦わずとも無理矢理脱出は出来るんですよ?でもそうすると此処が壊れてしまう可能性があるので、やめているだけで」
「む。それは困るな。なら行きたまえ」
「お父さん!?」
「え、ええ?急に物分かりが良くなりましたね?」
真顔になり、即答するレドウにユティは驚愕し、キリエも二度見。
「ユティ。これは仕方がないことなんだ。カズマ君の為に私達を危険にさらすことはない」
「危険って、危険も何もユティ達死んでるよね?!」
「ユティ。確かに私達は肉体は、死んでいる。だがここに魂は生きているのだ!だから死んでいない!」
「いや、でも」
「お取込み中のようですが、私は行かせていただきますね?」
「「あ」」
キリエの足下に魔法陣が浮かび、青色に輝き、その光がキリエを包んでいく。
「待ってぇーっ!」
「あ、待つんだユティ!」
「あら?」
そこにユティが飛び込み、二人が輝きと共に消える。
「な、な、な……ユティー!?」
一人白い空間に取り残されたレドウは、そう、叫んだ。
「皆!聞いてくれ!」
「どうしたのカズマ君」
「町の外にいる襲撃者の話だ!」
「何かあったの?」
街の中央広場、そこにプレイヤー陣が集まっていた。
「いきなりだがもしかしたら街を出ねえといけねぇかもしれねぇ!」
「いや、だからどうしたの!って聞いてるんだけど!」
「あ、えっとな「お前らぷれいやーって奴らを狙う輩が来てんだよ」ギ、ギル……」
焦りすぎてしどろもどろになっているカズマの声に被せるようにギルは説明し始める。
「今、俺たちの王と英雄殿が足止めしているが、いや、恐らく負けることはないんだが、万が一を考えて、逃げる準備をしとけってことよ」
「わかったわ。他の皆も聞いたわね?宿舎に残してるもの全部アイテムボックスに入れて、逃げる準備を」
「カナデよ。我はその前にどう退散するのかを問いたい」
「こらシュウ!カナデ殿を呼び捨てするな!」
「我は滅炎のシュウ。眷属を呼び捨てにしようが関係あるまい」
「いざとなったら、シュカさんにこのアトミックポーションで」
「やめろ!その先はやめろ!皆!コイツを押さえつけろ」
「ぬわぁあああ」
「「「うおおおおおお」」」
「とりあえず、盛り上がってるとこ悪いが、ヘル様が開いたあの門で帰ることになってるからな」
「おぉ……たい、太陽が赤黒く……」
「うわぁああ!空が、空がぁ!星の終わりか?!アンゴルさんか!?世紀末なのか!?」
「最初の二つほぼ一緒だし、世紀末は世紀末でなんか違うだろ!」
三者三様……というより、最早展開にノリだけで付いて行こうとするプレイヤー一行に小さく息を吸って、ギルが大きな声をあげる。
「うるせぇ!!!!てめぇらはとりあえずカナデの言うこと聞いて、中央広場に残ってろ!!少ししたら城で転移門を開く!!いいな!」
「「「はい!」」」
と皆が頷き、バラバラに散り始めた時、カズマの前に青い魔法陣が出現し、その輝きと共に、キリエとユティが現れ、そのコンマ数秒後に、身体がボロボロで目も当てられないような少女が姿を見せる。そしてキリエは笑顔で
「プレイヤーの皆様、お迎えに、あがりました」
と、言うのであった。
ちょ、ちょっと待てええええい!?あれ?あの本の中でレドウ戦ってんじゃねぇの!?も、もしかして負けた!?え、つかユティいるし何これ?!いやいやいやいや!おか、おかしい!おかしいよ!
