アイドル記者④
その後も、しばらく町の住人に聞き込みを行った。10人に話を聞くことが出来たが、その内容は全てメディホに対する悪評だった。誰もが協力的なのも相変わらずだった。
情報が集まっていくにつれて、カケルの胸中に巣食うう疑問はむしろ強まっていく。
もやもやを抱えたままオルビスに戻り、シュウに報告する。
「なるほどな。こっちも3人に話を聞いたが、やはり同じ感じだ」
「……そうか」
シュウの取材如何では、住人たちを疑わなくてもよくなった可能性を期待していたが、生憎そうはならなかったようだ。
「つまり、どっちかが間違ってるってことよね」
カケルの落胆は、ミコトによって言語化された。
(ついこないだも、なんだか同じようなことがあったような)
カケルは記憶を探るが、靄がかかったように判然としない。
カケルが取材した双方は、自分の言ってることに一切の疑いを持っていないようだった。それによって、どちら信じるべきかわからなくなった。
その時と、同じことが起きている。
スナックの店主の女性や、サラリーマンの男。シュウが聞いてきた社員。どちらかが嘘をついている。
「そういえば、カケルなんか気にしてなかったっけ」
「ん?」
ぼんやり考えている所に、ミコトに水を向けられる。
「なんだっけ」
「もう、ぼうっとしないで。なんか『上手くいきすぎていて怖い』みたいな」
「ああ」
「どういうことだ?」
シュウは興味深げに問いかけられて、カケルは先ほどの取材の記憶を探る。
「話しかけた人が全員、話を聞いてくれたんだ。普通なら、急いでたり、取材が嫌いだったりで断られるものだろ?そういうのが全くなくて、全員が対応してくれた。それに」
シュウは口を挟むことなく、促すような視線をカケルに向けていた。
「全員がメディホに関する有益な情報を話してくれた。一企業に対して、適当に話しかけた人全員が答えられるなんておかしいと思わないか?」
「確かにな」
シュウはほとんど即答で答える。
「改めて言われると、なんか変な感じはするね」
ミコトも同意する。2人の後押しもあって、作為的なものはほとんど確信に至っていた。
「とはいえ、じゃあ、どうするのって感じだけどね」
「え?」
「だってこれ以上聞いても、お互い自分にとっての真実を話すしかないよね」
「まあ、確かに」
まさか、「嘘をついてませんか?」と聞くわけにもいかない。仮に聞いたところで、肯定する人間がいるはずがない。
「うーん」
再び、3人して考え込む。
情報は集まっているが、決定的なものを掴めずに詰まってしまっている。
何か案はないか考えていると、おもむろにシュウが口を開く。
「一つ、気になった事がある」
「え?」
「話を聞いた社員のうちの一人が言ってるんだが、最近同業者が同じ目に合ってるらしい」
「そうなの?」
「ああ、名前は……」
シュウがいくつか企業名を挙げると、ミコトが席にもどりキーボードを打ち始める。カケルとシュウは背後からそれを見守る。
1つ目の企業のページをクリックすると、
「閉業のお知らせ……?」
大文字でそう書かれた文章の下に、ご愛顧を感謝する意の短い文章が添えられている。日付は2カ月前と新しかった。
「結構最近だな」
「他の企業はどうだ?」
ミコトが2つ目、3つ目と調べていく。そのどれもが、すでに閉業していた。
「これって……」
ミコトが言いながら、パソコンを操作する。
閉業のページの日時と、きらりの投稿のページを行ったり来たりする。引き継ぐように、シュウが言葉を発する。
「恐らく、きらりの報道によるものだろうな。時期を考えると偶然で説明がつかない」
シュウのいう通り、きらりのネガティブな投稿と閉業の日時のタイミングがそれぞれ一致している。
「ミコト、メディホの株価を開いてくれ」
「あい」
まもなく、メディホの株価を表す折れ線グラフが映し出される。ある一点を境に、ほとんど垂直に下降していた。
「うげ、これはひどい」
「メディホも遅かれ早かれ同じことになるだろう」実際に、きらりの報道があってから、株価が一気に下がっている」
きらりによって、医薬品会社が倒産に追い込まれている。この事実を、カケルはどう扱えばいいのか考えていた。
実際にライブに行って盛り上がったカケルからすると、きらりが医薬品企業とは接点がない世に思えた。そもそも、きらりの主な投稿は、化粧品のPRなどポジティブな内容で、この医薬品企業に対するネガティブな投稿はむしろ異彩を放っている。
(個人的な恨みがあるのか?だが、一個人がこんな多くの会社に恨みを持つだろうか?化粧品のPRを断られたとか?それでも、閉業まで追い込むのはやりすぎだ)
いくつか仮説を立てるが、どれもピンとこなかった。煮詰まっていると、不意にミコトが口を開いた。
「つぶれた会社さ……どれも全部近くにある会社みたいだよ」
ミコトのPS画面上ににピンが数本並んでいる。その中にはメディホの名前もある。
「これ、俺たちが取材した場所の近くってことだよな」
「そうだね。まあ、近くって言っても大体1,2駅くらいは離れてるけどね」
「それは気になる……町の人の話を聞いて、何か気づいたことはなかったか?」
カケルは取材でのやりとりを思い出す。
違和感はあるものの、それぞれの話自体におかしなところはなかった。
完璧な内容。それ以外は、何も――。
「あ」
「どうした、カケル」
「いや、大したことじゃないんだけど」
「言ってみてくれ」
「階段を大変そうに上っているおばあちゃんがいて助けた」
「おお、善い行いだな。さすがは俺の弟」
「遠くの病院で薬が足りなくなったからきたって、かなり足が悪そうなおばあちゃんだったんだよな」
シュウはカケルの話を聞いて、口元に手をやる。何も言葉を発さず、ミコトもその様子を見守っているので、不意に沈黙が訪れた。
カケルは居心地が悪くなってたまらず、
「さすがに、関係ないよな」
「いや、そうでもない」
シュウが言った。
「社員の話の中で、薬を届けられなくてつぶれてしまった医院ってのがあるって話が出たんだよな。院内処方をやってるような医院はほとんどないから、もしかしたら同じ医院かもしれない」
「その医院の名前はわかるか?」
「『寺門医院』っていってたな」
小さな情報にもかかわらず、具体名までしっかりと抑えている兄に、カケルは感心する。
目の前で、ミコトが地図上で病院を検索する。地図の中央にピンが立った。
なんとか、方向性は見つかった。
「この医院に聞き込みに行く」
「ああ、頼んだぞ、カケル、ミコト」
ミコトがPCの電源を落としたのを確認して、カケルは出口に向かって歩き出した。




