俺は主人公にはなれないようだ。
「こんにちは」
俺達の前へ音も無く降り立ち、ローブのフードを目深に被った女が言った。
アーサーや、ジオ、ギル達もいるのに俺を、見ていった。気がする。
「カズマ様」
「……っはぁ、はぁ」
じっと見られて、息を止めてしまっていた。アリスが声をかけてくれるまで気付かないってマヌケだな。
「聞こえていませんか?」
「あ、いや、聞こえてるよ」
「なら返してくださいよ。挨拶の基本ですよ」
「こ、こんにちは……じゃなくて、あんた!今ヘルロードと、あの鬼のおっさん吹っ飛ばしてたろ?!何者なんだ」
「うーん。創造神の従者?」
「創造神って。ふざけてないで、答えてくれよ」
今はまだ何もされていない。何もされていないけど、嫌な汗が止まらない。
「カズマ。下がれ。コイツと話をするな」
スッとアーサーが俺の前に出て、続くようにジオも出る。
「え、どうしたんだよおっさん」
「そうですよ。どうしたと言うのですか。まるで私が危険物みたいじゃないですか」
「危険物程度で収まればいいがな」
「酷いですね……私そんな危ない人じゃありませんよ。と、雑談はもうほっといて、他のプレイヤーは何処ですか?話によればこちらにも数十人といるはずですが」
「さぁな。とりあえず今この国は封鎖中だ。中に入るならこの俺を倒してから行きな」
「何を仰られているんですか。私は神の使いなんですよ?貴方方の許可等必要ありません。私は問答無用で連れ去っても良いのですよ?でも一応、仕方なく、言ってあげてるんです。あ、プレイヤーの方ならわかるでしょう?このイベント実は、ゲームのバグみたいな物なんです。なのでプレイヤーの皆様を助けて差し上げようと思いまして」
「……やっぱりあんたは」
「はい。ゲームマスター。縮めてGMと呼ばれる者ですね。この世界での名前はキリエと、名乗っています。カズマ様のお名前はフィルから聞き及んでおります」
「フィルから!?」
懐かしい名前だなおい!
「てかあいつ何してんの」
「フィルは貴方方に倒され、フロアマスターから解放。今はクロムから逃げ続けております」
何やってんだアイツ。
「で、あんたは何処のフロアマスターなんだ?」
「私は第七十五層。フロアマスターのキリエ。ここでの職業は魔導師兼召喚師兼拳士です。ここに来てから幾つかの【称号】も頂いております」
「へ、へぇ〜」
七十五層こえーよ!!よくよく考えりゃ怪獣二体吹き飛ばすほどの力を持ってる辺りがヤバすぎるだろ!!
「カズマ。ペース持ってかれるから話すなって」
「あ、わりぃ。でも聞かないといけないことがあるんだ。あんた、えっとキリエ。俺達はもうここがゲームじゃないってことは知ってる」
「ほう。何故ですか?」
「お前らの仲間に教えて貰っただけだよ。んで、あんた達は何が目的なんだ。何のために俺達をここに連れてきた」
「……貴方方が正当な方法でここまで来られたなら、教えてあげます。それまでは、秘密です」
女。キリエは口の前に指を立ててニィっと笑った。
「まぁ、わかりやすいように顔は見してあげましょうか。礼儀としても悪いですし」
キリエはフードを脱ぐと俺達を見て笑みを浮かべる。
俺はその場で機能停止。
「嬢ちゃん中々綺麗じゃねぇか」
「お褒めにあずかり光栄でございます。英雄殿」
背丈は百六十ちょいくらい。真っ白で、肩辺りまで伸ばされた髪と、病的なまでに白い肌。血のような色の真紅のワニ目。
「ノースフェラトゥ……か」
「ですね。カズマ様的に言えば、吸血鬼という種族ですカズマ様」
「お、おう。吸血鬼ぃ?!待って吸血鬼とかいそうな世界観だけど吸血鬼ってどいつもこいつもこんな強いのか?!」
「さぁ。私程では無いはずですが、純血種の者で、その場が夜であるならば、ヴァルキリーを超える力を有しているでしょうね」
「そ、それってどうなんだおっさん。強い?強いのか?」
「ん、あぁ。カズマ百人いても蹴散らされる。触れずに殺気だけで殺れると思うぞ?」
「なんと」
超人系の人間が主人公のテレビで見る感じのやつか。気を高めるだけで、周りの地形を破壊していく、とか。
「カズマ。お前が今何を考えているかわからないが、とりあえずその嬢ちゃんはもう話すつもりはないみてぇだぞ」
「え?なんっ?!」
瞬きの間にキリエが紅く輝くナイフを片手に斬りかかり、それをアーサーが弾いていた。
「アリスちゃん。カズマを連れて下がれ。神狼は手伝え。ガイルとリエールは街中にいるカズマ達の仲間を保護。竜族三人はカズマ達を守れ!!」
「「は、はい!」」
「あーわかった」
「了解です」
「はい」
「てめぇら緊張感ねぇな!?」
上からガイル、リエール、ギル、セイル、シュカである。特にギルは適当じゃないか?これ意外と命懸けな気がするんだが。
「神狼」
「なんだい?」
「一気に決めるぞ。日が暮れる前にな」
「そうだね。ご主人守らないとだし、遊んでられる相手じゃないしだからね」
「行くぞ」
「ん」
アーサーは虚空から最初の訓練の時に見せた黒色の騎士装備一式を一瞬で装備。剣も黒色のクレイモア。
一方ジオは自身の周りに氷で作ったと思われる狼を十体程出現させ、両手に氷を纏わせ、即席の剣を作り上げる。
対するキリエは自然体。紅いナイフを片手に弄び、真っ直ぐに俺を見てる。俺を見てる……。赤い瞳で……真っ直ぐに……。
