皆の訓練。
アーサーとカズマら三人が戦っている同時刻、ワイバーン三人組とアリス、カナデ一行は王国の外を一時間程歩いた先の山の麓に来ていた。
「んなわけで!」
「何がんなわけですか。ちゃんと説明しましょうよ隊長」
「面倒なんだよ。俺アリスと戦ってる方が楽しいんだけど」
「やめてください。また焼け野原が出来上がってしまうじゃないですか」
「別に良いだろ。減るもんじゃないし」
「魔物がどんどん森に追いやられて可哀想じゃないですか」
「いや魔物を可哀想とかないだろ」
「ありますって」
「はぁ?食物を可哀想って言ってるようなもんだろ。どう思うよシュカ!」
「……どうでもいいので、早く彼女達に今日の訓練内容を説明してください。私達だからどうともならない場所ですが、彼女達にとってここは死地同然ですよ?」
「あぁーそうだな。仕方ねぇ」
眼前で疲れ果て、座りながらぐったりしている(道中で魔物に襲われ続け、危なくなるまで戦わせられた為)カナデ達を見て大声を出す。
「だらしがねぇ状態を晒すんじゃねぇお前らぁ!!」
「うるさ……」
「いや、それは流石に無理があるんじゃ」
シュカの文句とセイルの疑問を完全に無視してギルは進める。
「お前らはなぁ!弱過ぎる!!なので俺達が今いる所で十分に戦えるようになるまで、訓練してやる!」
「だからうるさ……」
「残り一週間と少ししかないというのに……」
更に無視してギルは進める。
特別本人は怒っているわけではないが、見るものが見れば激昂しているような目付きで、眼前で並び立つ少女らを睨み付ける。
「あ、あの〜」
「なんだ貴様は!俺はまだ話している最中だぞ!それを遮る程大切な用事があるというのか!」
目の前に寄って来て、今のギルに質問をしようとするのはカナデである。疲れておりながらも、副マスターとしてギルドの面々を後ろにやりつつ、ギルを見つめ、口を開く。
「あの〜ね、私達を鍛えてくれるのは嬉しいし、願ってもないことなんだけど、もう少し、安全に、優しくはしてくれないのかなぁって思うんだけど、どう?なのかな」
「……」
カナデがやや疲れた笑みを浮かべて、首を傾げていると、ギルは黙り込み俯く。
人化時のギルの背は低めなので、大人の女性が子供を注意してる風にも見えなくはないが、気付く者は気付く。
ギルの身体から赤いモヤのような、俗に云うオーラのような物が漂っていることに。
「あの、カナデさん、離れた方が」
「う、うん。そうみ「甘い!!!!甘過ぎるぞてめぇら!!」うっ」
ギルはオーラ、この世界で言う所の闘気を放出する。それを直に浴びたカナデと前列に居た者らは気絶してしまう。それを見て、後列の者らは更に恐怖する。
「隊長なんか楽しんでません?」
「いや、間違いないと思う」
セイルとシュカはギルの斜め後ろで呆れつつも、倒れている彼女らを見て思う。
このくらいなら優しいものだと。
「さて、お前ら後列を倒れた奴らが起きるまで鍛え上げようと思う。そうだな……人類最高峰のレベルが250だから……」
「140くらいで良いんじゃないですか?そこからは全然レベルが上がらないらしいですよ」
「なんでそんなこと知ってんだ?セイル」
「これでも私達三人の中では常識のある方だと思ってますので」
「おい、てめぇそれだと俺にはねぇみて「やめてくれセイル。隊長と一緒にしないでくれ」シュカぁ!!」
三人が口喧嘩し始めたところで、アリスが叫ぶ。
「魔獣です!ギル、セイル!」
「あぁん?」
「ほう」
「私は無視ですか」
「……」
「いやいやいやお前ら喧嘩すんなよ?魔獣より面倒だから」
近寄って来た魔獣を前にしても軽口をやめないギルに怒りを感じたのか、ライオンのような見た目でありながら、背に生えている翼で羽ばたき、跳びこもうとする。シュカとセイルはギルの後ろにすっと移動し、ギルを盾にする。そしてライオンは跳んだ。大きさはワイバーンと同程度。このまま行けばギルがやられてしまうのではと思う探索部隊の面々。だがそれに反してギルは気だるげに振り向き、
「いや、上司盾にするとかないだろ」
ライオンは虚空から取り出した弓で脳天を射られ、絶命し、ギルの手前で落下する。
そしてギルの文句を苦笑しながら受け流すセイルと当然といった態度でいるシュカを見てため息を吐きつつギルは仕切る。
「さて。見ての通り、俺を含め、俺達三人はここの魔獣を大概一撃で葬る事ができる。後列の奴らは大体二十人……だから、シュカ、セイル」
「「はい」」
「お前ら十人ずつ連れて、この山登って帰ってこい。いい感じにパーティ組んで強制的にレベルでも上げてやれ。技術は後から叩き込めばいい。まずは死なさず、そんでもってある程度は戦わせろ。幸いこいつらは主達の中では精鋭の方らしいし、なんとかなるだろ」
