第四話 獣人の少女勇者
「我こそは銀狼の徒、『銀牙』の族長の子なり! この度『勇者』の天啓を賜り、この地に馳せ参じた! 誰ぞ、我が下に加わらんと欲す強き勇士はおらぬか!?」
銀髪の美しい狼獣人の少女が勇ましく名乗りを挙げ、一党のメンバーを募っていた。
『獣人』と一口言っても色々居るもので、獣に近い姿の者から人に近い姿の者まで、とにかく個性的だ。彼女の場合、狼の耳と尻尾が付いている以外は比較的人に近い姿の獣人のようだ。
天啓を賜ったと言うからには成人の儀は終えているのだろう。だが身の丈は"白骸"とさほど変わらず、戦士としては小柄だ。
「へへっ、随分可愛らしい勇者様がいたもんだ。どうだ、俺たちと組まねぇか? 可愛がってやるぜ」
前衛職であろう屈強な男が下卑た笑みを浮かべながら名乗り出る。
「……フン、下郎が。私は弱者の下に付くつもりはない。従わせたくば、命懸けで力を示せ」
「ほう、言ったな? こっちに来な、相手してやる」
男は獣人勇者を伴い、冒険者ギルドの隣の野外訓練場へと向かった。野次馬もそれを遠巻きに見守る。
「俺が勝ったら約束通り俺たちの一党に入ってもらうぜ」
「良かろう。尤も、負けるつもりは無いがな」
その場に居合わせた冒険者の一人が審判役を買って出る。
2人は得物を抜き、構える。男は長剣を、獣人の勇者は背中に負った大斧を引き抜き蜻蛉に構える。
「(馬鹿がよ……あんな重いもんまともに振れる訳がねぇ……躱して横から一撃叩き込んで終わりよ……こいつぁ貰ったぜ)」
男は内心勝利を確信し、ほくそ笑んだ。
「……死んだなあいつ」
「え?」
それを眺めていた"暴勇"が小さく呟いた。
「……始め!」
「キエエエェェェアアアァァァアァァァアアァッッ!!!」
開始の合図と共に、突如獣人の勇者が耳をつんざく叫び声を上げながら飛び掛かった!
男は驚きのあまり反応が遅れる。最早避けられない。咄嗟に長剣で受けようとした。
だが、これが悪手だった。
獣人勇者の放った渾身の一撃は、男の長剣を叩き折るとそのまま男の頭に叩き込まれた。
勝負は文字通り一瞬であった。
男が被っていた頑丈そうな金属製のヘルムは無惨にひしゃげていたが、最期に役目を果たしたようで、男は一命を取り留めていた。ヘルムを被ってなかったら即死だったと言えるだろう。
「……弱い。弱すぎる。どうした、この街の冒険者はこの程度なのか? 私の群れに弱者は不要。私に付いて来れる強者のみ名乗り出よ。誰ぞ、私を倒せる勇士はおらんか!?」
遠巻きに眺めていた冒険者たちはすっかり縮こまってしまった。あの戦いを見せられては無理も無い。
──だが、求人の方法としてはおよそ最悪である。
「どうするよ?」「お前が行けよ」「嫌だよ死にたくねぇ」「私も嫌よ」「だからって舐められっぱなしじゃ」「魔法使いは門前払いだよなぁ」「化け物だぜ、ありゃ」
冒険者たちは、最早目の前の少女に完全に気圧されていた。これでは一党を組むどころか、我が強すぎて他の一党に頭を下げて入れて貰うことすら儘ならないだろう。
「……見ちゃいられねぇ」
その時、一人の男が訓練場に踏み行った。
"暴勇"の勇者その人である。




