「犯人はあなたです」
最高に狂ったとある『役者』の話。
「犯人はあなたです」
僕の声が、こだまするように部屋に響いた。
一気に静まり返る部屋。
息を飲む人々。
そうーーー僕は探偵。
先日、
僕の事務所に一件の連絡があった。
差出人は、この地域で有名な資産家。
何でもその資産家の主人が命を狙われているとかで、
僕は依頼を受けた秋山家へ赴いた。
そしてーーー
ーーーーーーーーーーー事件は起こった。
依頼主は殺された。
遺体の状況をみて、他殺で間違いない。
僕は捜査を重ね、推理した結果
資産家の主人を殺した人物にようやく辿り着いた。
そしてーーーーー
大広間に関係者を集め、
僕は推理を披露した。
容疑者も今この場に居るのも
同じ七人。
七人は、僕を含めた数字だ。
まず、殺された資産家、秋山氏の夫人。
そして三人の息子。
彼らは豪華な装飾が施された
「いかにも高級品です」
という風なソファに座っている。
次に、壁際に立っている男はこの屋敷の使用人。
次にーーーーーーー
・・・・・・・・・・・・・・・・。
誰、だっけ。
グランドピアノの側に一人の少女が立っている。
彼女も、
この事件の関係者だった。
しかし、彼女についてそれ以外が
『なぜか』思い出せない
・・・・・・まぁ良いや。
以上が、
この秋山氏殺人事件の容疑者7名である。
おっと、
彼らがどのような人物であるかの説明を
忘れていた。
いやはや、僕としたことが。
『読者』への配慮を欠くとは。
エンターテイナーとして失格だ。
さて、冒頭の僕の台詞をより分かりやすくする為にも、
彼らの人物紹介をしたいと思う。
まず、資産家・秋山信一氏の妻、秋山美恵子。
年齢は40代。
すぐブランドものだと分かるが品の良い装いで、
凛とした上品な印象を受ける。
その性格は控えめであるが気丈で、
正に「貴婦人」というべきか。
次に、彼女と秋山氏の長男、秋山総一郎。
年齢は20代後半。
秋山グループの幹部で
根っからのエリート気質が見受けられる。
彼の癖なのか、
しきりに眼鏡をクイ、と上げる仕草をする。
それがさらに彼の真面目さや神経質さを強調している。
つぎは次男の秋山総二郎。
年齢は20代前半で、去年に大学を卒業したばかり。
次男は長男と違い、茶髪にピアス、定職に就かず
家の事業にもやる気無し、といった不真面目で
いい加減な性格らしい。
長男とは性格が正反対で
幼い頃から長男と比較され育ったため
性格はひねくれており、
長男もそんな次男を疎ましく思っていて
二人の仲はあまりよくない。
兄弟の末っ子、秋山英三郎。
彼はまだ10代で、高校生である。
彼は礼儀正しく協調性もあり、
上二人の兄達とも仲が良い。
壁際に立っている男性は
この屋敷に仕える使用人だという。
残るは僕とグランドピアノの側に立つ少女だが、
僕の紹介はもう済ませてしまっているので
割愛させて頂く。
少女は、確かに関係者である筈なのに、
名前すら思い出せない。
年齢は、10代後半、といったところだろうか。
そんな所で、全員の紹介は済ませたな。
そして現在、
僕は容疑者全員大広間へ集め、推理を披露した。
そしてー僕はその人物を指さし、こう告げた。
「犯人はあなたです」
僕が指さした先に居たのはーーーーーーーー
ーーー秋山氏の妻だった。
彼女は、酷く狼狽した様子だった。
「そんな・・・あり得ません」
彼女が震える声で告げる。
しかしこちらには、
「裏付け」があるんだ。
「奥さん。
あなたは、過去に不実を犯しましたね」
秋山美恵子氏は、過去に不実を犯している。
彼女は、否定も肯定もせず
ただ俯いている。
「馬鹿げた事を言うな!」
長男が声を荒げる。
その心情は解るが、真実は時に非情だ。
「奥さん。どうなんですか」
「・・・・・・・・・はい」
「そんな・・・母さん・・・」
「しかし貴女は、
好きで夫を裏切ったわけではなかった」
秋山氏を殺害したのは
妻の秋山美恵子氏だった。
かつて秋山氏の部下であった男が手柄を上げ、
その褒美として秋山氏は
自分の妻を部下にあてがった。
たった一度の関係。
しかし、彼女はその部下の子供を
妊娠してしまったのだ。
悩んだ挙げ句、彼女は
子供を出産する事にした。
そしてその子供が、
三男の英三郎だった。
時期を見て打ち明ける筈が、
秋山氏にその事が露見してしまい、
激昂した秋山氏を殺害。
秋山美恵子氏は、全ての罪を認めた。
息子達は、
これからどうするのか、
どうなるのか分からない。
それは本人達で決める事だ。
僕は得意げに、鼻を鳴らした。
ふふん、と。
真実はいつも一つなのだ。
僕の推理はいつも正しい。
「いいえ、それは違うわ」
凛とした声が、響いた。
声の主は、
グランドピアノの側に立つ少女だった。
「何が違うって言うんだ」
僕は憤った。
何が違うのか。
「あなたは探偵なんかじゃない」
気が付くと、
大広間には僕と少女以外の姿はなくなっていた。
「もう気付いてるんでしょう」
「やめろ」
「もう舞台は終わったのよ」
「まだ舞台は終わってないよ」
「何度でも言うわ。
犯人は、あなたです」
「秋山さん」
『僕』は、目を醒ました。
見慣れた真っ白な部屋。
鉄格子の付いた窓。
咽せ返る薬品の匂い。
「秋山さん。気分はどうですか」
聞き慣れた看護婦の言葉には答えない。
あぁ、またあの微睡みがやって来た。
あの心地よい微睡みが。
僕はまた、舞台へ上がる。
あの少女は毎回、
僕の素晴らしい舞台の邪魔をする。
僕はあの少女を知らない。
まったく。
何者であれ、
僕の舞台を邪魔をする奴は許さない。
今度は何になろう。
探偵は飽きた。
学生かな。
サラリーマンかな。
何なら勇者にでもなれる。
僕は誇り高きエンターテイナー。
千秋楽は来ない。永遠に。
僕は気狂い役者。
僕は抗う事無く、
その微睡みに身を任せた。