「ちょ、ちょーと待てぇい!」
「あ、おにーちゃん!」
「「「おにーちゃん!?」」」
「ぐふぅ!」
ユティは喜び、ロケットの如く俺の腹部に飛び込み、顔を押し付け、
「おにーちゃんの匂いがするね」
「なんか凄い変態的な絵面になるからやめて!?」
「か、カズマ様、その子は」
「あ、アリスコイツは……っつか!皆逃げろ!そのメガネGMだ!」
「何ッ!?とっちめろ!」
「わ、我をこのような場所に送ってくれた礼をしなくてはな!」
「皆待って!迂闊に仕掛けちゃ……!」
キリエは平然と、一言。召喚二門 多頭蛇、八岐大蛇。
「は?」
誰かが疑問の声をあげる。突然九つの頭と八つの頭を持つ蛇が現れたのだから当然だろう。
だが、現れたからには、それだけじゃ済まなかった。
「あぎゃぁああああああ!!」
「ハイクゥ!!」
「殺さないでおくれよ?ヒィ君ヤッ君?」
「あ、うわぁああああああ!」
一瞬で蹴散らせていく仲間を見て蜘蛛の子を散らすように逃げていく面々。当然の如く俺も逃げていた。
「って主ぃ!なんでテメェも逃げてんだァ!まぁ逃げてなかったら逃してたがな」
「どっちだよ!」
「「「うがぁ!!」」」
後方ではヒュドラがブレスを吐き、プレイヤーを吹き飛ばし、ヤマタノオロチが食らいつく。地獄絵図。
「な、なんであんなのを召喚できんだよ!!」
「ま、多分すぐ潰されるけどな」
「え?あれが?」
「考えてみろよ。そもそもここは龍の街だぜ?」
家屋の上にはいつの間にか屈強な身体つきをしたおっさんやら青年やらが立ち並び、そして、ヒュドラ達に一斉に襲いかかった。中にはガイルとリエールもいた。いなくなってたと思ったら仲間集めてたのか。
「てか適当に走ってるけど、どうする?」
「城に行きましょう!この状況なら竜化しても大丈夫でしょう。隊長はアリスを、シュカは主を乗せて行ってください。私は彼らを相手しましょう」
「「わかった」」
ギルとシュカは一度止まり、竜化と呟く。そして毎度同じく光に包まれワイバーンになる。
セイルはその間に大剣を肩に乗せて構え、後ろから来ていた狼を袈裟斬りに斬り伏せると、狼が浮き出てきた魔法陣に粒子となって吸い込まれていく。
「さぁ!早く!」
「わかった!ありがとな!セイル」
「ええ。また会いましょう。主」
『つって、最悪別々に移動しても俺たちは主が召喚できるから問題ないがな』
「またギルは身も蓋もないことを」
『事実だろ。さて、加速するぞ、城のバルコニーまで一気にいく』
『主、手を回すのが無理なら、背の鬣を掴んでてくださいね』
「おう。頼む」
そして、ぐんっとすぐに空へと飛び上がり、城まで一気に加速する。
「わぁ!早い早い!凄いねおにーちゃん!」
「ユティは何だか和むな……ってなんか来てるぞ」
『たかがハーピィ如きで私達を止めようなど。舐めるな』
シュカとギルが目の前に来た鳥と女の合いの子のような見た目の、ハーピィを火炎で撃墜し、そのまま食らいつく。
「なっ!?」
「ちょ、お前ら!?」
『あ、わりぃ。飯食ってなかったからつい』
「つい、で?!」
『このまま城まで持って行って食料にしようかと』
「……やべぇ想像したら吐きそうになったわ。いや、ってかユティがいんだから止めろ」
だってハーピィつっても見た目が見た目だから人喰ってるようにしか見えねぇし……。子供には見せちゃいかんだろ。
『致命傷与えたら消えちまうから、手加減するので苦労したわ。ん、つか暴れんな鳥』
ギルに咥えられたハーピィが決死の抵抗……で暴れ始め、イラっとしたのかわからないが、ギルがそのままグシャッと噛み砕く。ハーピィは短い悲鳴を上げ、粒子へと変わって落ちていく。
「うわ、ギルやめろって言ったろに」
