第二十六話 はじめての日は大騒ぎにゃ!?
ネコネコランドの朝は、いつもより少しだけ落ち着かない空気に包まれていた。
やわらかな光が広場を照らし、風が草のあいだを通り抜けるたびに、きらきらと小さな粒のような輝きが揺れる。
そんな穏やかな朝の中で――
ひとつだけ、まだその空気に馴染みきれていない小さな影があった。
昨日、ミルクたちが迎えに行ったばかりの子。
白と灰色がやさしく混ざった、小さなねこ。
広場のまんなかで、少しだけ体を縮めるようにして立っている。
周りを見ては、また足元に視線を落とす。
「ここが……ネコネコランド……」
ぽつりとこぼれた声は、まだ少し遠慮がちで、どこか不安も残していた。
リオンはその隣に立ち、やわらかく微笑む。
「そうだよ。大丈夫、すぐ慣れるから」
ゆっくりとした声でそう言うと、新しい子は小さくうなずいた。
そのときだった。
「遊ぶにゃーーー!!」
勢いよく飛び込んできたのは、チャイだった。
風を巻き込むみたいに、一直線に突っ込んでくる。
「えっ」
「えっじゃないにゃ!遊ぶにゃ!」
気づけば、もうすぐ目の前。
距離感なんて関係ない。
「ちょっとチャイ!?」
リオンが慌てて声を上げるが、チャイはもう止まらない。
新しい子のまわりを、くるくると楽しそうに走り出した。
「追いかけっこにゃ!」
「ま、待って……!」
戸惑いながら、一歩下がる新しい子。
そのとき――
「ボールもあるにゃ」
ミルクが、どこからともなく大きなボールを転がしてきた。
ころころ、とやさしく転がるそれは、まるで「一緒に遊ぼう」と誘っているみたいだった。
「えっ」
「遊ぶにゃ」
ミルクはいつもの調子で言う。
その圧に、新しい子は一瞬固まる。
そして次の瞬間。
「いくにゃーーー!!」
チャイがボールに飛びついた。
ドン、と軽くぶつかる音。
勢いよく弾かれたボールが、ころん、と新しい子の足元へ転がってくる。
「わっ……!」
思わず、小さく跳ねる。
「跳んだにゃ!」
チャイが嬉しそうに叫ぶ。
「びっくりしただけだよ!?」
リオンが笑いながらつっこむ。
その横で、ルナがそっと近づいた。
「大丈夫……?」
やさしい声。
新しい子は、少しだけ安心したように、小さくうなずく。
「う、うん……」
そのとき、またボールが転がってきた。
さっきよりも、少しだけゆっくりと。
新しい子の目が、その動きを追う。
ころころ、と転がる動き。
しばらく見つめてから――
そっと前足を伸ばす。
ちょん。
軽く触れる。
ころん。
ボールがまた転がる。
「……」
もう一度。
ちょん。
ころころ。
今度は、少しだけ力が入っていた。
そして――
ふっと、その表情がやわらいだ。
「今、笑ったにゃ!」
チャイがすぐに気づく。
「言わなくていいの!」
リオンが笑う。
ミルクも満足そうにうなずいた。
「いい流れにゃ」
そのまま、自然と追いかけっこが始まる。
最初はぎこちなかった足取りが、少しずつ軽くなっていく。
走って、止まって、また走って。
「待つにゃーーー!!」
「待ってないにゃーーー!!」
いつものにぎやかな声が、広場に広がる。
その中に――
ちゃんと、新しい子もいた。
少し遅れて。
少し戸惑いながら。
でも、ちゃんと同じ方向へ走っている。
リオンはその様子を見ながら、静かに笑った。
昨日は、あんなに小さく丸くなっていたのに。
今日は、もう走っている。
マロンがぽつりと言う。
「……早いね……」
「うん」
リオンはやさしくうなずいた。
「でも、それでいいんだと思う」
そのとき、新しい子が少しバランスを崩した。
「わっ」
ぐらり、と体が揺れる。
でも――
ルナがすぐに支える。
「大丈夫……」
チャイが横から顔を出す。
「セーフにゃ!」
ミルクがうなずく。
「いいチームにゃ」
インクが、少しだけ目を細める。
「……環境が変われば、行動も変わる」
リオンは空を見上げた。
やわらかな光と、やさしい風。
そして、広がる笑い声。
「楽しい?」
リオンがそっと聞く。
新しい子は、少しだけ考えてから――
こくり、と小さくうなずいた。
その表情は、昨日とはまるで違っていた。
ネコネコランドの朝は、今日もにぎやかで。
そしてまたひとつ、小さな笑顔が増えていくのだった。




