第十三話 にぎやか通りへようこそ!
朝のネコネコランドは、今日も太陽の光をいっぱいに浴びて、きらきらと輝いていた。
やわらかな風が花の香りを運び、遠くでは小鳥たちの歌声が聞こえる。
そんな気持ちのいい朝、広場のまんなかでミルクが胸を張って立っていた。
今日も頭の上にはぴかぴかの王冠。
なぜか今日は、いつもより少し斜めにかぶっている。
「今日は特別に、みんなをネコネコランドで一番にぎやかな場所へ案内するにゃ!」
前足を高く上げて、誇らしげに宣言する。
リオンは目をぱちぱちさせた。
「一番にぎやかな場所?」
「そうにゃ!」
ミルクは得意げにしっぽをぴんっと立てる。
「その名も――にぎやか通りにゃ!」
「名前、そのままだね」
思わずつっこむリオン。
「分かりやすいのが一番にゃ!」
ミルクはまったく気にしていない。
その横では、チャイがすでにそわそわしていた。
「にぎやかな場所って……おいしい匂いする?」
「食べることしか考えてないでしょ」
リオンが笑う。
ルナは目をきらきらさせた。
「かわいいお店、あるかなぁ……」
少し離れた木の上では、インクが静かにあくびをしている。
「……人が多い場所は疲れる」
そう言いながらも、ちゃんとついてくるあたりがインクらしい。
石畳の道をみんなで歩いていくと、やがて目の前がぱっと開けた。
そこには、色とりどりの屋根が並ぶ、大きな通りが広がっていた。
赤い屋根、青い屋根、黄色い屋根。
窓辺には花が咲き、道には小さな旗がひらひら揺れている。
あちこちから笑い声が聞こえ、焼きたてのパンの香りや、甘いお菓子の匂いが風にのって流れてきた。
「わぁぁ……!」
リオンの目が輝く。
「すごい……絵本の中みたい……!」
一番に飛び出していったのは、もちろんチャイだった。
「パンの匂いーー!!」
走って向かった先には、しっぽパン屋さん。
ガラスケースの中には、くるんと丸まったしっぽの形のパンがずらりと並んでいる。
ふわふわのミルクパン。
こんがりチーズパン。
きらきら砂糖の星パン。
チャイの目が、宝石みたいに輝いた。
「ここに住みたい……」
「住んじゃだめ」
リオンがすぐにつっこむ。
その横では、ミルクがひげひげ帽子店で大はしゃぎしていた。
立派なヒゲのついた帽子をかぶり、鏡の前でくるりと回る。
「どうにゃ? 王の風格が増したにゃ?」
「なんか急に偉そう」
「急じゃないにゃ。もともと偉いにゃ」
えっへん、と胸を張る。
ルナはきらりん雑貨店で、光る鈴や星の首輪に夢中になっていた。
月の形をした小さなしおりを見つけて、うれしそうに抱きしめる。
「きれい……夜のお空みたい……」
そのやさしい笑顔に、リオンまであたたかな気持ちになる。
――ふと気づくと、インクの姿が見えない。
「インク?」
あたりを見回すと、少し離れた路地裏の奥。
古い木の看板が揺れる、小さな古書店の前に黒いしっぽが見えた。
「やっぱり本屋さんだ」
リオンがくすっと笑った、その時――
ゴーン……
街の中心から、大きく重たい鐘の音がひとつ響いた。
みんなが空を見上げる。
にぎやか通りの真ん中には、大きな魚の形をした時計台が立っていた。
ネコネコランドのシンボルだ。
本当なら12時になると、その魚が口をぱくぱく動かして歌うはず――なのに。
今日は、ぴたりと止まったまま。
街じゅうがざわつく。
「歌わないにゃ!?」
ミルクが目を丸くする。
「壊れたのかな……?」
リオンも心配そうに見上げる。
すると、時計台の中から――
「すぴー……すぴー……」
……寝息が聞こえた。
みんな、ぴたりと止まる。
「……え?」
リオンが瞬きをする。
もう一度。
「すぴー……むにゃ……パンもうひとつ……」
聞き覚えのある寝言。
ミルクの耳がぴくっと立つ。
ルナがそっと指をさす。
インクが静かに目を細める。
そして全員の声がそろった。
「チャイーーー!?」
時計台の中で、チャイが気持ちよさそうに丸くなって眠っていた。
どうやらパンの香りを追いかけて迷い込み、そのままお昼寝してしまったらしい。
「お腹いっぱいで……つい……」
寝ぼけ顔で言うチャイに、みんな大笑い。
その拍子に時計のしかけが動き出し――
ぱかっ。
魚の口が開いた。
そして元気いっぱいに歌い出す。
♪にゃにゃにゃ〜ん
おひるのじかん〜
おなかがすいたら〜
みんなでたべよう〜♪
街じゅうに、笑顔が広がる。
チャイは照れながら頭をかき、
「……歌、ぼくの気持ちみたい」
とつぶやいた。
「最初からずっとそうにゃ」
ミルクのひと言で、またみんなが笑う。
青い空の下、にぎやかな通りには今日も笑い声があふれていた。
ネコネコランドには、ふしぎもある。
やさしさもある。
そして――おいしい匂いのする場所には、だいたいチャイがいるのだった。




