10話
ナニカによって、姿を変えられてゆくゴブリン達、魔法で応戦するも、反撃の手立てのないレイジ達、いったいどうなってしまうのか。
「おーっほっほっほ。 サルの分際でなかなかやりますねぇ。 一応、聞いておきましょう…。 どうです、わたしの下で働いて見る気はありませんか?」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで、かかってこいっ!!(ダメだ、勝手に口が動く。てか質問に答えてないぞ。)」
「いいでしょう…! それほどまでに意地を張るのでしたら、全宇宙一であるこのフ…」
ナニカが名乗ろうとした瞬間、こつぜんと姿が消えた。
油断なく周囲を見渡すが、ナニカの気配がない。(いってぇ、どうなって…るんだ?)
《ナニカの気配が、この世界からなくなりました。 瘴気の浄化を始めます。》コアの機械的な声が頭に響く。
集落の中に漂っていた瘴気が薄まってゆくにつれ、伸びた触角が角へと戻ってゆく。(落ちた髪の毛は戻らないのか。)
『レイジ、何が起きたんだ?』、リーガはレイジに尋ねるが、レイジもまだ事態の変化に追いついていない。
「…俺にも分からない。」コアも浄化に忙しいのか反応がない、ゴブリン達も次第に困惑してざわつき始める。
やっほぅーっ♪ ボクの子ども達、元気かーいっ?
がくっと気の抜ける声が、頭上から聞こえてくる。
天が割れ、久しぶりの日差しを背に、綺麗な顔をした幼い少年がにこやかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと降りてきた。
『ぎぃ!!(神々しい!!)』『『『ぎぎっ(おおーっ)』』』
『カミサマ?』
『レイジっ!、あれは神様かもしれない。 頭を下げろ、直接見てはいけないんだ。 古の時代、世界が崩壊の危機に瀕したときも神様が降りてきて世界を救ってくれたんだ。 俺らのジー様のジー様のそのままずうっと前のジー様からの教えだ。 あの話は本当だったんだ!!』
リーガは緊張の糸が切れた反動で、テンションが高くなった。
リーガやゴブリン達がひれ伏してゆくなか、レイジはただ呆然と見とれていた。
『レイジ、頭を下げるんだっ!』リーガが、レイジの手を下に引っ張り座らせようとする。
「はっ! わりぃ、リアルに神様っぽい神様を初めて見たからさ。(汚部屋の女神は認めない。)」そう言いながら、腰を落として片膝をついた。(念のため、すぐ動けるようにしとかないとな。)
あー、大丈夫だよ、そういうのいらない。 気楽にしていいからさ♪
いやー、しっかし、危なかったねー。 ボクにも予想がつかなかったよ。
まさかボクまで引っ張りだすとはねー♪ ははっ、予想外だ♪
「えーと、神様? 失礼ですが、いったい何が起きたのですか? 先ほどの白い魔物は何だったのですか? 世界は大丈夫なんですか? そして、あなたはいったい…?」、気楽に、と言われたのでレイジはまとめて質問することにした。リーガを見るとレイジを睨んでいる。 他のゴブリン達もレイジの態度に驚いているが、レイジは見なかったことにした。
ん?、キミはストリアスの…、ああ、転生システムでルーサレスの管理になったのか。
(『カクシカ』の魔法である程度の事情を知ってるようだね。 それなら今から話すことも理解できるだろう。)
よしっ、いいよ、質問に答えよう。 あー、ゴブリン君達にも分かるように『アンダスト・アップ』これで制限事項を除いて伝わるはずさ。
まず、さっきの白い魔物だけど、アレは異世界の魂だよ。
異世界でイレギュラーが起こったときに、あの魂に力が集中したみたいで、管理者が気づいたときには手に負えなくなっていたんだ。
それで、そういう魂は、最終的にボクのところに転送されて強制浄化を受けることになっていたんだけど、偶然、キミ達の世界に入り込んでしまったみたいなんだ。
通常、世界に入り込んでしまった魂についてはボクの管轄外で、管理者…あぁ、ルーサレスの管理下に置かれるから、よほどのことがない限り、ボクも分からないんだよ。
(待ってても全然送られてこないから変だなぁと思ってた、あは♪)
そして、今回はよほどのことが起きたんだ。
あと少し気づくのが遅かったら、[ ワールド・パラドクス ]が起こってボクの世界が崩壊するところだったよ。
アレは強すぎた、無意識だったけど、アレは世界を自分が知っている世界に変えようとしていたんだ。
もしも、あのまま世界に干渉され続けてしまうと、この世界に願いが叶う丸い玉が出現したり、黒髪の剛毛逆立ち戦闘民族が強者を求めてさ迷う世界になっていたかもしれない。
今後、アレのことは名前で言ってはいけないあの人…おや、これもダメだ。
うーん、とにかく色んな意味で危険すぎるイレギュラーだった。
これからも、なるべく話題にも出さないほうが良いだろう。
あ、今はボクがアレの魂を預かっているよ。浄化するにも勝手にはできないんだ。
次に、世界についてだけど、コアの浄化も終わったし、世界の網も今後こういうイレギュラーは困るからボクが代わりに補修しておいた。
この世界はね、ルーサレスがすぐサボっちゃうから、イレギュラーが起こりやすいんだ。 困ったことだね。
レイジは思った。(そこはきちんと指導してよ…、てかルーサレスってどうやって管理者になったんだよ?)
