第三十話 ピクニックは大騒ぎにゃ!?
「できたにゃー!」
広場に、ミルクの声が弾むように響いた。
その足元には、大きなバスケットがひとつ置かれている。中には、ふわふわのパンや色とりどりの果物、きれいに詰められたお弁当がぎっしりと並んでいた。
「今日はピクニックにゃ」
満足そうに言うミルクに、チャイの目がぱっと輝く。
「ピクニック!?」
「外で食べるやつにゃ!」
「それ、いつも外だけどね」
リオンがくすっと笑う。
それでも、今日は少し違う。
風も光も、なんだか特別に感じられて、みんなの足取りは自然と軽くなっていた。
シロップもバスケットをのぞき込み、ふわりと広がる甘い匂いに目を細める。
「いくにゃーーー!」
チャイが勢いよく走り出した。
「待ってー!」
リオンが笑いながら追いかける。
広場を抜けて、少し開けた草原へ。
やわらかな風が吹き抜け、青い空がどこまでも広がっている。
「ここにするにゃ」
ミルクがシートを広げると、みんな自然とその周りに集まった。
「いただきますにゃ!」
元気な声とともに、ピクニックが始まる。
パンを分け、果物を手に取り、笑い声がふわりと空に溶けていく。
シロップは少しだけ緊張しながらパンを手に取り、そっとひとくちかじった。
やわらかくて、ほんのり甘い。
「おいしい……」
小さくつぶやくと、リオンがうれしそうに笑った。
そのときだった。
「なんか動いたにゃ!」
チャイの声がぴたりと空気を変えた。
みんなの視線が一斉に足元へ向く。
草のあいだから――
ぴょんっ。
小さな影が跳ねた。
「……!」
シロップの目が大きく開く。
もう一度。
ぴょんっ。
緑色のバッタが、軽やかに跳ねている。
「バッタにゃーーー!!」
チャイが叫ぶと同時に、全力で走り出した。
「まてにゃーーー!!」
「追いかけるの!?」
リオンがあわてて立ち上がる。
バッタはぴょんっと跳び、少し離れた場所へ。
チャイも跳ぶ。
「届かないにゃーーー!!」
さらにバッタが跳ぶ。
「こっちだにゃ!」
ルナも走る。
その横で、マロンが別のバッタを見つける。
「……こっちにも……」
「ほんとだ!」
リオンもそちらへ向かう。
気づけば、みんなばらばらに動き始めていた。
あっちで跳ぶチャイ。
こっちでしゃがむリオン。
静かに観察するマロン。
ルナはその間を行ったり来たり。
シートの上には、お弁当がぽつんと残されている。
ミルクがそれを見て、小さく息をついた。
「……ピクニックが消えたにゃ」
インクが静かに言う。
「……予想通りだ」
そのとき。
シロップは、ひとりでバッタを見ていた。
ぴょん、と跳ねる。
また、ぴょん。
その動きが、目の前でくり返される。
少しだけ、こわい。
でも――
目が離せない。
そっと前足を伸ばす。
近づく。
バッタがぴくりと動く。
「……!」
びっくりして引っ込める。
でも、もう一度。
今度は、少しだけゆっくり。
ぴょん。
バッタが跳ぶ。
その動きを目で追う。
「……すごい……」
気づけば、少しだけ前に出ていた。
そのとき――
「シロップーーー!」
リオンの声が届く。
振り返ると、みんなが戻ってきていた。
チャイは息を切らしながら笑っている。
「つかまえられなかったにゃ!」
「そりゃそうでしょ!」
笑い声がまた広がる。
気づけば、自然とシートの周りに集まっていた。
少しだけ乱れたお弁当。
でも、そのぶん、笑顔も増えている。
ミルクが言う。
「やっとピクニック再開にゃ」
「やっとだね!」
リオンが笑う。
シロップも、その輪の中に戻る。
さっきよりも、少し軽い足取りで。
「どうだった?」
リオンがやさしく聞く。
シロップは少し考えてから――
こくりとうなずいた。
「……たのしかった……」
その声は、前よりもしっかりしていた。
ネコネコランドの空の下。
ピクニックは少しだけ大騒ぎになったけれど――
それでもやっぱり、やさしくて楽しい時間だった。




