第三話 "白骸"の勇者
動屍体の火葬を見届け、掘った壕を埋めて埋葬する。これにて動屍体討伐の依頼は完了だ。
動屍体討伐の仕事は『臭い・汚い・危険』で評判の不人気な依頼であった。その分、地方の領主や教会が多額の出資をしてるため、実入りはそう悪くはないのだが。
3人の勇者は馬車に乗り込み、帰路へと着いた。
その最中にも"白骸"は魔術の鍛練を怠らない。
そもそも元はと言えば、"白骸"の鍛練と動屍体を使役できるかどうかの検証も兼ねてこの依頼を受けたのであった。
結論から言えば、動屍体の使役は不可能であった。
動屍体の体内に蓄積された瘴気が"白骸"の魔術による支配を阻害するのだ。
そもそも練度の不足が原因か、はたまた自身の魔術適性との相性なのか、"白骸"は動屍体の使役はどうにも不得手であった。
一応、動屍体の首を落として再度『死亡した』状態にすることで骸骨化できるようにはなったものの、それには"暴勇"の助けを必要とした。
やはり"暴勇"。"暴勇"は全てを解決してくれる。
しかし、いつまでも"暴勇"らの助けを求めていては始まらない。多少なりとも自力で戦う手段を見繕わなくては。
気持ちを入れ替えた"白骸"は魔術の鍛練に集中する。
目の前の骨鼠に意識を集中させる。視界が切り替わり、目の前に巨大な自分の姿が見えた。骨で出来た身体が、手足のように違和感無く動かせる。後は、無理の無い範囲でこの状態を維持するだけだ。
"白骸"は骨鼠に意識を移す際、身体から遠く離れ過ぎないようにしている。あまり離れ過ぎるとそのまま元の身体に戻れなくなる予感がするので、適度に無理の無い範囲に留めてはいるのだが……それでも、以前と比べて移動可能な距離と魔術の持続時間が倍近く延びたことから、自身の成長を感じさせられた。
魔力の増加に伴い、"白骸"は他にもできることが増えた。
以前はゴブリンなどの小型生物の骨くらいしか使役出来なかったが、漸く人間や狼程度の大きさの骸骨も無理無く複数体同時に使役できるようになった。
「これで戦略の幅が拡げられる」と、"鬼謀"は上機嫌であった。
かつて"白骸"は、初めての冒険で仲間の危機に際し、この冒涜的な魔術を振るった結果『化け物』と呼ばれ一党を解散に追い込んでしまった。
──そんな忌み嫌われる力を『素晴らしい』と、初めて誉めてくれたのが"鬼謀"と"暴勇"の2人であった。
こんな不気味で冒涜的な魔術であるにも関わらず2人は嫌な顔一つせず、それどころか『勇者が使うのだからそれは勇者魔法だ』と肯定し、価値を見出だしてくれたのが何よりも嬉しかった。
"鬼謀"と"暴勇"、彼らはいずれも"白骸"と同じく一党を追放された、およそ勇者らしくない勇者であった。
そんな彼らが必要としてくれるのならば、"白骸"はこの力を振るうことに何の迷いもなかった。
更に副次的ではあるが、2人との交流によってやや引っ込み思案であった性格も改善され、"白骸"本来の性格を表に出せるようになってきた。
素が田舎娘であるため些か口が悪いのが玉に瑕であるが、駆け出しの頃と比べて明るく振る舞えるようになったのは大きな進歩と言えるだろう。
己のささやかな成長に思いを馳せながら、"白骸"は目の前の自分を見上げる。──艶やかな白銀の髪が、風に靡いていた。
漸く街へと着いた3人が依頼達成の報告に向かおうとした矢先、冒険者ギルドの前に奇妙な人集りができていた。
Tips.
筋肉と同じく、魔力も使えば使うほど成長し容量が増える。
勿論、魔力が尽きる限界まで使えば魔力欠乏で頭痛や眩暈を起こしたりするものの、節度を守って行えば良い修行になる。
魔術師によって鍛練の仕方は様々であり、初級魔術をひたすら連発する者も居れば、使い魔の精密なコントロールに力を入れる者も居る。
噂では、たったの一発で魔力を使い果たすような上級魔術を幼少の頃から使い続けるという、常軌を逸した鍛練法で大成した魔術師も居るとか……真相は定かではない。




