アイドル記者⑥
寺門院長への取材を終えて、カケルとミコトは近くの公園で休息を取っていた。学校終わりの小学生たちがボール遊びに興じている。
なぜか、その中にはミコトの姿もあった。
カケルはため息をつきながら、今日の取材を振り返る。
寺門院長は実直な人物だった。だからこそ、きらりが彼の医院を狙ってるという仮説が疑わしくなった。
きらりが医薬品企業を倒産に追い込んでいた理由は、また別の狙いがあるのだろうか。 個人的な理由?
きらりの動画を見た時の寺門の不穏な表情が気にはなるが、知り合いを見つけたというようには見えなかった。
「ぶふ!」
突然、頭の側面に衝撃が走った。小学生のうち一人がとことことこちらに駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん、ごめんね、大丈夫?」
「別に気にしなくていいよ」
「いや、お前がいうな」
少年の背後から勝手に答えたミコトに文句を言いながら、カケルは少年にボールを返す。
「お前なあ……もう少しちゃんと仕事しろって」
ミコトが心外そうな顔になる。
「私だってちゃんとやってたよ」
「聞き取りも全部俺がやっただろ」
「はあ、これだからカケルは」
ミコトがあきれ顔で携帯電話を取り出す。
「カケルが話を聞いてる間に、携帯で調べてたら、こんなもの見つけたよ」
画面に、一件の記事が表示されていた。
見出しには、『地域住人に寄り添った診療を 寺門医院 寺門祐樹院長』とある
「お前、いつのまにこんなもの」
「ふふん」
何か負けたような気持ちになりながら、カケルは記事に目を通す。
「〇〇町にある寺門院長は、外科、内科、眼科、皮膚科など幅広く対応し、地域住民の健康を総合的に守り続けている。救急にも対応しており、夜間でも病院に駆けつけているという」
寺門の地域医療への貢献に関する事柄が書かれている。
「めちゃめちゃいい人だよね。カケルの取材した印象とはどう?」
カケルは思い返しながら、
「寺門院長が嘘をついていたようには見えない。だからこそ、この記事がフェイクニュースだとは思えない」
寺門院長は本当に、地域住民を思いやる素晴らしい院長なのだろう。
「なら、流れ星きらりは、良いお医者さんを閉院に追い込んだってことになるよね」
「ああ」
「なんでさ」
「それは……うーん」
ミコトと二人して考え込む。
「全然わかんないね。もう、手がかりなんてないんじゃない」
「確かにな」
カケルはもう一度記事に目を通す、末尾には、記事を書いた記者の名前が書かれている。
「この記事を書いた人にあたってみるのはどうだ」
「ああ、実はね、その記事を書いた人、なくなってるんだよ」
「なんだって?」
「別にそんな物騒なものではないから。元々持病がある人だったらしくて、少しずつ悪くなっていって、最後は家族に見守られながら、死んだって」
「そうか」
聞いたところ、事件性は低そうだ。今から調べていくほどの価値はないように思える。念のため、頭に入れておこう。
考えあぐねていると、不意にポケットに振動を感じた。携帯を取り出して、画面に表示されている人物の名前にはっとした。
電話の発信者には「平田」となっていた。
カケルは慌てて、携帯を耳にあてた。
「もしもし、平田さんですか」
『ああ、早瀬さん、すぐに連絡できなくてすみません』
携帯越しの平田は思いののほか元気だった。
『この前、きらりちゃんの事語りたいって話したじゃないですか。それ、改めてどうかなって思ってるんですけど』
今は、呑気にいライブの感想を言い合っている場合ではない。とはいえ、無下にするのも気が引ける。
「そうですね、機会があればまた」
「良ければこれからどうかなと思っって」
「こ、これからですか」
余りに唐突な話に面食らう。
「ええっと……今はちょっと、出先でして」
「そうなんですか」
平田は一瞬、不自然に言葉を切ったかと思うと、
「あまり、そうは見えませんけど」
「え」
どきりとして、慌ててあたりを見回す。それらしき人影は見えない。
カケルが言葉を失っていると、電話の向こうで平田が小さく笑うのが聞こえた。
『あれ、もしかして図星でした。やだなあ、適当に言ってみただけですって」
「そ、そうなんですね」
辛うじてそう答えるが、カケルの心拍数はまだ上がったままだった。
「でも、その様子だと大丈夫そうですね。だから、ぜひ早瀬さんの知らないきらりちゃんの話、たくさん教えられるはずです」
鼓動を落ちつけながら、カケルは考える。
きらりのことをよく知る平田と話をすることで、今の煮詰まった状況が変わるかもしれない。
「わかりました。お願いします」
「ありがとうございます。場所なんですけど、すごくいい喫茶店を知ってるんです。○○駅の……」
「は、はい」
(こんなに強引なひとだったか?)
カケルはなんとかメモし、通話を切った。
意図しないところではあったが、とりあえずまた一つやるべきことができた。
携帯電話で、指定された場所を検索しながら、ミコトに話しかける。
「この前ライブであった人から話を聞くことになったから。一旦ここで解散にして、ミコトはオルビスに戻って……ミコト?」
返事がないので、あたりを見渡す。
ミコトは既に、子供たちとの遊びに戻っていた。
「あいつ……やっぱ仕事してねえだろ」
カケルは今日何度目かわからないため息をつく。ミコトの携帯にメッセージを残しながら、駅に向かって歩き出した。歩きながら、平田との電話を思い返す。
どこか、違和感の含みのある平田の言動が、頭に残ったままだった。




