第十九話 消えたおやつの犯人は!?
ネコネコランドの朝は、やわらかな光に包まれていた。
石畳の道はほんのりと温かく、広場の花々は朝露をまとって静かに揺れている。
――そんな穏やかな時間を、引き裂くような声が響いた。
「ないにゃあああああ!!」
一瞬で空気が変わる。
小鳥たちは驚いて飛び立ち、風がざわりと揺れた。
「どうしたの!?」
リオンは思わず駆け出す。
広場の中央で、ミルクが小さな箱の前に立ち尽くしていた。
その表情は、信じられないものを見たように固まっている。
「……おやつが……」
震える前足が、箱の中を指す。
「……消えたにゃ……」
中は、見事なまでにからっぽだった。
昨日まで、あふれそうなほど詰まっていたはずのおやつ。
その面影すら残っていない。
「そんなことある……?」
リオンがしゃがみこんで中をのぞく。
粉ひとつ残っていない。
その“きれいさ”が、かえって不自然だった。
「事件だね」
背後で、楽しそうな声がした。
振り向くと、チャイがきらきらした目で立っている。
「いや、ただの食べ過ぎじゃ……」
「違うよ!」
びしっと前足を上げる。
「これは立派な“おやつ消失事件”だよ!」
なぜか誇らしげだった。
ルナはおろおろと周りを見回す。
「だ、だれか……困ってるのかな……?」
マロンは箱の縁にそっと手をかけ、静かにのぞきこんだ。
「……きれいに……なくなってる……」
ぽつり、と落ちる言葉。
その静けさに、場の空気が少しだけ変わる。
インクが、ゆっくりと一歩前に出た。
「……不自然だな」
低く落ち着いた声。
金色の瞳が、箱の中を見つめる。
「痕跡がない」
リオンは思わず息をのむ。
確かに、何も残っていない。
「……夜だな」
インクがつぶやく。
「夜に動いた」
その一言が、空気を引き締める。
「よし、犯人を見つけよう!」
チャイが元気よく宣言する。
「なんでそんな楽しそうなの……」
リオンは苦笑するが、もう流れは止まらない。
――捜査が始まった。
「昨日、おやつを見た人!」
チャイの問いかけに、ルナがそっと手を挙げる。
「夕方に……まだあったよ……」
「じゃあ、そのあとだね」
チャイは満足そうにうなずく。
マロンが小さく言った。
「……夜……静かだった……」
インクが目を細める。
「……静かすぎた」
その言葉に、リオンの胸がわずかにざわつく。
その時だった。
「……ん?」
ミルクが足元を見つめた。
視線の先。
石畳の上に、かすかな白い跡が続いている。
「これ……」
リオンがしゃがみこむ。
指でなぞると、さらりとした粉。
「おやつの……粉……?」
それは小さな足あとになって、道の奥へと続いていた。
「追うにゃ!!」
ミルクが勢いよく走り出す。
みんなも、そのあとを追う。
足あとはくねくねと曲がりながら、広場のすみの木の裏へと消えていった。
その先に――
「……あ」
リオンが小さく声を漏らす。
そこにいたのは、小さな子猫だった。
丸くなって眠っている。
お腹は、ぽん、とやわらかくふくらんでいた。
その周りには、空っぽのおやつの袋がいくつも転がっている。
しばらく、誰も何も言えなかった。
「……犯人……発見にゃ」
ミルクが静かに言う。
子猫はゆっくりと目を開けた。
「……あれ……」
きょとんとした顔。
状況がまったく分かっていない。
リオンは思わず笑った。
「おなか、すいてたの?」
子猫は小さくうなずく。
その素直さに、空気がやわらぐ。
チャイがくすっと笑った。
「全部食べたの?」
また、こくり。
「すごいね……」
ミルクは少しだけ黙りこんだ。
それから、ふっと息をついて言う。
「……しかたないにゃ」
やさしい声だった。
「次は一緒に食べるにゃ」
子猫の目が、ぱっと明るくなる。
「いいの……?」
「いいにゃ」
ミルクは照れくさそうに笑った。
ルナもそっと近づく。
「みんなで食べた方が、おいしいよ」
マロンが小さく言った。
「……ひとりだと……さみしいもんね……」
その言葉に、子猫はまたこくりとうなずく。
インクは静かに目を細めた。
「……合理的だ」
リオンはくすっと笑う。
事件は、あっけなく終わった。
でもそのあとに残ったのは、不思議とあたたかいものだった。
ネコネコランドの朝は、今日もにぎやかで。
小さな事件と、たくさんのやさしさでできている。
それが、この世界の――いつもの日常だった。




