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禍つ黒鉄の機式魔女  作者: 黒肯倫理教団
7章

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338/339

338話

 本来の能力を解放し、一帯を魔物で制圧。

 幹部であるロウと直属の用心棒であるハスカ――その二人を無力化し、ミラが勝利を確信した直後のことだった。


「……っ」


 臓腑の奥底から冷え込むような"死"の気配。

 裏社会で長く生き延びてきた者であればあるほど、この香りに敏感になってしまう。


 それが、未だかつてないほどに濃かった。

 聡い者ならこの場を放棄して逃げ出すであろう危険な魔力。


 感じ取ると同時に、ハスカを捕らえていた魔物が突如として崩れ落ちる。


「――情けないですね」


 咎めるような口調。

 ゾーリア商業区にここまで侵攻を許してしまっている。

 首領不在のカラミティには、トリリアム教会と対峙するには戦力が不足していた。


 この状況下で、戦力集めに苦戦してしまった。

 そんな自身の不手際こそが、屍姫にとって何よりも咎めるべき失態だった。


 屍姫は視線を左右させ、周囲を観察する。

 どうやら彼女が、ロウの報告にあった魔物を操る無法魔女アウトローのようだ、と。


「……ようやく本命がお出ましのようですねえ」


 ミラが武器を構える。

 同じ魔物を操る能力を持つ魔女。

 性質としては似通っているが、その原理は異なる。


 ハスカを助け出したアンデッド――全身に白銀の鎧を装着しており、右手には長剣を携えている騎士。

 下手をすれば、この魔物は大罪級に留まらない魔力を保有しているように見える。


 それだけではない。

 そのバケモノを従えている、屍姫の気配は――。


「――"精々、愉しませてください"」


 何もない空間から、何かが爆ぜたかのような勢いで不死の軍勢が溢れ出す。

 瞬く間にミラが操る魔物たちと乱戦になった。


「この場は私が引き受けましょう」

「すまない――」


 ロウがハスカを背負って撤退する。

 この場に残ったところで足手まといにしかならない。

 命を落としたところをアンデッドにしてもいいが、それはクロガネの意に沿わない可能性が高い。


 二人はよく耐えた方だろう。

 魔物を操る無法魔女アウトロー――その装備はかなり消耗しているように見える。

 魔力こそ十全なようだが、大半の企みは阻止できたらしい。


 これならば、本体はさほど脅威にならない。

 仕事はこなしている……と、屍姫のやや低めの期待に応えてくれた。


「噂以上のバケモノですねえ」


 ミラが呻くように呟く。

 自身の魔物を操る能力も大概だが、屍姫のそれは明らかに狂った性能をしている。


 自然の摂理を覆す異端の魔法。

 死者を自らの手駒として使役する力は、精神に干渉して一時的な支配を行うミラとは根本から異なっている。

 そして、自分とは違い――。


「ふ、増えすぎですようっ!」


 不死の軍勢に限界はない。

 一度使役すれば、以降は自らの駒として魔力の消耗なく従えられる。

 高度な指示を行うには魔力を必要とするが、それでも屍姫からすれば微々たるものだ。


「まだ、戦力の半分も見せていませんが?」


 事実として、屍姫には余裕があった。

 使役するアンデッドの総数は、今呼び出している量を遥かに上回る。

 主要な駒も大半は温存しているくらいだ。


 そんな挑発を受けて、ミラはようやく意識を切り替える。

 本気でやらなければ危ない相手だ。


「まあ、構わねーですよ。むしろ数が多いほど都合がいいですし」


 ミラは口から煙を吐き出して、短くなった煙草をぺっと吐き捨てる。

 これだけ吸えば脳も活性化していることだろう。

 などと不健全な嗜好を正当化して、「うぁー」と声を漏らしながら首をパキパキと鳴らす。


 自らの本領を発揮する時だ。

 なぜ自分が、カフカからこの役を任されたのか。


「魔物はみんな、私の言うことを聞くんですから」


 対象は、この場に呼び出されたアンデッド全て。

 支配権を奪い取り、孤立した屍姫を包囲するのだ――そう考えていると、


「ふふっ――」


 屍姫が愉快そうに声を漏らす。

 そうして目を見開くと同時に――。


「ッ――ぅあ!?」


 ミラの魔法が全て強引に打ち破られる。

 アンデッドに付与されている不死の力――屍姫の反魔力によって抵抗されたらしい。


 大規模な魔法の行使を阻止されてしまった。

 その反動リバウンドを受けて、ミラは意識が飛びそうになるほどの激痛に苛まれる。


「貴女には、支配者としての格が足りないようですね」


 屍姫は知っていた。

 目の前の無法魔女アウトローは自らの敵になり得ないと。

 対峙してみて、自分が圧倒的な優位にあることを感じ取っていたのだ。


 ミラは辛うじて意識を繋ぎ止めたが、未だ視界がチカチカとしている。

 ここまで容易に阻止されてしまうことは想定外だった。


「え、えっと……ちょっと失礼しますよ」


 わたわたと懐からPCMAを取り出し、魔力の測定を試みる。

 交戦中に行うようなことではないはずだが、屍姫は笑みを浮かべてそれを受け入れた。


『保有魔力測定中――』


 数値は凄まじい速度で上昇していく。

 咎人級、愚者級、大罪級……数値は勢い画衰えることなく増え続け、


『測定完了。PCM――841』

「なっ……」


 嫌な予感が当たっていた、と。

 ミラは驚きのあまりPCMAを落としてしまう。


 その数値は、僅かではあるが災害等級の境界を超えている。

 事前に受け取っていた情報とは違う。

 目の前の無法魔女アウトローは紛うことなき"戦慄級"だった。


「死を受け入れる準備は済みましたか?」


 魔力を立ち昇らせ、屍姫が問う。


 この無法魔女アウトローは使役すれば有用な駒になりそうだ。

 そんな冷酷な評価を下し、再利用可能な状態での死を与えようと考えていた。


 魔物とアンデッドが衝突を続け、双方が数を減らしていく。

 だが、その度に屍姫が能力を使って魔物をアンデッドとして蘇らせていく。


 その光景は、ミラにとって絶望でしかない。

 事前に用意していた魔物は凶悪なものばかりだった。

 大罪級の魔女を仕留めるためとはいえ、たった一人に対して過剰すぎると考えていたくらいだ。


 事実として、ミラは同じ状況に立たされたら切り抜けられない。

 自らを殺せるほどの戦力をディーナから貰い受けたはずだ。


「あ、これダメそうですねえ……」


 全てを吸収していく不死の軍勢を前に、ただ呆然と立ち尽くすほかなかった。

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