336話
ロウの動作には一切の迷いがない。
最優先で排除すべき対象。
この街を被害を抑えるためには、この脅威を退けなければならない。
撃ち出されたエネルギー弾は正確に急所を狙うが、
「おっと、いい武器持ってますねえ」
気怠げな声と共に巨大な鎚が振るわれ、防がれてしまう。
続けて射撃を行うも同様に終わった。
このやり取りで優位を確信したのだろう。
ミラは好戦的な笑みを浮かべる。
「狙いは悪くねーですけど、魔女相手にそれだけじゃ勝てないですって」
「試してみなければ分かるまい」
銃を構えたまま警戒を続ける。
大罪級の魔女であるということは、それだけ多くエーテルによる影響を受けた体を持っているということだ。
魔法を抜きにしても馬鹿げた生き物であることは間違いない。
その上、特級の対魔武器を所有している。
易々と首は取らせてもらえない。
「ハスカッ――」
声を上げると同時、周囲の敵を片付け終えたハスカが駆け付ける。
当然、彼女も新たな対魔武器を手にして。
「――壱式"クレハガリ"、起動します」
魔力を込めて展開。
手元の筒が伸長して、身の丈よりもさらに五十センチほど長くなった。
長柄の先端には、紅く光を帯びる巨大な刀身――薙刀だ。
唸るような生命を感じさせる魔力を、自らの心臓とリンクさせて制御する。
ハスカが手にしている武器。
それを見て、ミラは思わず驚愕の声を上げる。
「それってTWLMですよねえ!? それはちょっとズルすぎじゃないですかね」
携行型-体組織変異兵器――通称TWLM。
つい最近になって実戦配備が始まったばかりの、新時代の対魔武器だ。
生身の人間が魔女や魔物相手に戦えるようになる武器。
体内に埋め込んだコアとリンクさせることで、人間でも魔力を操ることが可能になるというが、
「これは、中々に……っ」
ハスカが苦悶の表情と共に息を吐き出す。
自らの心臓をコアの代替としてリンクさせている。
他者の魔力が体内を蠢く感覚は、それを扱う当人にしか分かり得ない。
特級対魔武器とは性質が違うため、一概に優劣を語ることはできない。
だが、人間よりエーテルとの親和性に秀でた魔女が使うとなれば、本来の性能以上の力を期待できる。
コアによる制御を行わない。
これはメリットデメリットの両方を併せ持っている。
だが、それによってラプラスシステムによる承認を介さず起動することが可能となる。
魔女だけに限定されるが、このようにTWLMを悪用できてしまう。
ハスカは"クレハガリ"の穂先をミラに向ける。
だが、彼女の傍らには黒鬼たちは控えていない。
「へえ、賢いですねえ」
魔物を操る能力――それがミラの魔法だ。
僅かだが、支配権を奪われてしまう程度にはPCMに差がある。
そのため、ハスカは黒鬼たちを他所の対処に向かわせたのだ。
TWLMという新たな武器を手に、ミラとの一騎打ちを望んだ。
「でも、一人で対処できるんです?」
ミラが特級対魔武器――『冥帝』を担いで笑みを浮かべる。
どうやら一騎打ちに乗り気のようだ。
懐から煙草ケースを取り出して蓋を開ける。
新品のため中には二十本がそのまま入っていたが、ミラはケースを逆さまにして全てを口元に滑らせる。
そしてライターを取り出して、その全てに火を付けた。
「あぁ~、やっぱ堪らねーですねえ」
恍惚と煙を吐き出す。
健康意識など微塵も感じられない姿に、ハスカは呆れたように嘆息する。
その背後では、ロウが何かに気付いた様子でミラを見つめる。
「ハスカ」
「はい」
「アレを仕留めれば、クロガネ様への良い手土産になるぞ」
士気を鼓舞させるための言葉ではない。
嘘偽り無く、ミラという標的には大きな価値がある。
「――承知ッ」
詳細までは理解できなかったが、ロウの期待は伝わったらしい。
TWLMを手に、ハスカが全速力で駆け出す。
「まあでもコスパはこっちのがいいですからね――っと!」
迎え撃つように『冥帝』を振り下ろす。
力任せの一撃も、生じる衝撃波によって強引ながらも戦術となる。
ただ乱雑に振り回せばいい。
それだけで、周囲の全てを破壊し尽くす。
理不尽で暴力的な兵器だが、
「疾風迅雷――」
衝撃波を穿ち貫く紅い魔力。
一点特化して突き進むことで、ハスカは速度を落とすことなく接近する。
意図に気付いたミラが慌てて迎え撃とうとする。
だが、振り下ろした『冥帝』を引き戻す猶予は無い。
「えぁっ――」
そのまま強烈な一撃を抉り込まれ、情けない声と共に吹っ飛んで行く。
手応えは鈍い。
かなり高性能なESSアーマーを服の内側に隠していたようだった。
衝撃までは殺しきれないが、直接的なダメージは与えられていないだろう。
そのまま派手に転がっていったため距離が開くが、ハスカは即座に次の一撃を準備する。
「いてて……やめてくださいよー、もー」
ミラが転がっている途中で体勢を立て直す。
不服そうな顔をしながら、再び『冥帝』を担ぎ直す。
大きく深呼吸――もとい、タバコの煙で体内を満たして、荒く吐き出す。
目立った外傷は無い。
この威力に耐えられるESSアーマーというだけでもトリリアム教会の本気度合いが窺える。
敵は対クロガネを想定して最大限の武装を用意している。
特級の対魔武器も同様だ。
この場では過剰とも思える武器も、戦慄級の魔女を相手取るとなれば自然に思えた。
「……なぜ、そうまでして我々と敵対する」
ロウが問いかける。
もし彼が同じ立場にいたなら、きっとカラミティと友好関係を築くことを選んだはずだ。
今の情勢を鑑みれば、それ以外の答えには辿り着きようがない。
そんな理性的な疑問に対して、ミラは笑みを返す。
「あー、なんでなんでしょうねえ?」
そのやり取りを嫌うように。
雑にはぐらかした後は、それ以上の追求を拒むように武器を構える。