「私はどうすれば良いですか?」
「アリスはここで気絶してる奴らの見張り。そんでもって襲ってくる馬鹿の排除。ヤバくなったら俺が助けてやるよ」
「わかりました」
「他の奴らは異論はないな?」
ギルが睨み付けると、後列の探索部隊はコクコクと頷き、セイル、シュカも了承の意を示す。
「なら、さっさと部隊編成して行け」
「「はっ」」
シュカとセイルはそれぞれ十一人ずつに分け、更にそれを六人と五人のパーティにし、高い木が生い茂り、日の届かない山を登り始める。
「行ったか」
「そうね」
「つかなんでお前俺の前だけ口調を戻すんだよ」
「なんとなく」
「なんとなくかよ。まぁいいや。それよりお前、シュカと仲悪いみてーだけどなんかあったか?」
「……何でもないわ」
「いやその態度が既に何かあるだろ」
ふいっと顔を背け、明らかに機嫌の悪そうなアリス。カズマには絶対向けることのない態度だ。
「俺的に機嫌の悪い部下と上司に挟まれて中々辛いんだが」
「私がいつギルの上司になったのよ」
「お前が街襲撃イベントってやつを止めた時からだよ」
「あれは、別に意図してやったわけではないんだけど」
「それでも救われたってことになってんだから仕方ねぇだろ。ったく。面倒だよな、今の世界」
「そうね」
「どこで聞かれてるかわかったもんじゃねぇから、下手な事は言えねぇが、俺はこの状態が納得いかねぇ」
「私は……このままでもいい」
「そりゃお前はな」
ギルはその場に胡座で座り込み人差し指の先に火を灯し、クルクルと回したり弄ぶ。すぐに飽きたように火を消し、頬杖をつく。
「私は戦争の記憶がないの。でも、戦後、色々な人から蔑まれた記憶はある。だから、今カズマ様に大事にされてる現状が、嬉しい。手放したくない」
「その戦争の記憶がないってのもおかしいよな。何で周りの奴らは変になってんだか」
「私達、カズマ様達のパートナーは恐らく」
「記憶の操作をされている。それは間違いねぇ。じゃなかったら魔族が人族の仲間になるなんて事はありえねぇ筈だ」
「ええ。あの人達は人を玩具くらいにしか思ってないしね」
「あのーなんだ主の仲間の」
「彼のパートナーは確かに魔族の筈。でもあの子は感情も削られてるみたいね」
「あぁ。ーーって事で一回話はお終いな。人数減ったからって馬鹿共が来たみてえだ」
いつの間にかギル達を取り囲むように翼を生やしたライオンと、小さく(ライオンと比較すれば小さいが、馬程の大きさはある)青白い冷気を纏う狼がいた。
「んーじゃあ、アリスは思う存分戦ってくると良い。俺はここでこいつら守ってるから」
「はいはい」
その場に寝転ぶギルを横目にアリスら身体にマナを浸透させ、それを闘気へと変えていく。
「流石神人と言うべきか。澄んだ色の闘気だな」
「そう?ギルのが濃すぎるだけだと思うけど」
「俺は竜の力と混ざるし、炎の適正が高過ぎるからあぁなるの。ほら早よ行け。あんまり多くなると楽出来ねぇから」
「全く、もう!」
アリスは足に力を込め、自分達を殺めんとする獣の群れに飛び込んで行った。
いきなりだが私は今、絶体絶命の危機に瀕している。何故なら目の前に、我々のレベルでは到底敵わないスノウウルフェンがいるからだ。
何故こんなことになってしまったのか。あのわけのわからない少年に言われるがままに来てしまった事を今とても後悔している。
実際私だけではないだろう。
「きゃあ!」「こっち来るな馬鹿野郎!」「くそ!俺の後ろに来い!俺が壁になる!!」「うん!」
若干一つの恋が生まれそうになっているが、後悔はしているだろう。そんなことより、私まで混乱していてもダメだろう。私はこの隊のリーダーも任されているわけだし。
「皆隊列を崩すな!!敵はスノウウルフェン一体だ!他の敵はセイル殿が引き受けてくれているから、隊列を崩さずいればなんとかなるはずだ!ミキト、シグはひたすら防御!ナギサは全体回復魔法で回復しろ!一気に回復する物ではなく、持続的に回復する物にしておけ!アルコーはダメージ遮断結界でミキト、シグの体力を半分以上に保て滅炎のシュウは炎でウルフェンの気を散らせ!「ふはははは!!我に任せよ!!」うるさい!第二班、体力はどうだ!?」
「問題ありません!復帰できます!」
「ならば第一班の周囲の警戒を任せる!」
命令通りに隊列も良くなり、とりあえず安堵する。
「ミコ隊長!上空から変な物が降ってきます!」
「変な物ぉ?」
上を見上げるとシルエットは確かに変な物、木のようだ……!?