『いや、俺たち自我が大してなかったら今頃こんなこといくらでもやってたと思うぞ?つか、血液すら消えんのかよ。味しね〜。シュカ。そいつ捨てとけ』
『そうですね』
そういう問題じゃないんだが。
「キィッ」
シュカがハーピィを捨てると、待っていたとばかりにハーピィが羽を飛ばしてきた。そしてその羽が俺へと到達……する前に風の結界で防がれ、シュカの放った炎で今度こそ撃墜。粒子へと変わって魔法陣に吸い込まれて行った。
『ったく。ギリギリまで追って来やがるのな』
バルコニーへ、俺たちを下ろすと、シュカとギルは姿を人型にして、それぞれ武器を出す。
「俺がここから矢で殲滅しとくから、シュカ。主達を頼むぞ。謁見の間まで急げ。手筈通りに行けば、そこでガイル達とも出会えるはずだ」
「わかった。隊長」
「ん?」
「ご武運を」
「おう」
そこでギルを置いて俺たちは走り出す。
「最初はヘルロードが龍になってここを通り過ぎたから早かったけど、走るとちょっと長く感じるな!」
「というかシュカ!貴女あの門使えるの!?」
「あぁ問題ない!お父さんに鍵を貰ってる!」
「つか、お父さん誰ェ!?」
「主が呼び捨てにしている龍の王だ!」
「な、なにぃ!?」
そうこうしている内に、謁見の間に辿り着き、その扉を開く。
「ガイル!!」
「来たか、カズマ。お前の仲間達もここへ連れてきたぞ」
「あの女の人が召喚した魔獣は僕達が押さえていますから、心配ありません」
「そうか、ありがとな、二人とも」
「気にするな」
「ッ!?」
ドゴンッと何かが崩された音に振り向くと、猫?っぽい耳を生やした、ヤンキーっぽい雰囲気の銀髪で灰色のパーカーを来たにーちゃんと、緑髪で、長ロングヘアーのフード付きローブを着たエルフっぽい女がいた。
「ッコラァッ見てんじゃねェよッ!ッコラァッ!」
「一緒にいる私まで品性を疑われそうなのでやめてくれエッジ」
「んだ?ゴラァッ!?森に閉じこもって、何もしねぇ癖に他の種族をクッソ上から目線で見下してる糞エルフの分際で俺様に話しかけんじゃねェよ!!」
「全く。キリエ様の呼び出しでなければ君のような奴とは絶対に一緒にいないのに」
「んだァ!?コラァッ!?」
すげぇ真逆なタイプな二人のようだけど……キリエって名前が出たってことはやっぱそうだよな。
「馬鹿な、ゾックやランデ達はどうした?!」
「アァン?あぁ。あの糞蜥蜴共かァ?死んだよ」
「ッ……き、貴様ァ!」
「来いよォ……テメェ同じ、肉塊にしてやる」
「ガイル!待て!」
「神狼嵐ッ!」
「ぐぅあ!」
「フェンリル!?」
エッジという青年の放った吹雪で吹き飛ばされるガイル……だがそれよりもきになる言葉が聞こえてしまった。
「アァン?誰が俺を呼んでいいって言ったよォ!?まぁいい。俺の名前を聞いて恐怖しろ!俺の名はエッジ!エッジ・フェンリルだ!」
「……」
「アァ……?いつもより反応がわりぃな」
「きっと馬鹿そうな君の顔を見て呆れてるんじゃないですか?」
「はァ!?んなことあるかッ!」
「じゃあこの状況の説明がつかないじゃないか。神狼の名を聞いて震え上がらない人間なんてそういない筈だが」
「……」
今に至っては皆無言になっている。そりゃまぁね、フェンリルってなんか凄いのはわかるけどさ、そのフェンリル、仲間か何かわからんけど、つい先日からここにいるからさぁ……。恐怖のフェンリル、子供乗せて遊びまわってたから、あんまりなぁ……。皆もそれ見てるせいか、そんなに驚いてないし。
「まぁいい。今からテメェら半殺しにして、キリエに渡すのはもう、変わりようがねェ運命だ」
「この粗暴の悪い者と一緒の意見なのが激しく屈辱ですが、この者の力量は本物です。大人しく投降すれば、私が責任を持って貴方方を保護します」
