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第二話 Run with the Deadman

「イイィィィヤァァァーーーッ!!?!?」


 太陽が中天を過ぎた頃合い、街の郊外にある墓地に少女の悲鳴が木霊する。

 声の主、"白骸"の勇者は今、全力で逃げていた。何から? ……勘の良い読者諸君は、既に察しがついていることであろう。


「「「オ゛ア゛ーーーー!!!」」」


 そう、動屍体(ゾンビ)である。それも大量の動屍体に追われていた。


 この動屍体(ゾンビ)あるいは食屍鬼(グール)などとも呼ばれる下等なアンデッドは、普段の動きこそ緩慢であるが、獲物を見付けると一転して勢いよく走り出し、死した身体を突き動かす原始的な欲求を満たさんが為に獲物を追い詰める。当然、既に死んでいるため体力もおよそ無尽蔵であり、多少肉体が欠損しようと頭部が無事な限り止まることはない。


 そんな動屍体を墓地の隅々まで回ってしこたま集めたものに"白骸"の勇者は追われていたのだ。


「もう無理! 死ぬ! 嫌だ! 死にたくない! ヤダーッ!!」


「オラオラ、ペース落ちてるぞ! もっと気合い入れねぇか! 追い付かれたら死ぬぞォ!」


 文字通り死に物狂いで走る"白骸"と並走しながら激を入れるこの偉丈夫は"暴勇"の勇者。【追放勇者同盟】の盟主で、この地獄の耐久マラソンの立案者その1である。


「はい、お待たせしました! 準備が整いましたよ! さぁ、ラストスパートです!」


 墓地の入り口付近から糸目の優男が"白骸"らに呼び掛ける。彼の名は"鬼謀"の勇者。彼もまた【追放勇者同盟】の盟友であり、この地獄の耐久マラソンの立案者その2である。


 "白骸"と"暴勇"は"鬼謀"の方へと駆けた。大量の動屍体を伴って。


 走る。走る。背後に死が迫る。走る。あと少し。走る。走っ──


「……あっ」


 足が縺れた。これは、死──


「よっ、と……良く頑張ったな嬢ちゃん! ……オォラァ!!」


 "暴勇"は少女の身体を転ぶ寸前で抱え上げ、力強く踏み込み跳躍した。巨漢が宙を舞い、刹那の浮遊の後着地する。


「はい、ゴール! お二人ともお疲れ様です。ささ、果実水がありますよ」

「っ……はっ、ひっ、死……死ぬかと思った……っ……!」


 危機を脱した"白骸"は肩で息を切らしながら生の喜びを享受していた。


「嬢ちゃんはまだまだ体力が足りねぇなぁ。ま、始めてにしちゃ上出来か!」


 "暴勇"はガハハと笑いながら水筒と手拭いを投げ渡す。


 さて、先ほどまで2人を追い掛けて来た動屍体の大群は何処に? その答えは先程の『跳躍』にあり。

 墓地の入り口前に深い壕が出来ているではないか。壕の幅は思い切り助走をつければ飛び越えられるギリギリのラインであり、失敗すればそのまま仲良く動屍体の仲間入り……という、何ともろくでもない代物だ。


 この壕は"白骸"が蘇らせた骸骨(スケルトン)を総動員して"鬼謀"が掘らせたものだ。ご丁寧に壕の下には返しが付いた杭が配置してあり、落ちた動屍体の逃走を阻害している。

 大量の動屍体が詰まった壕に、"鬼謀"は持ってきた樽の中身を流し込んだ。


「この臭い……こいつぁ、臭水(くそうず)か?」

「おや、ご存知でしたか。そう、これは臭水……石油を精製したものです。錬金術師は『ナフサ』あるいは『ガソリン』などと呼んでおりました。値段はこの樽一杯で……いやはや、聞かない方が良いでしょう」


 "鬼謀"はそう言うと、壕に火種を投げ入れる。次の瞬間、一瞬で業火が壕の中を満たした。


「「「アバーーーーッ!?」」」


 逃れ得ぬ業火に包まれた動屍体は、ろくな抵抗もできぬまま火葬されていく。動屍体の対処法は頭や四肢を潰して無力化する、あるいはこのように火葬するのが手っ取り早いのである。


 あの身体は闘争で出来ている"暴勇"ですら手を焼く動屍体の群れを、まとめて火葬出来たのだからガソリンは良い買い物だったと言えるだろう。屍肉が焼ける不快な臭いだけは、どうにもならなかったが……


「うぅ、酷い臭いですね……"鬼謀"さん? どうしたんですか?」

「……え?」


 "鬼謀"の頬を涙が伝っていた。


「これ、は……プルースト効果……いえ、何でもありません。……煙が目に入っただけですよ」

「はぁ……?」


 "鬼謀"の不可解な反応に"白骸"が首を傾げていると、後始末を済ませた"暴勇"が戻って来た。


「おう、残党は居ないみたいだぜ。瘴気祓いに聖水も撒いておいた。まだちょいと瘴気が濃いが、そのうち晴れるだろうよ」

 

「お疲れ様です"暴勇"の。では、彼らが燃え尽きるのを確認したら、改めて埋葬して帰りましょうか。……姿や経緯はどうであれ『死人に敬意あれ』ですよ」

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