第二十一話 止まらない大暴走!?ねこたちの朝にゃ大事件!
ネコネコランドの朝は――
本当なら、やわらかな光と、やさしい風に包まれて始まるはずだった。
けれど今日は違った。
「にゃああああああああああ!!!」
その叫び声が、すべてを吹き飛ばした。
「ちょっと待ってーーー!!」
リオンは、全力で走っていた。
石畳を蹴る音が、ドドドドドッと響く。
その視線の先――
ひとつの影が、ものすごい速さで通りを駆け抜けていく。
風みたいに。
いや、風よりも騒がしく。
「チャイーーーーー!!止まってーーー!!」
チャイだった。
しかも――
口に、パンをくわえている。
「それ、お店のパンでしょーーー!?」
後ろから、パン屋のねこが必死に追いかけてくる。
「待つにゃーーー!!まだお金もらってないにゃーーー!!」
「逃げる気はないにゃーーー!!止まれないだけにゃーーー!!」
「意味が分からない!!」
リオンのツッコミが、朝の空に響いた。
チャイは止まらない。
角を曲がり、屋台のあいだをすり抜け――
「わあっ!?」
トマトがころころと転がる。
キャベツがごろん、と道に落ちる。
「またにゃーーー!?」
八百屋のねこが頭を抱えた。
「ごめんにゃああああ!!」
謝りながら、さらに加速するチャイ。
「謝るなら止まってーーー!!」
リオンは必死に追いかける。
その後ろから、ミルクとルナも走っていた。
「……これは完全に大事件にゃ」
ミルクが冷静に言う。
「楽しそう……!」
ルナは、ちょっとだけ笑っている。
「楽しんでる場合じゃないよ!?」
そのときだった。
「……朝から騒がしいな」
低く静かな声。
道のすみに、インクが立っていた。
ゆっくりと状況を見渡す。
走るチャイ。
追うリオン。
転がる野菜。
騒ぐ通り。
そして――
「……なるほど」
ひとことつぶやき、前に出る。
すっと道の真ん中へ。
「チャイ」
低く、よく通る声。
「止まれ」
その瞬間。
ぴたっ。
チャイの体が、嘘みたいに止まった。
ぴたり、と。
完全に静止。
……だが。
止まれなかったのは、後ろのリオンだった。
「うわあああああ!?」
ドーーーン!!
勢いそのまま、激突。
「いたあああああい!!」
「ごめんにゃ!!」
「止まるなら言ってよーーー!!」
パンがぽとりと地面に落ちる。
さっきまでの騒ぎが、ふっと止まる。
ほんの一瞬だけ、静けさが戻った。
……そして。
「……なんで走ってたにゃ?」
ミルクが静かに聞いた。
チャイは、きょとんとした顔で答える。
「パンが焼きたてで、いい匂いだったからにゃ!」
「理由それだけ!?」
リオンが叫ぶ。
パン屋のねこが、はあはあと息を切らしながら近づいてきた。
「……ちゃんとお金払ってくれれば、いいにゃ……」
「払うにゃ!!ちゃんと払うにゃ!!」
チャイはあわててポケットを探る。
ごそごそ。
……ごそごそ。
「……あれ?」
「ないの!?」
「さっき走ってるときに落としたにゃ!」
「ダメじゃん!!」
そのとき。
「これ……かな?」
ルナが、そっと手を差し出した。
小さなお金が、手のひらにのっている。
「それそれーーー!!」
「途中で落ちてたの拾ったにゃ」
「神!!ルナ神!!」
「ねこだよ」
静かなツッコミ。
やっとパンを買うことができて、みんなはその場に座り込んだ。
さっきまでの大騒ぎが嘘みたいに、ゆるやかな時間が流れる。
チャイは、何事もなかったようにパンをかじる。
「おいしいにゃ〜」
「そりゃそうでしょ……」
リオンは、くすっと笑った。
さっきまで、あんなに大変だったのに。
走って、ぶつかって、叫んで。
でも――
なんだか、楽しい。
ミルクが、ぽつりと言う。
「ネコネコランドは、今日も平和にゃ」
「……これ平和なの?」
「平和にゃ」
きっぱり。
リオンは空を見上げた。
青い空と、ゆっくり流れる雲。
その下で、みんなが笑っている。
――まあ、たしかに。
こういうのも、悪くない。
ネコネコランドの朝は、今日も元気いっぱいで、ちょっとだけ騒がしくて。
それでもやっぱり、やさしく始まるのだった。




