第十六話 大事件!?ネコネコランドが消えた日!
朝のネコネコランドは、今日も変わらずやさしい光に包まれていた。
木々の葉のあいだから差し込む陽ざしはきらきらと揺れ、花の香りを運ぶ風が、眠っているみんなの頬をそっとくすぐる。
小鳥たちが楽しそうに歌い、遠くではパンの焼けるいい匂いが広がっていた。
――そんな穏やかな朝を、いきなりぶち壊す声が響いた。
「たいへんにゃーーー!!」
ばたんっ!とドアが開く音。
どたどたどたっ、と駆け回る足音。
「起きるにゃ! みんな起きるにゃー!!」
リオンは布団の中で、ゆっくりと目を開けた。
「……なに……?」
眠たい声でつぶやく。
その横ではチャイが、まだ夢の中で「パンが逃げるぅ……」と寝言を言っている。
ルナはびっくりして飛び起き、インクは静かに片目だけ開けた。
マロンも小さく体を起こし、不安そうに周りを見ている。
その真ん中で、ミルクが真剣な顔をしていた。
王冠をぴかりと光らせながら、重々しく言う。
「ネコネコランドが――」
ごくり。
みんなが息をのむ。
「消えたにゃ!!」
しーん。
一瞬の静けさ。
リオンは、ゆっくり周りを見た。
木はある。
花も咲いている。
風も吹いている。
……いつも通りだった。
「……あるよ?」
ぽつりとつぶやく。
「ないにゃ!!」
ミルクがびしっと指をさす。
「ここにあるのは……きっとニセモノにゃ!!」
「えぇ!?」
ルナが青ざめる。
チャイもようやく起きて、ぱくっと空気を食べた。
「じゃあこのパンもニセモノ!?」
「それは本物にゃ」
「よかったぁ」
ほっとするチャイ。
リオンは思わず額に手を当てた。
「ちょっと待って……どういうこと?」
ミルクは真剣な顔のまま言った。
「王冠がなくなったにゃ」
「……うん」
「王冠はネコネコランドの象徴にゃ」
「……うん?」
「つまり――」
びしっ。
「王冠がない=ネコネコランドが消えたにゃ!!」
「ならないよ!?」
思わず全力でつっこむリオン。
けれどミルクは聞いていない。
すでに次の行動へ移っていた。
「総員! 王冠捜索開始にゃーー!!」
「いやまず頭見て――」
「行くにゃーー!!」
聞いていない。
こうして、ネコネコランド王冠大捜索が始まった。
チャイは一目散にパン屋へ走った。
「ここに隠れてるかも!」
と言いながら、棚のパンを次々に確認していく。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
「……ただ食べてるよね?」
リオンが遠い目をする。
ルナは花壇の前で、ひとつひとつやさしくのぞき込んでいた。
「お花さん、見なかった……?」
すると風がふわりと吹き、花びらがくるくる舞う。
なぜか花が少し増えた。
「増えてる!?」
インクは少し離れた木陰で、腕を組んでいた。
「……最後に見たのは今朝だ」
「うん」
「ミルクはずっと王冠をかぶっていた」
「うん」
「つまり――」
「うん?」
「……なくなる要素がない」
「だよね!?」
リオンが力強くうなずく。
でもその横でミルクは空に向かって叫んでいた。
「怪しいのは雲にゃーー!!」
「雲は盗まないよ!?」
「風かもしれないにゃ!」
「風も盗まないよ!?」
ミルクはぴょんぴょん跳ねながら、空をつかもうとしている。
当然、つかめない。
その様子を見ていたマロンが、小さく笑った。
「……届いてない……」
その声に、リオンはふっとやさしく笑う。
「ね、届かないでしょ」
マロンはうなずいた。
その表情は、もう前のような不安な顔ではなかった。
ちゃんとみんなの中にいる顔だった。
やがて全員が集まる。
成果――
チャイ:お腹いっぱい
ルナ:花が増えた
インク:最初から分かっている
ミルク:なぜか少し満足げ
「見つからないにゃ……」
ミルクがしょんぼりと肩を落とした、その時。
ルナが、ぽつりと言った。
「……あれ?」
「どうしたの?」
「ミルクの頭にあるの、なに……?」
しーん。
全員の視線が、ゆっくりとミルクへ向く。
ミルク、固まる。
その頭には――
ぴかぴかの王冠。
きらりと光っていた。
「……あったにゃ」
ぽつり。
次の瞬間。
「最初からあったよーー!!」
リオンのつっこみが炸裂した。
チャイが転げ回る。
ルナが声をあげて笑う。
インクが静かに目を細める。
そして――
「あははははっ!!」
マロンが、お腹を抱えて笑った。
転びそうになりながら、涙が出るほど笑っている。
その笑い声は、昨日よりもずっと大きくて、ずっと明るかった。
リオンも笑いながら、その姿を見つめる。
(ちゃんと……笑ってる)
胸の奥が、じんわりとあたたかくなる。
ミルクは照れくさそうにしながら、えっへんと胸を張った。
「……わざとにゃ」
「絶対違うよ!!」
また笑いが広がる。
青い空の下、ネコネコランドには今日もにぎやかな声が響いていた。
笑っていいんだよ、と。
ここにいていいんだよ、と。
そんな声が、風にのってやさしく広がっていくように。