「トレントだ!何だこの種!鑑定……フライトレント!セイル殿、お任せしてもよろしいですか?!」
「任せてください」
セイル殿は身の丈程の大剣を軽々と構え木に向かって跳ぶと、そのままトレントをあっさり真っ二つにして着地した。
「ふむ。ここら辺ではやはりこの程度ですか」
この程度とはどの程度なのか!と叫びたくなったが実力の差がもうよくわからないくらい凄いのはわかっているので気にしないことにしよう。
「シグ!ミキト!」
「「なんだ(あぁッ)!?」」
「私の中級魔法を撃ち込む!退く用意をしていてくれ!タイミングはアルコーが見ててくれ!」
「ラジャ!」
昨日一昨日の地味な魔法の授業を思い出しつつ、詠唱を始める。詠唱はわかり易ければ何でも良いとかそんな会話があったからな。それも含めて試しておかなければ。
「炎よ、我に仇為す者を天空へ伸びる柱となりて、燃やし尽くせ!「今!離れて!」フレイムピラー!」
シグとミキトがスノウウルフェンから離れた瞬間、ゴウッとウルフェンを中心に火柱が経つ。火柱は詠唱通りに空にまで届き、中のウルフェンを焼いて行く。
「かはッなに、が……」
「イメージした魔法のマナが多過ぎて枯渇減少が起きてしまったようですね」
「……ぐっ」
炎が消える頃には立っていることも辛くなり、地に伏せてしまった。
「ミコ隊長!大丈夫ですか!?」
「あぁ……ウルフェンはどうだ!」
「ルゥガッ!!」
「なんと……!」
火花が散る中から氷を身につけているウルフェンが遠吠えを上げて出てきている。
「シグとミキトは再びウルフェンを抑えろ!隊列は先程同じように!私はMPを回復し次第もう一度アレを撃つ!」
「「「わかりました!!」」」
本当はセイル殿がやってくれれば、本当に楽なのだが。
「ふーっはっはっはっ!!巫女様大好きがやらなくともこの俺滅炎のシュウがやってやる!」
「ば、馬鹿者!!」
二重の意味で馬鹿者!!フルネームで呼ぶな馬鹿者!!
「炎よ、惑い狂え、ミラージュフレア!!」
「詠唱意味わからないし、勘が正しければただのフレイムボールではないか!!」
「ならばフレイムボールは今からミラージュフレアと名を変更する!」
「阿呆か!!」
馬鹿者と馬鹿な会話をしてる間に少しMPが回復する。しかしあやつ、意外と余裕があるな。
「これで倒せればレベルはかなり上昇する筈です。そこからは私が削った物を倒してもらう形にしますから、もう少し頑張ってください」
「はい」
ここで慣れておけということだろうか。確かに慣らすことは必要だな。
「ところでセイル殿、少し疑問に思うことがあるのですが、よろしいか?」
「ええ。私がお答えできることなら何でもどうぞ」
「何故このような場所にスノウウルフェンがいるのですかな?先程のフライトレントならまだわかります。山の中ですし。ですがウルフェン、ただのウルフェンならまだしもスノウが付くとおかしくなる気がします。ここは若干暑いですし、氷系のモンスターが住むにしては少し……」
私はNPC相手に何を言ってるのか。よく出来たAIではあるが、やはりここは黙ってしまうか、適当にはぐらかされてしまうだろうに。
「わからないなら」
「んー多分、層分けの時に弾かれてしまったんじゃないですかね?」
「層分け、というと、元々は分けられていなかった風に聞こえますね」
「ええ。そうですよ」
「では世界はちゃんと繋がっていたと」
「ええ。二年前まではそうでしたね」
「それを何故こんな層に分けたんですかね?」
「それはーー」
ズゴンッという音ともに仲間から悲鳴が上がる。
「どうした!?」
「い、岩が、岩がウルフェンに降ってきて、ウルフェンが絶命しました」
「何!?うぐぅ!……」
「レベルが上がったようですね」
「これは、凄い十人以上で狩をしていたのに80台を越してしまった」
「シュカさんは何をやってるのでしょうか」
「岩はあちらから飛ばされたということですかね」
「ええ、爆音が聞こえます。それなりに派手な戦闘をしているのでしょう」
「皆、隊列は警戒型にし、それぞれ小休止!十分程したら行軍開始だ」
「「「はい!」」」
「これからは私が削ったものを狩るだけですから、楽できますよ」
「ありがたい」
時刻は少し前。
シュカ達一行は翼を持つ白いライオンの群れを数百メートル程前にして足を止めていた。
