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ネコネコランドへようこそ  作者: 香月 深青
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第六話 ミルク、お料理する

ネコネコランドの朝は、今日もどこかのんびりとしていた。


窓の外では、小鳥たちが楽しそうにさえずり、通りでは市場へ向かう猫たちの明るい声が響いている。


やわらかな風にのって届くのは、焼きたてのパンの香りと、ほんのり甘い果物の匂い。


そんな穏やかな朝のことだった。


窓辺で外を眺めていたリオンのもとへ、ミルクがいつになく真剣な顔でやってきた。


青い瞳はきらきらと輝き、胸をぴんと張っている。


その顔は、どこか誇らしげだった。


「決めたにゃ」


「何を?」


リオンが首をかしげると、ミルクはくるりと一回転して、高らかに宣言した。


「今日は、リオンにごちそうを作るにゃ!」


その瞬間――


部屋の空気が、ぴたりと止まった。


近くにいた猫たちが、一斉に顔を上げる。


そして次の瞬間、みんな青ざめた。


「止めるにゃ!」


「台所が危険にゃ!」


「前回、鍋が飛んだにゃ!」


「壁に魚が刺さったにゃ!」


黒歴史が思った以上にひどい。


けれどミルクは、ふふんっと鼻を鳴らした。


「今日は違うにゃ。ミルクは成長したにゃ」


その言葉に、猫たちはそろって遠い目をした。


誰ひとり信じていない。


けれど本人だけはやる気満々だった。


しばらくすると、ミルクは真っ白なエプロン姿で現れた。


頭には三角巾。


……その上に、ちょこんと王冠。


どうしても王冠は外せないらしい。


「どうにゃ?」


くるりと回って見せる。


「すごく似合うよ」


リオンが素直に褒めると、ミルクは嬉しそうにしっぽをぴんと立てた。


「では、料理を始めるにゃ!」


そう言って、勢いよく小麦粉の袋を持ち上げる。


次の瞬間。


ばさぁぁぁ――!


白い粉が豪快に舞い上がった。


部屋の中が、一瞬で真っ白になる。


リオンも白い。


ミルクも白い。


近くにいた猫たちまで白い。


みんな雪だるまみたいになった。


真っ白になったミルクが、ぱちぱちと瞬きをする。


「……雪?」


違う。


小麦粉だ。


なんとか粉を片づけ、次は卵。


ミルクは真剣な顔で卵を持ち上げた。


「これは簡単にゃ」


こんこん、と机にぶつける。


ぱかっ――


……のはずが。


つるん。


卵は手からすべり落ち、そのまま床へ。


ぺちゃ。


きれいに割れた。


床の上で。


黄身が、ぷるんと揺れている。


しばらく沈黙。


ミルクがぽつり。


「床が食べたにゃ」


そんなわけがない。


さらに魚を焼こうとすると、香ばしい匂いに負けて、焼く前にひと口。


「味見にゃ」


もうひと口。


「確認にゃ」


さらにひと口。


「最終確認にゃ」


気づけば骨しか残っていなかった。


焼いてもいない。


リオンは肩を震わせる。


笑いをこらえているのだ。


けれど、ここまで来たら手伝うしかない。


「ミルク、一緒に作ろう」


「一緒に?」


「うん。ふたりで作った方が、もっと美味しいよ」


その言葉に、ミルクの青い瞳がふわっとやわらかくなる。


「……作るにゃ」


そこからは、リオンが生地をこねて、ミルクが小さな肉球でぺたぺた形をつけていく。


丸くて、少し歪で、不ぞろい。


けれど、とても可愛い。


肉球の形をしたパンが、次々と並んでいく。


焼き上がるころには、部屋いっぱいに幸せな香りが広がった。


こんがりきつね色の、ねこの肉球パン。


ふわふわで、あたたかくて、ほんのり甘い。


ひと口食べたミルクの目が、きらきらと輝いた。


「おいしいにゃ!」


「ほんとだ。すごく美味しい」


するとミルクは胸を張り、自信満々に言った。


「ミルクは天才料理人にゃ」


その後ろでは――


小麦粉まみれの床。


卵だらけの机。


なぜか壁に貼りついた魚のしっぽ。


台所は見事に壊滅していた。


そこへ、ねこねこベーカリーの親方猫が様子を見に来る。


部屋を見た瞬間、ぴたりと固まった。


そして静かにひと言。


「……しばらく台所、出禁にゃ」


ミルクは目を丸くする。


「どうしてにゃ!?」


どうしても何もない。


リオンはとうとう笑いをこらえきれず、声を上げて笑った。


つられてミルクも笑う。


周りの猫たちも笑う。


青い空の下、今日もネコネコランドには、あたたかな笑い声が響いていた。

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