エッジは手の骨をボキボキと鳴らしながら前へ歩み出し、エルフの方は虚空から杖を取り出し呪文を唱え始める。
「させっかよ!」
「ウィンドスラッシュ!!」
俺は牽制に氷をエッジに撃ちだし、シュカは双剣を振ってエルフに風の刃を放った。
「ルァッ!」
その両方が、エッジの咆哮で打ち消される。
「今のは拒否って事でェ良いんだよな……?」
「あ、いや僕は……」
プレイヤーの一人が手を上げ、投降しようとしたとき、一条の光がその胸を貫く。
「かはっ……」
「あ、あぁ……る、ルキナ、ルキナぁ!」
プレイヤーの少女、ルキナはその場で崩れ落ち、隣にいた子に支えられる。
「き、キリエ……」
「致命傷は外しましたよ?あぁ、でも……死んじゃうかもしれませんね」
「て、テメェええええ!!」
「主!」
「カズマ様!」
インディスティンを鞘から抜き、キリエに向かって斬りかかる。
「アァ?させると思う?!んなにぃ!?」
キリエの前に守るように出てきたエッジを後ろから追い越してアリスが殴り飛ばし、俺がキリエを一閃。するところ、たった数フレーム程の瞬間、エルフの魔法が発動した。
「あーー」
マナが溢れ、謁見の間を吹き飛ばし、尽きることのないマナの奔流がプレイヤーを呑み込んでいった。
「……あ」
立ち上がれない。瓦礫が背中の上にあるからか。
声が聞こえる。
「……ズマ……ま!」
「チッ……ってぇな」
意識が戻ってくるとオマケに痛みも敏感になってきた。つか身体全体がいてぇ。
「カズマ様ぁ!!」
「あ、聞こえるよ!アリス!」
アリス声でっけぇな。あ、でもあれに巻き込まれたなら近くにいるのか。なら聞こえるか。
「つか、なんかさみぃし、すげーベタベタすんな?」
と、思ったら血だまりが出来ていた。俺を中心に。
「あ、これヤバイな」
出血量的に。なけなしの力で回復魔法かけるか。
「アーリスぅ!助けてー!」
回復魔法で大きな傷を重点的に治しつつ、救助を待つ。
「つかいくらなんでも遅くねぇか?よし、ちょっとギルかなんかを召喚するか。召喚!」
そして適当にギルを召喚。ボゴンッと瓦礫を弾き飛ばし、ワイバーン型のギルが召喚された。
『っでぇ!!誰だコラァ!?』
「おぉギル。助けてくれよ」
『あ、主か?』
「あー皆大好きカズマ様だ」
『生きてたのか』
ギルは人型に戻ると、物凄い表情で俺を睨む。
「ちょっと、どうしたんだよ」
「色々あってな。ここ、何処かわかるか?」
「ん?崩れ落ちた謁見の間じゃねぇの?」
「違う。違うんだ主。ここはダンジョンだ」
「は、はぁ!?え?はぁ!?」
「今主が召喚してくれたから俺はここにいれるが……主。あんたとあの場にいた奴ら全てがこのダンジョンに転移された」
「……マジかよ」
「俺も逆召喚で主を助けようとしたんだが、弾かれちまってな。とりあえずやって探したんだがな……」
「俺たちの場所がわからなかったと」
「あぁ。わからねぇまま一週間も経っちまったんだよ」
「そうか。……一週間!?」
「何驚いてんだよ」
「それでいくと、俺一週間も血だらけでここで寝てたことになるんだが!」
「……んだと?時間の流れが違うのか?……だりぃな」
「このままじゃウラシマ効果みたいのがあって俺が戻った頃には皆おばあちゃんおじいちゃんなんてこともあるのかよ!?」
「ウラシマ効果?がなんだかわからねぇがまぁニュアンスは間違ってねぇよ。んだから、うっと」
「お、さんきゅ」
ギルが瓦礫をどかして、俺を立たせてくれる。
「さっさとここ抜けるぞ」
「あ、つか、さっきからアリスの声が聞こえてたんだが、近くにいるのかな」
「あ?今全然聞こえないが?」
「そうだよな……」
で、とりあえず。二人で現在の(まぁ俺は聞くだけだが)情報を交換しあい、ダンジョンの探索を開始した。




