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ネコネコランドへようこそ  作者: 香月 深青
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第二十八話 がんばりすぎちゃうにゃ!?

ネコネコランドの朝は、今日もやわらかな光に包まれていた。


草の上には小さな露が残り、風が通るたびに、きらりと淡く光る。

その光景は、静かでやさしくて――どこか安心する空気に満ちていた。


そんな朝の中で、ひとりだけ、少し早く目を覚ましていた小さな影がある。


シロップだった。


広場を見渡しながら、小さく息を吸い込む。


胸の奥に残っているのは、昨日もらったばかりの名前と、そのときのあたたかさ。


「……がんばる……」


ぽつりとこぼした言葉は、自分に向けた約束のようだった。


ここにいていい、と言ってもらえたこと。

みんなと一緒にいられること。


だから――


少しでも、役に立ちたかった。


「おはようにゃー!」


元気な声とともに、チャイが駆け寄ってくる。


その勢いに、シロップは少しだけびっくりしながら顔を上げた。


「シロップ、早いにゃ!」


「う、うん……」


まだ少しぎこちない返事。


けれど、その声には昨日よりもわずかに力があった。


そこへ、ミルクがゆっくりと歩いてくる。


「今日はお手伝いするにゃ」


「お手伝い?」


リオンが首をかしげる。


「畑にゃ。野菜を運ぶにゃ」


その言葉を聞いた瞬間、シロップの目がぱっと明るくなった。


「やる……!」


一歩前に出る。


少しだけ早口で続けた。


「ぼくもやる……!」


その声は、小さいけれどまっすぐだった。


畑には、朝採れたばかりの野菜が並んでいた。


赤いトマト、丸いキャベツ、少し曲がったニンジン。

それらが大きなカゴにたくさん詰められている。


「これを運ぶにゃ」


ミルクが静かに言う。


「落とさないように気をつけるにゃ」


「うん……!」


シロップは、しっかりとうなずいた。


カゴに近づき、そっと前足をかける。


思ったよりも重い。


それでも、ぐっと力を入れて持ち上げる。


体が、わずかに揺れる。


それでも、踏ん張る。


一歩、前へ。


また一歩。


「すごいにゃ!」


チャイが声をあげる。


「がんばってるにゃ!」


その言葉に、シロップの表情がほんの少しだけゆるんだ。


――そのとき。


つるっ。


足元がすべる。


「わっ……!」


バランスが崩れる。


カゴが傾く。


時間が、ほんの一瞬だけゆっくりになる。


そして――


ごろんっ。


野菜が、あちこちへ転がった。


トマトがころころと転がり、キャベツがどすんと音を立てる。


ニンジンは、草の上を転がって止まった。


しーん。


一瞬、音が消える。


シロップは、その場で固まっていた。


前足がわずかに震える。


「……ごめん……」


小さな声。


胸の奥に押し込めていた気持ちが、少しだけこぼれる。


がんばったのに。


ちゃんとやろうとしたのに。


うまくいかなかった。


そのときだった。


「おもしろいにゃーーー!!」


チャイの声が響いた。


「なんで!?」


リオンが思わずつっこむ。


けれどチャイは気にせず、転がるトマトを追いかけて走り出す。


「まてにゃーーー!」


「遊びに変えないで!?」


笑いが、ぽん、と弾けた。


その横で、ルナがそっとしゃがむ。


転がったニンジンを拾いながら、やさしく声をかける。


「だいじょうぶ……」


マロンも静かに近づき、ひとつひとつ拾い始める。


「……いっしょにやろ……」


その声は、静かだけどあたたかかった。


ミルクがシロップの前に立つ。


「がんばりすぎにゃ」


やさしく、でもはっきりと。


「ゆっくりでいいにゃ」


シロップは、少しだけ顔を上げる。


「……でも……」


言葉が続かない。


そのとき、リオンがそっとしゃがんだ。


同じ高さで、目を合わせる。


「最初はみんなそうだよ」


やわらかな声。


「わたしもいっぱい失敗した」


「ほんとにゃ!」


チャイが元気よく言う。


「今もにゃ!」


「自信満々に言わないで!?」


また、笑いが広がる。


その中で、シロップの肩の力が少しずつ抜けていった。


深く息をして、もう一度前を見る。


今度は、急がない。


ひとつずつ。


ゆっくりと、野菜を拾っていく。


みんなと一緒に。


同じ動きで。


同じ時間で。


やがて、カゴの中に野菜が戻る。


「できたにゃ」


ミルクが言う。


シロップは、そのカゴをじっと見つめた。


そして――


小さく笑った。


「……できた……」


その声は、さっきよりもやわらかくて、少しだけ自信が混ざっていた。


ネコネコランドの朝は、今日もにぎやかで。


そしてまたひとつ、小さな「できた」が増えていくのだった。

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