第五十四話 お名前をつけよう
朝のネコネコランド。
やわらかな朝日が町を照らし、小鳥たちが楽しそうに歌っていた。
広場ではチャイたちが元気いっぱい走り回っている。
「鬼ごっこするにゃーー!」
「待ってー!」
笑い声が風に乗って広がる。
その少し離れた場所では、新しくネコネコランドへやって来た子猫が、お城の庭の花壇のそばに静かに座っていた。
みんなの楽しそうな様子を、そっと見つめている。
チャイは子猫に気づくと、大きく手を振った。
「こっちへ来るにゃー!」
子猫は少しだけ笑ったけれど、小さく首を振る。
まだ少しだけ勇気が出なかった。
リオンは優しく微笑む。
「大丈夫。」
「遊びたくなったら、いつでもおいで。」
無理に誘わない。
待ってくれる優しさが、この場所にはあった。
そのとき。
チャイが「あっ!」と大きな声をあげた。
「大変にゃ!」
みんなが一斉に振り向く。
「まだ名前がないにゃ!」
「あっ、本当だ!」
マロンも目を丸くする。
ルナが優しく言った。
「ずっと『子猫ちゃん』じゃ、かわいそうだもの。」
「じゃあ、みんなで考えるにゃ!」
チャイは胸を張った。
「ぼくは……にゃんた!」
「どうにゃ?」
一瞬だけ静かになる。
そして――
リオンが吹き出した。
「ふふっ。」
「かわいいけど、チャイらしい名前だね。」
「もちろんにゃ!」
「ぼくが考えた最高の名前にゃ!」
みんなは思わず笑ってしまう。
マロンが元気よく手を挙げた。
「ぼくは、ひまわり!」
「いつも笑っていてほしいから!」
「すてき。」
ルナがにっこりうなずく。
シロップは真剣な顔で言った。
「クッキー。」
チャイが思わず笑う。
「シロップ、それ食べたいだけにゃ!」
シロップは少し考えてから、
「……そうかも。」
その素直な返事に、また笑い声が広がった。
インクも腕を組んで考える。
「……クロ。」
チャイがすぐにつっこむ。
「白と茶色にゃ!」
インクは少しだけ耳を伏せた。
「……そうだった。」
その真面目な表情がおかしくて、
子猫の口元が、ふっとゆるむ。
「ふふっ。」
小さな笑い声がこぼれた。
「笑ったにゃーー!」
チャイは飛び上がって喜ぶ。
みんなも思わず笑顔になった。
そのとき、ミルクが子猫の隣へ座る。
「あなたは、どんな名前が好き?」
子猫は少し考えて、空を見上げた。
朝日がきらきら輝いている。
花が風に揺れ、やさしい香りがふわりと漂う。
ミルクも空を見上げながら微笑んだ。
「ひなた、ってどうかな。」
「お日さまみたいに、あたたかい笑顔になってほしいなって思って。」
子猫は小さく、その名前を口にした。
「……ひなた。」
もう一度。
「ひなた。」
少し照れくさそうな声だった。
でも、とても嬉しそうだった。
ミルクは優しくうなずく。
「うん。」
「今日から、ひなただね。」
チャイは嬉しそうに駆け寄る。
「ひなた!」
子猫はびくっとする。
「ひなたー!」
ルナも呼ぶ。
マロンも。
シロップも。
「ひなた!」
みんなが笑顔で名前を呼んだ。
子猫は少し照れながら、
「……はい。」
小さく返事をした。
チャイはにっこり笑う。
「もう一回!」
「ひなたーー!」
今度は子猫も笑顔で答えた。
「はーい!」
その返事は、さっきよりずっと元気だった。
チャイは手を差し出す。
「いっぱい遊ぶにゃ!」
ひなたはその手をそっと握る。
「……うん!」
二人は一緒に走り出した。
「待ってー!」
ルナも。
マロンも。
シロップも。
インクも。
みんなの笑い声が広場いっぱいに広がる。
ミルクとリオンは、その後ろ姿を並んで見つめていた。
リオンが優しくつぶやく。
「名前って、不思議だね。」
ミルクは穏やかにうなずく。
「うん。」
「名前を呼んでもらうたびに、『ここにいていいよ』って伝わる気がするの。」
広場から元気な声が聞こえてくる。
「ひなたー!」
「こっちにゃーー!」
「今行くー!」
その返事は、朝よりもずっと明るく響いていた。
ネコネコランドには今日もまた――
新しい名前が、新しい家族の笑顔になっていた。