あー、その疑問には答えられないかな。指導は…ストリアスにしてもらうよ。
「あ、心の声まで拾うんすね。(ストリアスってさっきから出てくるけど、別の管理者か?)」
そりゃ、ボクも神様だからね♪
-ゴオン 遠くで何かがぶつかった音がする。
-今のは痛かった…痛かったぞぉーっ!!!!……なんだ貴様ら……おいっ、はなせーっ!!!……
神を名乗る少年の声に混線するように、さっきのナニカが遠くでわめく声が聞こえた。
あちゃ、転送する場所を間違えちゃった。あは♪
ごめん、用事ができたからもう行くね。
わかってると思うけど、アレは無かったことにしてね。
では、また会おうっ♪ ボクの子ども達よっ♪
少年は、爽やかに言い残して消えた。 おそらく転移の魔法を使ったのだろう。
「とりあえず…、無事ってことでいいかな。」
『そうだな、レイジ、お前のおかげで誰も死ななかった。ありがとう。』
「本当に絶望しかなかった。 お礼を言われることはしていない。」
『いや、あの魔物の光線から皆が無事だったのはレイジが囮になってくれたおかげだ。』
『ソウダ、キャクジン。 オレノアシモ、ナオシテクレタ。 タスカッタ、アリガトウ。』ギーゲルトの言葉を皮切りに、ゴブリン達も口々にお礼を言った。(首長以外は、ぎぃぎぃとしか聞こえないけど、気持ちは伝わった。)
「そうか、じゃ、素直に受け取っておくよ。 リーガ、他にケガしていない奴がいないか聞いてくれ。」
わかったと『ぎぎぃぎぃ…!(ケガした奴、いたらレイジが治療してくれるぞ!)』リーガはゴブリン達に伝えた。
特に大したケガもなかったらしく、ギーゲルトがレイジに話しかけてきた。
『アラタメテ、レイジヲイウ。 オレハ、ココヲ、マトメテイル、ギーゲルト、ダ。 キャクジンヨ、キイテクレ…』ギーゲルトは、白い魔物が来たときから今までの経緯を話し始めた。
(つまりは、すっごい奇跡の勘違いだったんだな。 下手したら俺たちがたどり着く前に全滅してたかもしれないな。 だてに戦闘力が53…うっ、頭が。)
『……トイウワケデ、ウタゲニ、サンカシテホシイ』(やっべ、途中から聞いてなかった。)
『ジー様達には【同族同調】で無事を知らせた。 せっかく始めた宴が俺たちだけだと寂しい。 俺からも頼む、レイジ、参加してくれないか?』(あ、理解した。 宴好きのゴブリン達からしたら、宴の建前がなくなって困ってるんだな。)
「ああっ! 人族は俺だけだけど、楽しませてもらうぜっ!」
『『『『『『『ぎーっ♪(ミュージック、スタートだー!!)』』』』』』』
レイジの言葉を合図に、アップテンポな音楽が流れ始め、ゴブリン達は輪になって踊り出した。
レイジもリーガと手をつないで、楽しく踊る。
音に誘われて、つやつやしたギラブ達が墓場から戻ってきた。
宴をここで始めた経緯を聞いて安心したらしく、輪のそばの暗がりで違うダンスを踊り出した。
南の熱い国から発祥し、音楽に合わせて男女がペアでべったりと密着しながら、腰をくねくね動かし、時に片足を相手のお股の間に入れてお互いを刺激するように腰をすり寄せている、極めてエロチックなダンスっ!!
レイジは横目でリーガをちらっと見ると、顔を真っ赤にしながらも、二人のダンスに目を奪われている。(こらっ、見てはいけませんよ。)思っても言えない心の距離感。
(あの二人、今までどこにいたんだろ?)
レイジの素朴な疑問と、リーガの思春期特有の悶々とした思いを優しく包みながら、宴の時間は過ぎてゆく。
だいぶ夜も更け、レイジは近くの石に座って休憩をしている。
リーガは疲れたのだろう、レイジの膝を枕にすやすやと寝息を立てている。(こうやって無防備な姿さらして寝てる顔を見るとまだまだ幼いよな。)
レイジは数時間前にやらかしたリーガとのやりとりを思い出していた。
『お父さん…』リーガの口からこぼれた言葉。(やっぱり死んで会いたいと想うほど寂しいのかな。)
さらに、『もう!足が臭いんだからちゃんと洗ってよ…』(えぇ、お父さんドンマイ。)
---そのとき、不思議なことが起こった---
《主のスキルが発動しました。》
(はぁ?、今か? 今度はなんだよ。 どうせ大したことないんだろ?)
《夢の中で、ですがリーガが両親の魂と逢えるようになりました。 ちなみに、リーガの両親は既に転生して記憶を封印されてますので、実際に出逢えたとしてもお互いに分からないでしょう。 あ、夢の中では両親の魂は記憶を解放されていますのでリーガと話せて喜んでいるようですよ。》
(すんませんっしたあぁっ!!!!)心の中でレイジは素直に土下座した。
(めっちゃ良い仕事したな、【プチご都合主義】さん、尊敬します。)
《どうせ大したスキルじゃないがな、という気持ちが伝わってきました。》
(えええぇ~! スキルって自我あんのぉっ?)
《なめんな、だそうです。 まあ、このスキルは特に気まぐれなので自己主張することがあります。》
(ルーサレスの奴、とんでもないスキルをくれたんだな。)
《……………、まあ、そうですね。》
(なんか、たまーに歯に物が詰まったような返しするよね。)
《そんなことはないと思います。》きっぱり答えるコアだが、実は図星だった。
《(いつか主に制限なく話せる日が来るのでしょうか、そのとき主はどうするのか…。)》
その後、休憩しているところを酔っ払ったギーゲルトに見つかり、絡まれた。
(シリアス出来ない病にでもかかってんのかっ!?)
まだまだ宴は続いてゆく。