「では、私がこちらに来た敵を切り裂くので、瀕死の所を貴方方が倒してください。以上」
「はや!説明はっや!」
「では」
「まてまてまてまて!」
「なんですか?」
困り顔でシュカを止めるのは橙の髪を逆立てており何故か青いジャージ姿の青年。
「いや、楽だから別にいいんだけど!なんかないのかよ!頑張りましょう!とかさ!」
「ない」
「即断ッ」
「ほら、騒ぐから来たぞ?」
「うぉぉぉ!?」
上空より降り立つは、空を駆けるライオン。
「か、かか、鑑定ぃ!」
「こいつはスカイレオ。ここだと良くいる魔獣だ」
「腕組みして突っ立ってないで、さっさとやってくれよ!!」
「うるさい奴だな貴様は」
と、顔を顰めつつも、シュカは自分の翼を羽ばたかせ、宙に浮く。
「グルルル」
「スカイレオ程度が私に威嚇か。舐めて貰っては困るな」
シュカは宙に浮きながらも、身を屈め、走った。足音はしない。しかしヒュンッという風を切る音ともに、エメラルドグリーンの双剣がスカイレオの双眸に突き刺さった。
「グッ!?グルァァァ!!?」
急に視界が暗くなったのと、痛みで、のたうち回るスカイレオ。
「ウィンドスラスト」
そのスカイレオをシュカの風が切り裂き、体力を削っていく。
「あとは……」
更に、空を飛び、風の刃から逃れたスカイレオの翼を力ずくでもぎ取り、両目に刺さったままの双剣を引き抜き、スカイレオの背を蹴り、跳び降りる。
「さぁ。後はご自分達でやりなさい。私は次の獲物を追い詰めてきます」
他のスカイレオは数が多いためか、今の力の差を見ても気にせず襲いかかって来たため、シュカも向かいうつように飛び立ち、スカイレオを次々に切り崩して行く
「無茶苦茶だな……」
橙髪の呟きに、その場の全員は同意しつつスカイレオのとどめを刺していく。
「これやばいな。レベルが上がり過ぎて気持ち悪い」
「うわっナイフ壊れた!」
「こいつら確かに瀕死だけど、俺達の武器じゃ中々ダメージが通らねぇじゃねぇか!」
「レア武器でギリギリ通るくらいね!でも長くは持たないかも!」
「よし、皆どいてろ!俺がギルマス特性アトミックポーションでこいつを吹き飛ばしてやる!」
「それはやめてくれぇ!!あんた、クリエイターズの人だろう!?」
明らかにネーミングが危ないポーションを投げようとしている男を近くの人間が止める。そしてそのポーションを飛んできたシュカが取り、
「貰いますね」
未だ無傷で生き残っているスカイレオに投げつけ、瓶が割れた瞬間。
「皆、伏せろ!!」
「「「うわぁぁぁ」」」
「なっ!?」
「グガッーー」
周囲を目を焼く程眩い光が包み込み、吹き飛ばした。
光が消え、爆風が消え去った辺りで、立ち上がり始める面々。
「い、生きてる?」「た、助かった……」「アトミックの名は伊達じゃないな」「クリエイターズの名物ポーション初めて見たけど、皆が怖がる意味がわかったよ」「え、てかこれヤバく、ね?」
爆発の後、それぞれ、立ち上がり見てから絶句する。
ポーションが爆発した場所から十メートル以上あるであろうクレーターが出来ていた。その場にいたスカイレオは血すら出ない程焼かれており、瀕死だったスカイレオも爆発の余波で全滅していた。
「み、皆無事か!?と、あんた!何確認もしねぇ、で……」
橙髪の青年は周りを見て、誰一人死んでいない事を確認し、安堵すると同時に、この状況を作り出したシュカを睨み付けるが、彼女の罰の悪そうな顔を見て勢いが削がれてしまう。
「すまない……低レベルの人族が作る物だから、大した威力はないと思っていた。あんな威力があるとは……」
「あ、謝って済む問題じゃねぇだろ!今回はたまたま距離があったから大丈夫だったけど、近くで爆発してたら俺達皆死んでたかもしれねぇんだぞ!!?」
「……すまん。いや、ごめんなさい」
「ま、まぁまぁ。皆助かったんだし。素直に謝ってくれてるんだから、その辺にしとけよエンジュ」
「あんたらが良いなら、俺ももういいよ。シュカさん。まだ先はなげぇんだ。後は気をつけてくれればいいよ」
「わかった。すまないな。他の者も行軍に意見がある者は言ってくれ」
一気に軟化したシュカの態度を見て青年、エンジュは言った。最初からちゃんとそうしてくれれば注意もできたんだけどな。と。
それにシュカは苦笑いで、そうだなと返した。




