夢
とある弱い男の話。
「こんばんは」
「こんばんは」
「今日も来たよ」
「今日も来たの」
「君は何をしていたの?」
「何もしてないよ」
「僕も何もしてないよ」
「暇そうね」
「そうだね、暇なんだ。
毎日が退屈で退屈で仕方ない。
笑っちゃうくらいに退屈なんだ」
「そう」
「君はずっとここに居るんだろう?
退屈で苦しくならないのかい」
「忘れちゃったわ」
「そうか。忘れたのか」
「ええ。忘れたわ」
「だけど僕は今日は
目的があるんだ」
「暇人に目的なんて驚きだわ」
「君ならきっと、
知っているだろうって、
何故だか僕にも
皆目見当も付かないけど
君ならきっと僕の知りたい事を
教えてくれるだろうって、
思ったんだ」
「浅はかなのね。
私は神様じゃないのよ」
「知っているよ。
君も僕も無神論者だとね」
「それなら良いの」
「それで、
君に聞きたい事がいくつか
あるんだけれども、良いかな」
「言ってみて」
「ええと、一つじゃないんだ。
君にとってはたくさんかもしれないし、
ほんの少しかもしれないけれど・・・」
「良いから話しなさいよ。
ウジウジ気持ち悪いわね」
「どうして君はここに居るの?」
「貴方が望んだから」
「いつから君はここに居るの?」
「貴方が望んだあの日から」
「あの日って何?」
「貴方は忘れたままで良い」
「どうして僕は忘れたままで良いの?」
「それが貴方のためだから」
「君は寂しくないの?」
「寂しくないわ、
いいえ、違うわね。
少しだけ、寂しいわ。
でも寂しくないわ。
今も貴方の隣に居られるのですもの」
「僕は君を知らないはずなのに、
どうして僕は君に
毎晩会いに行くんだろう」
「貴方がそれを望んだから」
「僕は君を知らないはずなのに、
君は
一体どうして僕の事を知っているの」
「私がそれを望んだから」
「僕は君を知っている?」
「貴方が知っているなら知っている。
貴方が知らないのなら
きっと知らないわ」
「僕はどうして君と話すと
悲しくて堪らなくなるんだろう」
「貴方の事が私に分かるはずないわ」
「僕はどうして君をどうしようも無く
愛しく感じるんだろう」
「貴方の事が私に分かるはずないわ」
「君はどうしていつも
泣きながら笑っているの」
「私の事だけど、私にも分からないわ」
「これは『夢』だと知っているけど、
これは本当に夢なの?」
「貴方が夢だと思うなら夢、
貴方が現実だと思うならきっと現実だわ」
「じゃあ夢だ。
こんな幸せで哀し過ぎる現実なんて、
あるはずが無いもの」
「そうよ」
「僕はこうして毎日夢で
君と会っているけど、
目が覚めたらいつも忘れてしまうんだ。
忘れたくないんだ。
憶えていたいんだ。
僕はどうしたら良いの?」
「貴方は忘れたままで良い」
「それが僕のため?」
「そうよ」
「君は優しいんだね。
僕のためと、自分を殺して。
いや、君は昔から優しかった。
それに僕は気付けなかったのだ。
あれ、おかしいな。
君を知らない僕が、
なぜ君を『昔から』
知っているんだろう?」
「貴方の事が私に分かるはずないわ。
貴方は忘れたままで良いの」
「僕はきっと何かを忘れているんだ。
でも『何か』を思い出す事によって
僕の隣に君が居なくなってしまうなら
僕は忘れたままで良い」
「ありがとう」
「本当はね、
憶えてるんだよ。
ぜんぶ憶えてる。
君が側に居る事を僕が望んだのも
君がどうして僕を愛してくれるのかも
君がどうして白い服を着ているのかも
君が一体誰なのかも、ぜんぶぜんぶ」
「でも僕は弱いんだ。
ごめんね、弱いんだ。
僕はあまりに弱くて、
君を憶え続ける事が出来ないんだ。
君を忘れなくては
僕は生きる事さえ
儘ならない」
「それで良いの。
貴方なんかに憶えてもらえなくても良いわ。
だってあなたは弱いもの。
簡単に壊れてしまうもの」
「その度に君を泣かせてしまう」
「それは私が望んだ事よ」
「そろそろ時間だ」
「そろそろ時間ね」
「今日は僕の聞きたい事に
答えてくれてありがとう」
「あなたがそれを望んだから」
「そう。僕がそれを望んだんだ」
「じゃあ『さよなら』しましょうか」
「その言葉は嫌いなんだ。
『またね』にしよう」
「そう。それじゃあ、『また』」
「あぁ。『また』」
「・・・夢、何だっけ。
思い出せないな」
忘れなきゃ、前に進めないんです。
それでも、もう一度だけ、会いたいと思うのは罪でしょうか。
あの頃のように触れて、話したいと思うのは、罪でしょうか。
夢の中でくらい、もう二度と会えないくらい遠くにいってしまった人に会うには、
罰が当たらないでしょう。
私はそう思います。




