335話
「いたぞ、一人も逃がすなッ――」
路地裏に殺気立った声が響き、直後に無数の銃声が鳴り始める。
ゾーリア商業区北西部で最初の戦闘が始まった。
潜伏していたのはトリリアム教会の構成員と、その周囲に雇われの殺し屋が複数。
ロウが奇襲を仕掛けるが敵の対応も早い。
接近に勘付かれてしまったのか即座に身を物陰に隠す。
さらに設置型のESSシールドを複数展開して遮蔽物を作り、銃撃戦が可能な状況に持ち込んだ。
「構わん、ありったけの銃弾を浴びせてやれ!」
襲撃者に手加減は不要だ。
わざわざ相手の作戦に付き合ってやらずとも、こちらには潤沢な物資がある。
シマの中で戦闘を行う以上、補給に困ることはない。
一発も撃たせるつもりはないと言わんばかりに銃弾の嵐が襲い掛かる。
弾丸を浴びる度にESSシールドが激しく明滅を繰り返しているが、
「資金は潤沢なようだな……ッ」
忌々しそうに吐き、即座に武器を持ち替える。
相手もかなり高価なESS装置を用意していたらしい。
生半可な威力では破れそうにないが、
「上級-銃型対魔武器『篝火』起動――ッ」
こちら側にも高性能な対魔武器を得るツテはある。
それがまさか、悪党を取り締まるはずの魔法省からの横領品だとは誰も思い付かないだろう。
大口径の拳銃――その銃身は魔力を帯びて、赤熱化しているかのような変質を見せる。
グリップ部分に内蔵されているコアからエーテル供給を受け、エネルギー弾を射出する単純な仕組みだ。
単純だが、だからこそ上級クラスの魔力が凶悪さを発揮できる。
殺傷力のみを求めた煌学兵器。
その威力は語るまでもない。
狙いを定め――トリガーを引く。
同時にESSシールドが激しい音を立てて消滅した。
遮蔽物を失った敵が撤退を選ぶと同時に、
「続けぇッ!」
好機を見て駆け出す。
牽制程度の銃弾は、こちらも携帯型のESSシールドを展開することで対処できる。
攻め時を逃すわけにはいかない。
「目標は中央区方面に移動している。回り込んで道を塞げッ――」
通信機で周囲に待機させている各班に伝達する。
狭く入り組んだ路地を突き進んでいるが、地の利は圧倒的にこちら側に属している。
ゾーリア商業区はカラミティの縄張りだ。
上空に配置した監視ドローンが敵の動きを筒抜けにしている。
敵の対応は一応は最適解ではある。
それでもこちらの優位は揺るがない。
挟み撃ちにしてしまえば、あの人数では対処しきれない。
各班が道を塞ぐが、敵側の機動力もかなりのものだった。
生身の人間にしては身体能力が高いように見える。
挟撃を既の所で回避しつつ、上手く中央区に向かっているようだ。
「クソッ……奴ら、ヤクでも打ってるのか?」
例えばマギブースターのような魔女の力を高める薬剤。
これを人間に使用した場合、一時的に煌学生物のようにエーテルによる恩恵を受けられるという。
当然、それは微々たるものではあるし、副作用によって身体は致命的なまでにボロボロになってしまう。
一度の使用だけでその後の人生を捨てるようなものだ。
正規の構成員はともかく、雇われの殺し屋が使うような代物ではない。
弱みを握られて脅されているのか……などと考えつつ敵を追う。
中央区には敵の本命――カフカが現れる可能性が高い。
合流して対処しようという魂胆なのだろう。
当然、その対処をするためにマクガレーノが待機している。
乱戦になると面倒だ。
それを狙っての行動だと思われるが、当然、敵の思い通りにさせるつもりはない。
そう、この班はあくまで追い立てる"猟犬"でしかない。
銃撃戦だけで対処できれば簡単だったが、本来の予定こそ、
「我らが首領のお膝元で――」
しゃらん、と鈴の音が鳴る。
敵を挟んで反対側――通路を塞ぐように少女が降り立つ。
艶やかなセミロングの黒髪を揺らして、紅い瞳を妖しく光らせている。
その手には魔力が灯って、暗い路地裏を淡く照らしていた。
「――そのようなおいたは許されませんよ、お客人」
巫女装束の魔女――ハスカが手を翳し上げる。
手首に着けた鈴を再びしゃらんと鳴らして、
「黒鬼たち、行きなさいッ」
凛とした声が響く。
そして、彼女の背後から黒い巨大な影が二つ現れた。
頑強な肉体を持つ大罪級の魔物――黒鬼。
銃弾の効かない硬質な表皮と、コンクリートを容易く粉砕する腕力。
そんな化け物を従えているハスカ自身も、近接格闘に特化した大罪級の魔女だ。
数と質――その両方を兼ね備えた無法魔女。
以前、ゾーリア商業区の不可侵を守っていた要員の一つでもある。
「やはり魔女、か」
ロウが僅かな嫉妬心を込めて呟く。
この世界は力が全てだ。
彼から見て手間になりそうな殺し屋の集団も、哀れに思ってしまうほどあっさりと蹂躙されてしまう。
主従は逆だが、これでいい。
カラミティ幹部の一人としては、組織の利益に繋がればそれで構わない。
それでも自らの活躍に期待してしまうのは、彼もまた野心深い悪党だからだろうか。
単身で成果を上げ続ける屍姫や、多彩な才能を発揮するマクガレーノに負けてはいられない。
武闘派を自称しているだけあって抗争時の活躍には自信がある。
「……より凶悪な対魔武器を用意できないか相談してみるか」
カラギの事を思い出しつつ、戦場に意識を向け――。
「――ッ!」
その人物を視認すると同時に、即座に『篝火』の銃口を標的に合わせる。
File:上級-銃型対魔武器『篝火』
魔法省から横流しされた対魔武器の一つ。
大罪級『篝火』という魔物を素材として作られている。
弾数制限はないが連続した使用には不向きで、使用後はある程度のチャージ時間を要する。