パリンッとこの場に相応しくない、ガラスの割れたような音が響く。
「あれ?」
真っ白な空間に小屋一つ。
「これ、「カズマーっ」のわぁ!?」
「やぁ」
「何でだよ!?今俺すっげぇピンチなんだけど!お前らとじゃれ合ってる暇ないんだけど!ユティ!」
「いやいやいいじゃないか。私の力で時間は止めてあるよ。それより彼女をどうにかするべきじゃないかい?」
「彼女って……誰?」
ボッサボサの焦げ茶の髪を伸ばし放題に伸ばし、研究者っぽい服装をした女がレドウの座るソファの向かいのソファに腰掛け、ブツブツと呟いていた。
「精神から侵食して、記憶をリセットする予定だったんですけどね。これは中々……予想外ですね」
「おいおいおい。今すげぇ不審な言葉が聞こえたぞ?お前誰だ?」
「……私ですか?キリエです」
「はぁ?!なんで?いや、全然姿違うじゃん」
「いえいえ。これが私本来の姿なんですよ。しかしまぁやってくれましたねカズマ様。まさか魂の保存書を持っているなんて。これに入られてしまっては何をやっても無駄じゃないですか」
「い、色々意味わっかんねぇんだけど、魂の保存書ってのはやっぱレドウのやつなんだよな?でも、俺の魂を保存できるわけじゃないと思うぞ」
「ええ。その通りです。ですが……いえ。何でもありません」
「え?なんで途中で止めるんだよ」
「カズマ君。長いよ。私は少し寝るよ」
「ええい遮るなレドウ!寝てろ!勝手に寝てろ!むしろ永遠に寝てろ」
「おやすみ」
レドウはそのままソファに肘付き寝始めた。
「ほんとに寝やがった……で、なんで途中で話し切り上げんだよ」
「それは……わざわざ私の魔法の力を教える必要はないと思いまして。一応努力して扱えるようになった力なものでして」
「ふーん。まぁゲームマスターだもんな。色々おかしい魔法の一つや二つ、平然と使ってそうだし。んだから、事の次第をわかってそうな奴に聞くよ。レドウ起きろ。今何が起きたか説明してくれ」
「ぐ〜。すぴ〜」
「おいこらテメェんな在り来たりな寝息立てんじゃねぇ。起きろ。おーきーろーよー!」
「全く何だい君は人に永遠に目覚めるなと言っておきながら今度は起きろなど。身勝手な!」
「何地味にキレてんだよ!」
「ねぇ〜カズマ〜そんなのどうでもいいから遊ぼうよぉ〜」
「いや、ユティもちっと待ってくれ。今大事な話してっから!」
「むぅ」
「で、レドウ。俺にわかりやすいように簡単に説明してくれ」
「では、簡単に。彼女がカズマ君の魂を操ろうとして、私がカズマ君をここへ招く事でそれを防いだ。というわけだ」
「なるほどわからん」
「わからないのかい。まぁ彼女は魂に干渉できる力を持っているんだ。今カズマ君達が相手しているノースフェラトゥも、彼女が操るなりしているのだろう」
「ええ。……大体正解です。考えればわかることでしたね。さて、この場のことも調べたいところですが、そろそろカズマ様には外に戻ってきて貰わないとですね」
「させると思うかい?この私が。魂を扱う事に関しては私は負けるつもりはないよ。カズマ君は先に戻って、ノースフェラトゥの相手をしてくるといい。私は外に行くことはできないが、ここで彼女を足止めすることはできるからね」
「なら良いです。研究ついでに貴方を倒しましょう」
「ユティもいるもん!」
「なんかこの場には相応しくない気がするけど和むなユティ!んじゃ、任せるわ!」
「任せたまえ」
「おにーちゃんもがんばっ」
ユティが言い切る前に視界が暗転。
「っはッ……戻った……か?」
「カズマ様?」
「あ、大丈夫。アーサー、ジオ。キリエは魂を操る力があるみたいだから気をつけてくれ」
「「わかってる(よ)」」
「いやなんでさぁ!?」
「そういう力をさっきから嬢ちゃんが全開に放ってるからさ。カズマが引っかかりそうだから話させないようにしてんのに、話し続けるしよ。今はもう使ってねぇみたいだからいいけどよ」
「いや、あ、そうか。で、どうするよ。それ食らわなくても、十分そいつやベー奴なんだろ?吸血鬼の癖に、んな真昼間でも動けてるわけだし」
「あぁ。だから今全力で、潰す」
そう言って大剣を構えたアーサーの姿が消え、それに反応したジオとキリエも消え、その直後に剣戟の音が響き、その余波で周りの地形が一瞬にして変化した。
「つか目で追えねぇんだけど?!」
「私でもちょっと見える程度ですから、相当な速さで動いてますよ」
「うへぇ」
んなわけで俺からは説明できない戦いが再び発生した。
「つかこれ普通俺が貰った剣で俺が活躍するもんじゃね?違うの?あれ?」
「主。俺たちは主役にはなれないんだ。諦めろ」
「ひでぇ!だって俺主役と言っても良い位置にいない?ヒロインたるアリスもいるし、仲間だって多いし!」
「主。通常物語の主人公はヒロインより強いものだ。そんなのは俺でもわかるぞ」
「ぬぐっ」
言葉のダメージに呻いて数歩下がった時、俺のいた場所が斬撃派のようなもので斬りとんだ。
「……」
「お、おおぉ……」
「に」
「……」
「逃げるぞ!!」
「おう?!」
俺たちは急いで街の中まで飛び込んだ。
巻き添えで死にたくねぇよ!!
我ながらカズマの扱いがやや悪いと思う今日この頃。
お読み頂き誠に有難うございます!




