呆気な。
ちょっと忙しくて更新できなかったです。
トランは驚愕した。
「消えた?」
トランにそう思わせるのはシンゲンがその場から動いた気配がしなかったからだ。また、この特化した速度で追い付けないのは、よっぽどの格上か、アリスしかいないからだ。だからこそ考えた。
ハイディング……。
ハイディングは持続時間が過ぎるか、攻撃をするか、された時のみ、姿を表すようになっている。
そしてハイディングしたからといって、足音や発生する土煙がなくなることはない。
それを見れば……。
そう思考していると後ろからカツッと音が鳴った。
「後ろか!」
トランは振り向き様に短剣を投げ付けたがその場にあったのはG!!
シンゲンは大剣を大きく振り上げ、トランを背後から斬り上げた。
「ーーッッッ!!」
トランの声にならない声が響き渡る。
「ッぐ」
トランは激しい痛みを抑え、宙で態勢を整える。だが、落下する先には、落ちてきたトランを串刺しにするために持ち上げられた大剣がそこにはあった。
「ヴェノムブレス!!」
暗殺者としてスキルの一つ、ヴェノムブレスを吐き、辛うじて大剣を避ける。ついでにシンゲンへの毒ダメージを期待するが、通用しなかった。
「グレル。助かった」
「いえいえ。それほどでもあるねぇ」
「さっさと、奴を倒すぞ」
「はぁい」
シンゲンの後ろからスッと出てきた小さい犬ともウサギとも言えるような二足歩行の何かがいた。
「グレムリン……」
「知ってるのか?アリス」
アリスの呟きにカズマが反応し、アリスは答える。
「グレムリンは、妖精の中ではそこまで強くはなく、イタズラなどをする種族で、機械を作ったり動かしたりするのも好きですね」
「機械って……あんの!?」
「多分、カズマ様の世界のような物ではなく、マナを動力源にする機械です。グレムリンのスキルによってはとても有能な機械を作ることができます」
「へぇ〜すげぇんだな。まぁアリスには劣るけどな」
「か、カズマ様」
照れているアリスを見て可愛いなぁと思いつつ、カズマはグレムリンへと視線を向ける。
ヴェノムブレスを無効化したような物は見えないんだがなぁ。
そう思いグレムリンを観察している間も戦闘は続き、デグラとの一戦とは違い、今度はトランが劣勢のようだ。
「ヒヒヒ。おいらの技術は天下一。おいらのマスターも天下一つええ。お前らはなす術もなくマスターに負けるんさ。ヘッヘッヘ」
「煩い。グレル。闇を使え」
「ラァジャー」
グレルと呼ばれたグレムリンはトランに向けて、黒い玉を放り投げ、トランはそれを短剣で落とすと、ボフンッと黒い煙が噴き出し、あっという間にトランとシンゲンを包んだ。
「んぁああぐぁあああああああ」
黒煙が無くなり、やっと見えるようになったと思うと見えた先には、あの大きな大剣に腕を斬り落とされ、そのまま腰の半分辺りまで刺されているトランとイラっとする表情で笑うグレルと無表情のシンゲンがいた。
ライフバーを見るに、とっくにレッドゾーンに入っており、セーフティによりその進行は止まっているがそれだけだった。
トランは痛みで叫び続けている状態でリアルならショック死しているレベルなのだろう。
「トラン!!」
叫んだのはクインスで、カズマもそれで正気に戻り、試合終了の合図をした。
トランの斬り落とされた腕もライフバーも元通りになったがトランは既に気を失っており、動かなくなっていた。
クインス達が気絶したトランに駆け寄ろうとすると、シンゲンがトランを蹴り飛ばし、シロがキャッチした。
「んの野郎……」
「さぁ次は誰だ。俺がコイツと同じように始末してやる」
「お前ら、下がってろ。アリス!」
「はい」
「ボコボコにはしなくていい。試合全部終わらせて帰るぞ」
カズマはキレた。
「怒ったか?それが俺がお前らに対した怒りと同じ物だよ」
「あぁ。そうだな」
「その怒りは俺と同じように、正攻法でぶつけてみろ。結果は返り討ちだろうがな」
「御託は良い。始めるぞ。シロ!合図を!」
「え、はい。じゃあ、えと、始め!」
事前に決めたルールも無視して、カズマとシンゲンの試合は始まった。
