第三十二話 眠れない夜にゃ!?
夜のネコネコランドは、静かに息をしていた。
街の灯りはやわらかく落ち着き、石畳には月の光が淡く広がっている。
遠くからは、遅くまで開いているお店のかすかな物音と、どこかで鳴く虫の声が重なって聞こえてきた。
昼のにぎやかさがすっと引いて、代わりに、やさしい静けさが満ちている。
リオンは、城の窓辺に立ち、外を眺めながらゆっくりと腕を伸ばした。
肩の力が抜けていく。
「今日はいっぱい遊んだね……」
小さくつぶやく声には、心地よい疲れが混ざっていた。
そのとき。
「リオン」
後ろから、やわらかな声がする。
振り返ると、ミルクが静かに立っていた。
昼間よりも少しだけ落ち着いた表情で、こちらを見ている。
「一緒に寝るにゃ」
あまりにも自然な言い方だった。
まるで、それが当たり前みたいに。
リオンは一瞬きょとんとして、それからふっと笑う。
「……久しぶりだね」
その言葉に、ミルクは小さくうなずいた。
「たまにはいいにゃ」
部屋の中央には、大きなベッドがひとつ置かれている。
白い布団はふんわりと整えられ、触れると指先が沈み込むほどやわらかい。
カーテンのすき間から差し込む月の光が、ベッドの上に静かに広がっていた。
「広いね……」
リオンはそっと手を置いて、その感触を確かめる。
ミルクは先に、ぽすん、と軽く音を立ててベッドに乗った。
「落ち着くにゃ」
丸くなったその姿を見て、リオンも隣に横になる。
やわらかな感触に体が包まれて、自然と呼吸がゆっくりになる。
「なんか、安心するね」
ぽつりとこぼすと、ミルクは小さく目を閉じた。
静かな時間が、ふたりのあいだに流れる。
――そのはずだった。
「ぼくも寝るにゃーーー!」
ばたん、とドアが勢いよく開く音。
「ちょっと待って!?」
次の瞬間。
どさっ。
「そこお腹ーーー!!」
チャイが、見事にリオンの上に着地した。
「いい場所にゃ!」
満足そうに言って、そのまま動かない。
重い。
でも、どかない。
そのあとから、ルナがそっと部屋に入ってくる。
「……わたしも……いい?」
遠慮がちな声。
「うん、いいよ」
と答えた瞬間。
ぺたん。
リオンの腕のあたりに、ぴったり収まった。
「ちょっと近いね……?」
くすっと笑う。
さらに。
「……ぼくも……」
マロンが静かにやってくる。
ベッドの端を見つめて、ほんの少しだけ考えてから――
「入れる……?」
「もう無理じゃないかな!?」
言い終わる前に。
ぎゅっ。
入った。
一気に密度が上がる。
「せまいにゃ……」
「広いベッドだったよね!?」
状況が追いつかない。
そのとき。
すっ、とドアの前に影が差した。
インクだった。
部屋の中を一度見渡し、少しだけ間を置いてから言う。
「……まだ余地はある」
「どこが!?」
リオンのつっこみが響く。
でも、インクもそのまま静かに横に入る。
結果――
完全に動けない状態になった。
「……重い……」
リオンの声が、布団の中に埋もれる。
そのとき、ドアのところに小さな影が立っていた。
シロップだった。
みんながくっついている様子を、じっと見ている。
あたたかそうで、少し楽しそうで。
でも、ほんの少しだけ迷っている。
リオンは目だけで合図する。
「おいで」
やさしく。
シロップは、小さくうなずいた。
ゆっくりと近づいてくる。
空いている……ように見える場所を見つけて。
そっと体を乗せる。
ぺたん。
最後のひとりとして、ぴたりと収まった。
その瞬間。
「完全に動けない……」
リオンの声が、かすかに響く。
でも――
不思議と、いやではなかった。
あたたかい。
少し重いけれど、やさしい重さ。
ミルクが小さくつぶやく。
「……これがいいにゃ」
チャイはもう半分眠っている。
「……あったかいにゃ……」
ルナも静かに目を閉じる。
マロンは、いつの間にか寝息を立てていた。
インクだけが、少しのあいだ空を見ている。
「……悪くない」
低く、静かな声。
リオンは、動けないままくすっと笑った。
「寝られないけどね……」
それでも、まぶたはゆっくりと閉じていく。
ネコネコランドの夜は、今日も静かで。
そして少しだけ、あたたかすぎる夜になったのだった。