さて。さっさと終わらすか。イライラするし。
「シュカ!セイル!ギル!グレルを徹底的に潰せ。アリスは一緒にシンゲンを倒すぞ」
「「「はっ」」」
「おいおい……まてよ、お前プレイヤーは……ガッ」
アリスはシンゲンが最後まで言う前に殴り飛ばした。
シンゲンの身体は一瞬で五メートルくらい飛びそのまま地面に衝突した。
「な、なんだぁ?」
馬鹿共がどよめき、引き下がっているのを横目に、シンゲンを見る。
「アリス。もう一発だ。それで奴のライフバーは終わる」
試合の制限で死にはしないが。
「この……グレ……ル?」
シンゲンが唖然としているのでグレルを見るとワイバーン化したセイルに踏み潰され、その首一つだけが転がっている状態だった。
試合のルールはグレルにもやはり適応され、ライフバーは減っていない。減っていないのだが。
あれは最早死んでいるも同然だろう。
「ーー」
グレルは首一つになってまでも声を出そうとするが、出るわけがない。身体がないのだから。
「貴様らぁああああああ!」
「ライトニング!」
シンゲンは雄叫びをあげてアリスに斬りかかるが、ライトニングで吹き飛ばされ、そのまま気絶した。
「終わりだ。ほらお前らかかってこい。すぐに終わらしてやる」
「い、嫌だ、シンさんが負けるなんて……」
「おかしいな、確かこのギルド戦は、全員戦うはずじゃなかったか?」
俺の一言により、震え上がる青年。
「さぁって。まずはお前だ。シュカ。やれ」
『はっ』
シュカは飛び上がり、その鋭く尖った脚の爪を突き刺すようにして、青年に急降下した。
青年は恐怖で、動くこともできず、まともに食らって一発KO。
「次だ」
最早試合の合図なんていらない。
一人一人潰してやる。
「や、やめ」
アリスが無言で腕を振りあげると赤みがかった髪を靡かせた、女がその腕を止めた。
「!?」
アリスは即座に腕を振り払い、俺の方へ戻ってきた。
「どうした?」
「あの女性、強いです……かなり」
「主!そいつ、龍族だ!」
ギルが颯爽と横に並び、戦闘態勢に入り、遅れてセイルとシュカの二人が前に出た。
「私の旦那はどこだい?」
「あ、姐さん、シンさんは……」
「ん?負けたのかい。情けないねぇ。あんた達。今回は見逃してくれないかい?ってデグラ、あんたもやられてるのかい。全く。ほんとうちの男衆は弱っちいねぇ。ユリ。ちょっとそいつら起こして」
「はい!」
女の懐から小さな妖精。ほんと妖精って感じの妖精が出て来て、シンゲンの元に行くと凄い頑張って声を出しているのだが、大分強く頭を打ったのか、全く起きる気配のないシンゲン。
次第に妖精は疲れて行き、落ちた。
「はひぇ〜全然起きないです」
「仕方ないねぇユリも」
女はニヤニヤとユリと呼ばれている妖精を眺める。弱音を吐くたびにニヤニヤしたりしている。
サドかよ。
「なんか、別に良いやって感じがしてきたんだが、お前らどする?」
シロ達は怒りよりも、トランを心配することの方が大事なようで、必死に呼びかけている。つか必死過ぎてうるさいだろ。ちょっとトラン顔をしかめてるぞ。
「おい、そこの……カズマか。カズマ!今回は手を引いてくれ。金ならくれてやるし、こっちで喧嘩売った奴は追放処分にする」
「げぇ!そりゃないっすよー」
馬鹿の一人が女に近付くと、女は振り向きざまに回し蹴りを一発、馬鹿の顔面にいれ、大きくぶっ飛ばした。
「口答えすんじゃないよ!喧嘩売って戦う前に負けておいて、どれだけ恥を晒すつもりだい!?」
「ふぐっ……負けてなんか」
「いいや。負けてるよ!あんた達じゃこの女の子には絶対勝てない!私でもわからないくらいだ」
「そ、そんなぁ……」
馬鹿は一人崩れ落ち、泣き始めた。
「すまないね。カズマ。私達は帰らせてもらうよ。あ、名前見ればわかるだろうけど私はサイカ。また会うことがあればよろしく」
「あ、あぁ」
そう言って唐突にやってきたサイカはシンゲンとデグラを引きずりながら魔法陣に消えて行った。
「なんか」
呆気な……。
どんなに痛くても死ねません。
リアルでショック死……できません。
ただ気は狂うかもしれませんが。




